ムラタのむねあげっ!~君の居場所は俺が作る!異世界建築士の奮闘録~

狐月 耀藍

文字の大きさ
449 / 785
第四部 異世界建築士と幸せの鐘塔

第423話:一人ひとりに意味があるから

しおりを挟む
「可愛いお弟子さんができましたね」
「……マイセル、それは皮肉か?」
「さあ、どうでしょう?」

 くすくすと笑うマイセル。

「うちのお父さんに言われたんでしょう? 慈善事業もいいけど、はやく私に孫を産ませてくれって」
「……うん、まあ……」
「前の月のもの・・・・はいつだったか、だなんて。どうしてそんなことを聞くんだろうって思っちゃいました」
「い、いや……。リトリィは藍月の夜だから分かりやすいけど、マイセルは、その……子作りをするのに一番いい日ってのが、分かりにくいからさ」

 マイセルは目を丸くし、そして笑った。

「それがどうして、もっと少し早く、につながるんですか?」
「……いや、いいんだよ。ちゃんと毎日、子作りはしてるんだから」
「でもムラタさん、もっと早く聞いておけばって、なんだかがっかりしてました」

 マイセルが小首をかしげる。

「……いや、その……。生理月のものが三十日くらいで来る場合、それが始まる日から確か数えて十四、五日目あたりが、子作りに一番いい日、だった気がするからさ」

 マイセルもリトリィも、目を丸くする。

「……そうなんですか? 初めて聞きました。お姉さま、聞いたことあります?」
「いいえ? だんなさま、なにかのおまじないですか?」
「まじないじゃなくて……。月のもの・・・・ってのは、女の子が子供を作るための準備みたいなものなんだ。それが終わって、ええと……卵子たまごがちょうど出てくるのが、それくらいで……」
「たまご?」

 二人ともお互いの顔を見合って、そして真剣な顔で、俺に向き直る。

「だんなさま、たまごなんてわたし、産んだことありません」
「私もです。ムラタさん、たまごを産むのは鳥ですよ?」
「……ええと。ほら、俺がその……出すアレも、『子種こだね』っていうだろ?」

 二人そろって頷く。

「はい、だんなさまのお種ですね」
「当然じゃないですか」
「……まあ、それと同じでさ。たまごっていっても、殻がついたやつを産み落とすんじゃない。ええと、目に見えないくらい小さい、が出てくるのが、その日なんだよ」

 それを聞いて、マイセルが目をまん丸にした。広いベッドを、きょろきょろと見始める。

「……私、毎月、目に見えないくらい小さな卵を産んでたんですか? だったら、ベッドのどこかにその卵があるってことですか? わたし、まさか、いままでずっと潰しちゃってたっていうこと……!?」
「……そういうわけじゃなくて」

 とは言っても、俺だって別に大した知識があるわけじゃない、保健体育で勉強した聞きかじりの知識しかない。中高生の時の知識をフル動員して、生殖の仕組みをなんとか説明した。

 ……もちろん、異世界人の俺とマイセルは、見た目や機能が似通っているというだけで、遺伝子の構造がまるで違う恐れがある。
 というか、リトリィと俺じゃまるで違うはずだから、そもそも受精しても発生すらしないはずなんだ。

 だが、瀧井さんはちゃんとペリシャさんに子供を産ませている。だから、間違いなく混血可能なわけだ。

 そういえば百年前の賢者とあがめられている『頼人らいと』とかいう日本人は、青く光るたてがみをもつ巨大な狼――魔狼に子供を産ませていた。
 種を越えて子供ができるなんて、改めて思うが、まるでおとぎ話の世界みたいだ。

「では、マイセルちゃんの次の月のもの・・・・が始まるのがいつか、ちゃんと記録しておかないといけないですね」

 そう言って、リトリィがサイドテーブルの中に入れてあった裏紙に、何か書きつけ始める。

「マイセルちゃんが次の月のもの・・・・が始まったら、十四日あとのふたは、マイセルちゃんの子作りの夜……と。だんなさま、この日はマイセルちゃんをいっぱい可愛がってあげてくださいね?」

