ムラタのむねあげっ!~君の居場所は俺が作る!異世界建築士の奮闘録~

狐月 耀藍

文字の大きさ
447 / 785
第四部 異世界建築士と幸せの鐘塔

第421話:君の未来に責任を(1/2)

しおりを挟む
 いつもの朝のルーチン――ラジオ体操と乾布摩擦。いつもは一人で行うのだが、今日は違った。

 一生懸命、俺の目の前で、見よう見まねでラジオ体操をしている少女がいる。
 体を大きくねじったり反らせたりするたびに、鏡で映したように、だが似て非なる動きをしているそいつは、昨日から俺の弟子になったリノ。

 朝食の準備をしているリトリィたちの手伝いをしていた彼女は、俺が朝のルーチンを始めるのを見てこっちについてきたのだ。「ボク、だんなさまの弟子だから!」だそうである。

 昨日は勢いで俺の弟子になれ、と言ってしまったが、弟子といっても俺が教えられる技術など無い。大工の技術なら、急仕込みだったとはいえマイセルの方が俺の何倍も優れた大工だ。彼女の親であり、この街有数の大工の親方でもあるマレットさんに仕込まれた技術は、俺なんかよりもはるかに確かなものだ。
 
「それじゃ、リノは俺の弟子じゃなくてマイセルの弟子ってことになるよなあ……」

 別にそれでリノとマイセルと仲良くなってもらえればありがたいんだけどな。

「だんなさま! ボクのこと呼んだ?」
「……だから師匠と呼べって」
「ハイ! それでだんなさま、ボクになんの用?」
「……今の元気な返事の中身はどこにいった」

 それにしても、「おれ」が「ボク」に変わっただけで、ずいぶんと丸くなったように聞こえるから不思議だ。

 本人は一生懸命リトリィの真似をしてなのか、自分のことを「わたし」と言おうとしていた。だが馴染んでいないせいだろう、つい「おれ」と言いかけてしまうからその度につっかえていたし、「わたし」という言葉だけが丁寧であとはぞんざいな言葉遣いだったから、どうにも違和感が凄まじかった。

『そんなに「わたし」が言いにくいなら、「僕」だったらどうだ?』

 リノは首をかしげたが、「わたし」よりはよほど口にしやすかったらしく、すぐに馴染んだ。

『だんなさま! ボク、「ボク」でいい?』

 すると不思議なもので、「おれ」と言わせていると可愛らしい顔でひどいギャップがあったし、「わたし」という人称とぞんざいな言葉の組み合わせではこれまた凄まじい違和感があったのが、「ボク」と変わるだけで「ボーイッシュな女の子」に早変わりしてしまったのである。
 なんとも奇妙な気分だったが、まぁこれはこれでアリなのかもしれない。

「だんなさま!」
「……だから師匠と呼べって」
「ししょー。あのねあのね? だんなさまは大工なんだろ?」
「だから……。まあいい。俺の仕事は『建築士』。基本的には、建物の作り方を紙に書いて、大工さんにそれを造ってもらう仕事なんだ」

 リノが俺の真似をしながら首を傾げた。

「ケンチクシ?」
「そう。建築士。この街には、おそらく俺一人だけしかいないだろうがな」
「え? だんなさまのお仕事って、だんなさましかしてないの?」
「この世界――街だと、大工さんが図面を作って、その図面通りに自分で建てるみたいだからな」

 そういえば、この世界にやってきて初めて出会った山の鍛冶師ファミリー。俺の「建築士」という仕事を、ついに理解してくれなかったな。
 図面を引くなら当然自分で建てるだろう、図面だけ引いてあとは大工に任せるなんて職人の風上にも置けない、といった扱いだった。特にアイネのやつが。

「ね、だんなさま! ボクもなれる? ケンチクシ」
「なんだ、リノは建築に興味があるのか?」
「わかんない!」

 俺の真似をして、俺の正面で体を大きくねじりながらぐるりと回転させる。
 ワンピースの隙間から、ふくらみはじめた胸の、その尖端がちらりとのぞく。

 ――なんでこう、そういう瞬間だけ目に焼き付くかな。

「わかんないけど、ボク、だんなさまの弟子になるんでしょ? だったらボクも、ケンチクシになるのかなって!」

 くるりと身をひるがえす。
 大きく跳ね上がったしっぽのせいで、ワンピースのすそが大きくめくれ上がる。

 ……この澄んだ冷たい空気の中でワンピース一枚。
 小ぶりなおしりがあらわになるのもまったく気にしていない。

「寒くないのか、おまえは」
「んう? 寒いけど、だんなさまだって上はボクと同じで肌着一枚だろ?」

 ……だから、毛の一本も生えていない下半身を丸出しにして、平然とにこにこしてるんじゃない。少なくとも俺は、ちゃんとズボンをはいている!

