ムラタのむねあげっ!~君の居場所は俺が作る!異世界建築士の奮闘録~

狐月 耀藍

文字の大きさ
670 / 785
第六部 異世界建築士とよろこびのうた

第635話:出産はどこで、どうやって

しおりを挟む
 今夜は雲がかかっていて、あいにく月の明かりはほとんどない。けれど、珍しくマイセルもフェルミも起きていて、だからとても大変な──もとい! とても幸せな夜を過ごしたのだが。

「抱き枕……ですか?」

 マイセルが不思議そうに首をかしげた。

「ほ、ほら! 覚えてるか? ミネッタさんのお産のとき! あのとき、俺はミネッタさんのお産の場面に少しだけ立ち会ったんだが、そのときにミネッタさんが抱えていた、大きな枕みたいな──」
「ああ……!」

 マイセルが、納得がいったような顔をした。

「ムラタさんが言ってるのは、ひょっとして産枕うぶまくらですか?」
「ええと……ああ、多分それだと思う」
「それなら、もう準備してありますよ? ほら、これです」

 そう言って、マイセルは枕に使っていたクッションを手にした。
 さっきまで、彼女が俺のものを背後から受け入れる際に抱きかかえるようにしていた、大きなクッション。

「……え? それ?」
「はい! ね、フェルミちゃん」

 マイセルの言葉に、フェルミもすました顔で、同じような大きなクッションを手に取る。フェルミは、致す際に腰の下に敷いていたっけ。

「……それ、いま、……エッチで使ってたやつだろ?」
「ええ、そうっスよ」

 当然、といった様子のフェルミ。マイセルも、笑顔で答えた。

「だって、それが安産のおまじないですから!」
「『えっち』は、夫婦ごう、愛の成就じょうじゅの一番の形っスよ? ご主人のおっしゃるところの『えっち』で付ける、ご主人の『種』と私たちの『蜜』の交じり合った『印』が安産の一番のおまじないってのは、ご主人もご存じっスよね?」

 ──知らんがな。
 ていうかつまり、そのシミのついた──あえてクッションを、お産の時に使うっていうのか⁉ それマジで言ってるのか⁉

 驚愕する俺に、二人はニコニコ顔で答える。

「それだけ愛されている証拠っスからね」
「産婆さんに自慢できます!」

 しなくていい! そんなの自慢しなくていいから!
 ていうか、ひょっとして今夜おねだりしてきたのは、それが理由か?

「ほかにどういう理由があると思うんスか、ご主人?」

 フェルミに真顔で問い返されて、答えられなくなる。

 ──そうだよな。

 俺はその真顔の理由に、すぐに納得できた。
 女性にとって、出産は命がけだ。現代日本でだって、出産で命を落とす女性はいるんだ。だからどこの神社に行ったってあるのが、安産のお守り。
 高度な医療が発達している日本でも、それだ。まして、この世界は医療が十分に発達しているとは言えないし、その十分でない医療でさえ、俺たちのような一般人には高額過ぎて手が届かない。
 少しでも安産で産みたい──その願いがおまじないにすがる心理につながり、それが今夜の「おねだり」につながっているんだよな。

 ……そうか! フェクトール公が出産間近のミネッタを抱いたって話、今つながったよ! あえて抱いたんだな、ミネッタの産枕うぶまくらに、自分たちが愛し合った印をつけるために!

「……じゃあ、あとはいつ産気づいてもいいように、お医者さんに連絡をしておいた方がいいな」
さんさんなら、もう連絡はしてありますよ?」

 間髪入れずに答えるマイセルに、どこまでも後手に回っている自分を思い知らされる。ああ、本当に頼りになるよ、俺の奥さんたちは!