 そう言って、その紙を壁にピン止めした。それを見てマイセルが、なにやらひどくうろたえる。

「お、お姉さま、いいんですか? 本当に私が、二夜も続けてムラタさんの……」
「いいんですよ。いつも藍月の夜は、ゆずってもらっていますから。それより、だんなさまのお話の通りなら『青い月の夜がヒトの子作りの夜』というのは、ただの言い伝えだったのかもしれませんね」
「……そうかもしれないが、言い伝えられているってことは、何かしら意味があるんだろう。ただの、なんて決めつけずに、参考にはしてもいいんじゃないかな」

 俺の言葉にリトリィは小さく笑うと、そっと俺の隣に身を寄せた。

「……そうやって、いつもあなたは、かんたんには切り捨てたりしないんですね」
「切り捨てるというか……。ほら、どんなことにだって意味はあるだろう? 簡単に要らないと捨てるんじゃなくてさ。ひとは何からでも学べることはあるし、この世のあらゆるものは、意味があって生まれてくるものだから」
「生まれてくる意味……ですか?」

 マイセルが、上目遣いに聞いてくる。そういえばマイセルは、女に生まれついてしまったことを理由に、一時期、大工になる道を諦めようとしていたんだったか。大工の子として生まれてきた意味を、見失いかけていた。
 それを俺が、大工の道に引っ張り込んだ。今じゃ、俺の右腕だ。

「そうさ。この世のありとあらゆる全てのことには、みんな意味があるもんだ」

 ひとはもちろん、鳥も獣も、魚も虫も。木も草も、天も地も、水も風も。
 命あるものも、そうでないものも。
 人が作ったものも、自然にあるものも、すべて。

 中学の時に死んだおふくろがよく言っていた。だからこそ、全ての出会いに感謝をしよう、と。

「――もっとも、俺はまだ、とてもそこまでは悟れていないけどな」

 そう言って笑ってみせた俺に、リトリィは微笑み、そして頬にそっと舌を這わせてきた。

「……だからだんなさまは、あの子をおそばに置くことにされたのですか?」
「あの子? ――ああ、リノ、か……」
「はい。あの子と出会ったことに、意味をみつけたんですか?」

 出会った意味、か。
 そんな深い考えがあったわけじゃない、ほだされた・・・・・だけだ。
 本当に愛する者がいるはずなのに、彼女の過酷な過去に、つい、同情してしまっただけだ。

 ――でも、見捨てられなかった。
 あいつらを何とかしてやりたかったんだ、俺は。
 ただ、そのために必要なリソースが俺には足りない。

 足りないけど、
 あいつらの泥棒行為が縁の発端ほったんだけど、
 それでも、関わってしまったんだ。
 君が作る飯を、あんなにも美味そうに、幸せそうに食うあの子らが、すこしでも幸せに、生きていけるように。

「……実際にリノが建築士になれるかどうかは別だ。でも、目標がある奴は、なにがあっても踏ん張れるからな」
「しあわせになれるように、あなたが手を引いてあげる、ということですか?」
「申し訳ないが、俺には無理だ。……俺一人の手では、な」

 そう言って二人を抱き寄せる。

「二人には、みんなで幸せになる――そのための基礎を積み上げる、その手伝いを頼みたい」
「基礎、ですか?」

 マイセルが頬を染めて見上げた。その髪に、そっと指を滑らせる。

「ああ、基礎だ。土台がしっかりしてこそ、建物は建つ。幸せも同じだ。いろいろと足りない俺のことをしっかり支えてくれている二人がいてくれるから、俺は立っていられる。だから、あの子たちも――」
「生まれてきた意味を――幸せをつかめるように、ということですね」
「……そういうことだ。頼む、二人とも」
「そういうことでしたら」

 うなずくリトリィ。

「わたしたちも、がんばりますね? ね、マイセルちゃん」
「はい、お姉さま」

 目くばせする二人に、俺はホッとして――

「ただし、だんなさま? そのぶん、もちろん、ごほうびをいただけますよね?」
「……ごほうび?」

 リトリィとマイセルが、いたずらっぽく目くばせし合う。

「はい。わたしたちも、しあわせになりたいです。いま、すぐに」
「生まれてきた意味を、悦びを味わわせてください、ムラタさん」

 直後に、俺の体は二人がかりでベッドに押さえつけられた。
 そして、二人がかりで搾り取られた。
 徹底的に、朝まで。



「ねえだんなさま? 今朝はなんで、そんなに腰に力が入ってないの?」
「……師匠と呼べ。子供はまだ知らなくていいんだよ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...