Toward a dream 〜とあるお嬢様の挑戦〜

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最終章 勝負の三年間 三年生編

第二十三話 目の色

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 七月十一日、午前八時十七分。

 綾乃は一礼した後、ウィルドウォーグ山取レディースの練習場に右足を踏み入れる。プロ選手からかけられる「おはよう」の挨拶に、綾乃は「おはようございます」と上品に言葉を返し、深々と頭を下げる。

 やがて、お嬢様の目の目に、香奈が笑顔で姿を現す。

「おはよう。どう? コンディションは?」

「良好です」

 綾乃は加奈の言葉にやさしい笑みを含めながらこたえる。

 加奈は綾乃の示したこたに笑顔で頷くと、練習場内を見渡す。

「綾乃ちゃんが練習に参加して以降、良い意味でこのクラブの選手の目の色が変わったの。きっと、綾乃ちゃんのプレーに刺激を受けたんだろうね」

 加奈の言葉に、綾乃は思わず耳を疑う。

 自身のプレーがプロ選手の心を動かすはずがない。

 綾乃はそう思っていたが、香奈の考えは違う。

「もしかしたら、綾乃ちゃんは高校卒業後に、このクラブに入団するかもしれないからね。ポジションを奪われないようにと、より一層がむしゃらに練習しているよ」

 加奈の言葉が真実であるということは、綾乃に視線を注ぐプロ選手の姿が示していた。

 綾乃はプロ選手からの眼差しに気付いたように振り向くと、緊張の窺える表情を作る。

 彼女たちの眼差しに「余裕」の文字はない。

 それはつまり、綾乃を対等とみている証拠だ。

 日差しが綾乃を照らすと、香奈が目の前のお嬢さまに語りかける。

「私も刺激を受けているよ」

 そう言い残し、香奈は人工芝を踏みしめる音を立てながら、センターサークルに向かって歩きだす。

 綾乃は彼女の姿を目で追いながら、自身の気持ちを引き締めるように、ひとつ深呼吸をした。
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