「……なんて。本当はネイジェル母さんが、馴染みの産婆さんに話を通してくれていたんです」

 ネイジェルさんは、マイセルの母親だ。そうか、やっぱり持つべきものは親か。
 やはり経験者の支援があるのはいいな。

「そういえば、マイセルはやっぱり自分の家でお産に臨むんだよな? いつ帰るんだ?」
「どうして帰らなきゃいけないんですか?」

 マイセルが不思議そうな顔をする。

「……え? そういうものじゃないのか? ほら、お産のために里帰りをするっていうだろう? まあ、里帰りっていうほど、家が遠いわけじゃないけれど……」
「どうしてですか? 私の家はもう、ここですよね?」

 マイセルの顔から表情が消える。
 俺、何かとんでもないことを口走ったっていうことか?
 おそるおそる、聞いてみた。

「ひょっとして、この街──この地域では、女の人が自分の実家に帰って出産するってことは、しないのか?」
「そんなの、聞いたことないです」
「私の故郷でも、聞かないスね」

 二人から即答されてしまい、俺は慌てて、自分の故郷ではそうすることが一般的だったと弁明せざるを得なくなった。
 結果、二人──特にマイセルが、あからさまに安堵してみせた。

「よかった……。ここで赤ちゃん産んじゃいけないのかなって思っちゃいました」
「い、いや、そんなわけないだろう? いや、よかった。俺の故郷とは違うことを確認できて。もちろん、この家で大丈夫だよ」

 誤解させてしまったことで、顔が火照ってくる。
 マイセルにしてみたら、俺がとんでもないことを口走っているように見えただろう。日本だと里帰り出産っていうのはよくある話だと思っていたが、どうもこの世界では里帰り出産などしないらしい。

「……待てよ? ということは、マイセルはお産に使う部屋は……寝室?」
「まさか。ベッドを汚すわけにもいかないですから、フェルミちゃんも私も、一階の奥の部屋を使うつもりです」

 寝室じゃないんだな──意外な思いと、当然だという思いが同居することになった。確かにこんなところで出産なんかしたら、血まみれで大変なことにかもしれない。お産の後始末を考えたら、ベッドで出産というのはできないに決まっている。

「それにしても、自分たちでいつの間にか話を進めていたなんて。俺の嫁さんたちは本当に頼りがいのある人たちばかりだな」

 素直に認めてみせると、二人は顔を見合わせてから微笑んだ。
 リトリィが、横からしなだれかかってくる。

「だんなさま……そんなこと、ないですよ? だんなさまがいらっしゃるから、わたしたちもがんばれるんです」
「そうですよ!」

 リトリィに対抗しようというのだろうか、マイセルもしなだれかかってきた。

「だんなさまは、ご自身のお仕事をがんばってくださいね? たりないところは、わたしたちがおぎないますから」
「お姉さまの言う通りです! ムラタさん、どんどん頼ってくださいね!」
「ご主人を支えるのが、ご主人のオンナの仕事ですから……ね?」

 リトリィが、俺の頬をなめながら。
 マイセルが、薄い胸を張ってみせながら。
 フェルミが、嫣然えんぜんと微笑みながら。

「だから、この家で産んでも、いいですよね?」

 もちろんだ。
 君たちが支えてくれている家だ。
 君たちのいいように使ってくれるのが、一番だ。

 俺の言葉に、リトリィはかぶりをふって、俺を強く、強く抱きしめた。

「だんなさま、そんなことをおっしゃらないで? わたしたちが住みよいように、だんなさまがたててくださったおうちなのですから……」

 マイセルとフェルミも、俺を抱きしめる。

「ムラタさんの元に嫁がなきゃ、私、大工なんてできなかったかもしれないんです。全部ムラタさんのおかげなんです」
「ご主人が頼りに頼りないことは元々織り込み済みっスから。もしご主人が何でもできる人だったら、私、ここにいる必要がなくなっちゃいますし。……すこしくらい、頼りないくらいでちょうどいいんスよ」

 三人の言葉に、俺は女々しいとは思いながらもつぶやいた。

「……いや、家の主人が何もできない、なんてことになるのは、主としてふさわしくないだろう?」
「だから、頼ってくれればいい、なんスよ」

 フェルミは、そっと首筋に舌を這わせながら答えた。

「お姉さまやマイセル姉さまが言ってるる通りっスよ。私たちを頼ってくれればいいんスからね? というより、私みたいな女に手を出してしまった時点で、ご主人はそういう星の元に生まれてる運命なんスよ」

 あー、はいはい。どうせ俺は、女の尻に敷かれる星のもとに生まれてきたんだよ。 


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...