ムラタのむねあげっ!~君の居場所は俺が作る!異世界建築士の奮闘録~

狐月 耀藍

文字の大きさ
494 / 785
第四部 異世界建築士と幸せの鐘塔

第467話:公認の関係

しおりを挟む
「今はそれで、十分ですから」

 フェルミの言葉に、しかし俺は首を振ることしかできなかった。

「……言っただろ。俺は家族を守りたいって。恋人を認めてしまったら、リトリィになんと言えばいいんだ」
「そう言うと思ってました」

 フェルミは笑った。
 笑って、とんでもないことを口走った。

「だから今日、ムラタさんのおうちに行って、リトリィさんとお話してきました」
「ってぉおおいっ!?」

 家庭を壊さないって話じゃなかったのか!? いきなり何やってんだこいつ!

「ほら、戦いが終わったあと、一度、ムラタさんのおうちに行きましたよね?」

 ああ、来た。あの時のリトリィの敵対的な反応があったから、俺は――

「あのとき、リトリィさんとはもう、お話をしていて。それで今日はいくつか、あらためて約束をしてきたんです」
「や、約束……?」
「はい」

 これは、ムラタさんにもしっかり伝えてほしいと言われたんですけど――フェルミはそう言って微笑むと、指折り数えながら、その約束とやらを挙げ始めた。

「えっと、リトリィさんが認めたとき以外、私は基本的にはおうちには入らない。私が『日ノ本ヒノモト』のうじを名乗ることも、基本的には認めない。――つまり、私がムラタさんの正式な妻になることは、基本的には認めない。これがまず前提ですね」

 ……まあ、そうだろうな。リトリィからしてみれば当然の要求だ。
 そう思ったら、次からがぶっ飛んでいた。俺は、あんぐりと開いた口がふさがらないままに、それを聞いた。

「子作りはムラタさんの無理のない範囲で、私の家か、今後ムラタさんが与えてくれる家ですること」
「はあっ!?」

 いきなりの展開に俺は目を剥いた。
 俺とフェルミでの子作りを黙認するってこと!?
 え、ちょっ……聞き間違いじゃないよな!?

「ええ、認めてもらえました」

 涼しい顔で、微笑みすら浮かべながら続けるフェルミ。

「それと逢引きは、子作りも含めて必ず明るいうちに済ませて、夕食までにはムラタさんを家に帰らせること。逢引きや子作りをしたら、次の日でいいから必ず報告しに来ること――それが、私がムラタさんのオンナを名乗ってもいい条件だそうです」

 ハンマーでぶん殴られたような衝撃だった。
 あのリトリィが、俺とフェルミとの交際を、体の関係込みで認めただって!?
 到底信じられず、しかし衝撃が大きすぎて声が出ない。

「あ、それから仕事帰りにこっち・・・に寄るのはいいけれど、職場とか道中とかじゃなくて、ちゃんと家のベッドまで我慢させてから、ですって」

 それもだんなさまのしつけの一つだそうですよ――くすくす笑いながら言うフェルミ。だんなさまへの躾――確か、ナリクァンさんがそんなようなことを言っていたはず。……ということは、フェルミの言葉は本当だってことなのか!?
 ていうかリトリィ、ベッドまで我慢させろってなんだよ! 俺は節操なしのケダモノだってことか!? 断じて違うぞ、俺は節操あるケダモノですっ!

「ふふ、お姉さま・・・・ってすごく強いひとですね。わたしもこんな条件でムラタさんとお付き合いを許してもらえるなんて、思ってませんでした」
「……『お姉さま』?」
「あ、はい。これはマイセルからの条件だったんですけど、リトリィさんのことは、今後、身内の中では『お姉さま』と呼ぶようにって」

 ――おい。マイセルもなんという条件を。第一、フェルミの方がリトリィよりも年上だろう? ていうか、もうコレ、フェルミがリトリィたちと話し合いをしたの、確定じゃねえか。

「だから本当のことですって。それからお姉さまと私、どっちが年上かなんて、そんなこと、どうでもいいんです。マイセルは、立場をわきまえてって言いたかったんでしょうね。あ、あともし子供が出来たら――」

 子供!
 これはリトリィがどういう判断を下したのか――思わず、息が詰まる。

 フェルミが、いったん深呼吸をした。
 今度は、彼女自身も信じられないと思うことを伝えるかのように。

「子供は、産んでいいそうです」

 ひとまず、大きく胸をなでおろす。

 もちろん、フェルミが獣人族ベスティリングでそもそもヒトの俺とはできにくいことに加え、年齢が二十五。『二十歳を超えた獣人は妊娠しない』という俗説も相まって、俺との間ではまず子供はできないだろう。
 それでも、フェルミの持つ可能性を肯定してくれたリトリィに、まず感謝の念が湧き起こる。他人の幸福を呪うような性質ではないと分かってはいたけれど。

 だが、その先にこそ、リトリィの想いが詰まった条件が並べられていた。
 それこそ、本当に胸が詰まる思いで、俺はそれを聞いた。

「子供はもちろん、私の体も大事だから、最低でも臨月あたりから乳離れするくらいまでは、ずっと家に来るようにって。一緒に子育てさせてほしいって」

 フェルミは「あと、私はこれが一番嬉しかったんですけど」と前置きをした上で続けた。
 ランプの明かりのせいばかりではないだろう、語る彼女の頬は、紅潮して見えた。

「リトリィさんは、ムラタさんがきっと望んでいるから、とおっしゃってました。子供は『日ノ本ヒノモト』のうじを名乗らせていいし、私の子として育てていいと。ムラタさんの――あなたの子を、あなたの子として産んで、私の手で育てていいって、リトリィさんは認めてくれたんです」