「毛? そんなのどこに生えるの? しっぽのこと? しっぽならふさふさだよ?」

 ……後ろじゃない。



 朝食のあと、俺は子供三人を連れて、昨日と同じ現場に向かった。マレットさんが、笑顔で右手を上げて挨拶をしてくる。ヒッグスとニューとリノも、右手をめいっぱい高く上げて元気よく挨拶を返した。

「だんなさま! 今日のおべんと、おいしいかな! ボクたのしみ!」
「何も始めないうちから弁当の話をするな、せめて腹を空かせてからにしろ」

 リノが腕にぶら下がるようにしてきゃいきゃいとはしゃぐ。

「……なんだ、ムラタさんよ。昨日と違ってそこの嬢ちゃん、妙になついてるじゃねえか」
「うん! ボク、だんなさまのお嫁さんになる――」

 昨夜、リトリィが彼女をひっつかんでキッチンの奥にダッシュした時の気持ちが、今はよく分かる。なぜなら俺も今、リノの襟首を引っ掴んで建物の影に走り込んだからだ。

「……いいか? そーいうことは、俺とリノの二人きりの時に言うならともかく、外では絶対に言うな」
「どうして? ボク、なにか変なこと言った?」
「俺が、いずれリノを迎え入れること自体は変じゃない。だが、今のリノはまだ、十一歳だ。そういう話をするには早すぎる。まして今の相手はマレットさんだ、絶対に口走るな」
「どうして?」
「マレットさんは、マイセルの父親だからだ」

 俺の言葉に、リノは不思議そうに首をかしげた。

「……マイセル姉ちゃんの、お父ちゃん?」
「そうだ。マイセルは、あのマレットさんの娘さんだぞ」
「おっちゃん、マイセル姉ちゃんのお父ちゃんだったのか」

 リノは目を丸くした。

「知らなかった! 全然分かんなかった! だって似てないもん」

 実に素直なリノに、俺は思わず苦笑してしまう。

「そんなこと、間違っても言うなよ? マレットさんが泣くぞ」
「どうして?」
「どうしてって……」

 一瞬言葉に詰まるが、すぐに思い直す。

「そりゃ、親だったら子供には似ていてほしいって思うものだろう」
「だんなさまも、赤ちゃんは自分に似ててほしいって思うのか?」
「当たり前だろう? 愛する人との間に生まれる我が子だ、相手に似ているのももちろんだが、自分にだって似ていてほしいさ」
「そうなんだ……」

 リノは少しだけ考えるそぶりを見せたが、すぐに満面の笑顔で俺を見上げた。

「じゃ、ボクが産む赤ちゃんも、だんなさまに似てたら嬉しい?」
「お、お前な……! 急にとんでもないことを言うな!」
「どうして? ボク、だんなさまのお嫁さんになるんでしょ? じゃ、だんなさまが、ボクに赤ちゃんを産ませるってことでしょ?」

 ……それはそうだ。確かにそうなんだ。だがこのちんまい小娘が言うと、破壊力がありすぎる! 主に俺の社会的信用に対しての!

「そういう話をするには、お前はまだ幼くて早い」
「どうして? ボク、十一だよ? あと一年もすれば、ボク、きっと赤ちゃんを産めるようになるよ?」
「赤ちゃんを産めるとかそういう問題じゃない。そういう話は、結婚してから!」
「結婚なんてなんて関係ないよ?」

 リノは衝撃的な言葉を、にこにこしながら続けた。

「オトコノコなら十五まで待たなきゃ認められないけど、オンナノコはいくつだって関係ないから。オトコノヒトがにするって決めたなら、オンナノコは言うこと聞かなきゃ――」
「俺は!」

 思わず、それ以上を遮ってしまった。
 男性が愛人にと望めば、女性は何歳だろうと要求に応えなければならないだって?
 裏街の――かどうかは知らないが、そんな破滅的な倫理観を、俺たちの家庭に持ち込んでたまるものか!

「言ったろ、俺はめかけなんてとらないと!」
「だ、だんなさま……」
「昨夜も言った! 俺は君の未来に責任をもつ! そばに置く以上、君のことはいずれ必ず妻に迎える!」
「ほお……? 立派な心掛けだが、まずウチの娘を孕ませてからにしてくれると、ありがてえなあ……?」

 ……背後からの言葉に、俺は総毛立つ。

「ま……マレット、さん……? い、いつから……?」
「だんなさま、マレットさん、さっきからずーっとそこにいたよ?」
「そうだな……あんたが『子供は似ていた方が嬉しい』とか言っていたあたりだったか」

 ギャース! ほとんど最初っからじゃないですかっ!
 リノも、知っていたなら教えろッ!!

「というかあんた、自分が翻訳首輪をつけてるってこと、もっと自覚したほうがいいぞ? 十五、六尺(約五メートル)ほどは、あんたの言葉はだれにでも筒抜けなんだからな? たとえばこの家の、壁の向こうの住人にも、だ」

 ……なん、だと……?
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...