Toward a dream 〜とあるお嬢様の挑戦〜

最終章 勝負の三年間 三年生編

第二十二話 「気を抜くな」

「ただいま戻りました」

　午後四時過ぎ。

　綾乃は自宅の玄関のドアを開けた。

　ドアをゆっくりと閉めてすぐ、階段を踏みしめる音が綾乃の耳に届く。

「帰ったか」

　綾乃の視線の先には、威厳のある父の姿があった。

「ただいま戻りました。お父様」

　綾乃がこたえると、浩平は小さく頷くと、さらに階段を下る。

　やがて廊下の床を踏みしめた浩平は一度、足を止め、我が子に忠告するような言葉を述べる。

「気を抜くな」

　一言、力強く発し、父はゆっくりと歩みを進める。

　徐々に遠ざかる父の背中を目で追いながら、子は引き締まった表情で首を縦に振ると靴を脱ぎ、寝室に歩みを進めた。

　
　七月六日、午前八時十七分。

「プロの壁を感じました。でも、この壁を越えてみせます」

　教室内で綾乃は潤にそう話す。

　潤は目を輝かせながら綾乃の話に耳を傾ける。

　窓越しに射す太陽の光により、綾乃の表情はより輝く。

「途中で投げ出すことなんてできませんから」

　綾乃は力強く言葉を発し、窓越しに青空を眺める。

　上空の太陽は綾乃の言葉にこたえるように日差しを強め、教室内に彼女の影をより濃く映し出した。