Toward a dream 〜とあるお嬢様の挑戦〜

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第二章 勝負の三年間 一年生編

第四十五話 遮るものを打ち破れ

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 十一月三日、朝六時一分。

 
 「ちょっと走ってきますね」


 晴義にそう声を掛け、綾乃は秋晴れが広がる外へ。私服のジャージでランニングする綾乃。僅かに感じた肌寒さは時間が経つごとになくなる。

 十分ほどで夏に逆戻りしたように体が熱くなる。

 小休止を挟み、再び綾乃は走り出す。しばらく進むと、公園が見えてきた。綾乃はそのまま公園へと入り、ベンチへと腰掛けた。

 クールダウンのようにやさしい風が吹く。綾乃が目を閉じると、風が彼女の髪を靡かせる。

 

 「岩浜農業いわはまのうぎょう高校…」


 綾乃が呟く。



 山取東高校はこの日の二回戦で県内の公立高校、岩浜農業高校と対戦する。攻守において、バランスのとれたチーム。

 綾乃にはそういった情報が入っている。

 しかし。


 「新しい戦術で勝負してくるかもしれませんよね…」


 前日の会場で岩浜農業高校の試合を観戦していた山取東高校。その試合で見せていた岩浜農業高校はまさに、攻守においてバランスのとれたチーム。

 しかし、次の試合では全く違う戦い方を仕掛けてくる可能性もある。綾乃はそのことを危惧していた。

 いや、宮城や舞子達も。


 綾乃は目を開け、空へ視線を向ける。


 「どのような試合になるのでしょう…」


 天へ問いかけるように言葉を発した綾乃は立ち上がり、再び走り出した。



 六時五十三分に綾乃は自宅へ戻った。シャワーを浴び、山取東高校のジャージを身に纏い、食堂へ。ドアを開けると、試合のことを考えた料理がテーブルの上に並んでいた。
 
 綾乃はコックへお礼を伝え、椅子へ腰掛ける。そして手を合わせ、箸を持った。



 
 「ごちそうさまでした」


 
 食事を済ませ、食器を下げた綾乃は寝室へ入り、バッグを持った。



 「行ってきますね」


 
 晴義に声を掛け、玄関のドアを開けた綾乃は試合会場の小賀こが市サッカー場へ向かう。台府駅の券売機で小賀駅までの切符を購入し、ホームで列車を待つ。


 
 出番が回ってきたらどれくらいできるかわかりませんが、勝利に繋がるプレーを…!


 
 綾乃の心の言葉と同時に、列車接近を知らせるアナウンスが流れた。




 八時四十分。


 「行くぞ」

 「はい!」


 
 宮城の一声で会場前に集まった綾乃達はロッカールームへ。練習着に着替え、ピッチへ入る。その瞬間、綾乃は妙な緊張感を覚える。

 高校総体とはまた違った緊張感を。

 綾乃の表情が引き締まる。



 この緊張感に飲まれないように…!



 自身に心でそう言い聞かせ、小さく頷く。そして、サッカーボールを右足で転がし、センターサークル付近へと向かった。





 九時三十分。


 練習を終え、ロッカールームへと戻る綾乃達はユニフォームへ着替える。全員が着替えると、宮城がスターティングメンバーを発表。

 その中に。


 「一ノ瀬」



 綾乃の名前もあった。


 「はい」と応えた綾乃、宮城は綾乃の目をじっと見つめ、こう言葉を掛ける。



 「遮るものを打ち破れ、一ノ瀬」



 綾乃はその言葉にゆっくりと頷いた。
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