 フェルミの目から、雫がこぼれ落ちる。

「本当に、嬉しかった。マイセルが『お姉さま』って懐くのも、分かる気がします。――リトリィさんがあなたの奥さんで、ほんとによかった」



「これから、来ますか?」

 西門前広場――このまままっすぐ向かえば家に着き、北に向かえばフェルミの家、という場所で、フェルミが俺の腕を取った。

「……返事の内容が分かってて聞いてるんだろ?」
「それでも、聞いてみるまでは結果なんて分かりませんから」

 俺はそっと、その手を外す。

「今日は、やめておく。リトリィの話も聞きたいしな」

 第一夫人に認められた公認の恋人関係――フェルミとの仲は、そうなったと言えるだろう。
 でも――いや、だからこそ、リトリィの想いをじっくりと聞いて、彼女の認識とのズレがないようにしなければ。

「やっぱり、そうですよね」

 フェルミは体を寄せると、目を閉じて背を伸ばしてきた。
 抱き寄せ、唇を重ねる。

「……おねだりが上手くなったもんだ」
「リトリィさんに聞きましたよ? ムラタさんは、リトリィさんと知り合うまで、経験がなかったって」

 ぅおーいリトリィ! それは俺の個人情報ですっ! 個人情報保護に関わるコンプライアンスがなってませんよ奥さんっ!

「誰でも最初はそんなものだから、これからムラタさんにいっぱい染めてもらって、みんなで上手になりましょうねって、お姉さまに言ってもらえたんですよ、私」

 いや、誰だって最初は下手だろうし、何事も練習した上で、それから上手に――
 ……ちょっとまて。俺に染めてもらって上手にって、何を、どう上手になれっていう話なんだ?

「あ……な、なんでもないですっ! え、えっと、ほんとに、なんでも……っ!」

 急に慌てだすフェルミをつかまえて問いただすと、リトリィとマイセルと三人で、男性への奉仕の仕方について、をやったんだとか。
 ……うちの寝室で。

 ぅおーいリトリィ!
 ちょっと待てーい!
 お前またやったな!?

「お、お姉さまは悪くないですよ! ムラタさんの好きな体位とか服装とかも勉強できたし、ベッドの上では少しいじわるだとか、でもそれは可愛がってもらえてる印だとか、それからそれから……」

 リトリィ!
 業務上知り得た情報の秘匿に関するコンプライアンス、コンプライアンスはどこにッ!!



「おかえりなさいませ、あなた」

 俺の鞄を受け取りながら、リトリィがそっと、身を寄せる。
 いつものように抱き寄せ唇を重ね、そして気が付いた。

 玄関で俺を見送り、そして迎えるのは、いつも、彼女だということに。

 妻二人の間で、そこは役割分担をしているのだろう――今までずっと、それで済ませてきた。

 でもそれは、マイセルとはその分のキスをしていないということ。

『マイセルにもちゃんと、「君は特別な人だ」って言ってあげてます?』

 フェルミの言葉がよみがえってくる。

「……マイセル、いるかい?」
「はい、ムラタさん。おかえりなさい」

 キッチンの奥からぱたぱたとやってきたマイセルにただいまを言うと、彼女を抱き寄せ、そして唇を重ねた。

「む、ムラタ、さん……?」

 驚くマイセルに、俺は、リトリィのほうにも目を向けながら、これからはリトリィと二人で見送りと出迎えをしてくれないか、と頼む。

「二人の手が空いていれば、でいいんだけど」

 マイセルが、やや不安げにリトリィのほうを見る。
 リトリィは、特にためらう素振りも見せずに微笑んでみせた。マイセルが、うれしそうに飛びついてくる。

「……だんなさま! ボクボク! ボクもするよ! 『おかえりなさいませだんなさま』!」

 いつのまにか、リノもやってきてぴょんぴょんしている。やや棒読み口調で、でも元気いっぱいに。

 さすがにリノの口にキスするのはためらわれたので、おでこにキスしてやる。それでも特別扱いと受け止めたようで、リノも満面の笑顔で飛びついてきた。



 今回のことで気づかされたことが、また、いろいろあった。
 本当に俺は、周りの人に気づかされてばかりだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

異世界カフェ食堂で皿洗いをしますと思ったら日本料理を創造する力が与えられていた!(もふもふ聖獣猫のモフにゃーと楽しく日本料理を創造します)

なかじまあゆこ
ファンタジー
可愛いもふもふ達とアリナは異世界でスローライフをします。 異世界召喚された安莉奈は幼女の姿になっていた。神様に与えられた能力を使い眷属聖獣猫モフにゃーや魔獣のライオン魔獣鳥に魔獣の日焼けとお料理を創造します! 熊元安莉奈(くまもとありな)は黄色のバスに乗せられ異世界召喚された。 そして、なぜだか幼女の姿になっていた。しかも、日本の地球人だったことを忘れていたのだ。 優しいモリーナ夫妻に養子として引き取れた安莉奈はアリナになった。 モリーナ夫妻はカフェ食堂を経営していたが繁盛しておらず貧乏だった。料理が出来ないアリナはお皿洗いなどのお手伝いを小さな体ながらしていたのだけど。 神様から日本料理を創造する力が与えられていた! その力を使うと。 地球では辛い生活を送っていた安莉奈が異世界ではアリナとしてお父さんに激愛され幸せに生きている。 エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...