32 / 113
大森林
しおりを挟む「ノア、あの辺りに下りてもらえる?」
道を辿りながら大森林の上空を飛び辺りが暗くなって来た頃、道の途中に少し開けた場所を見つけた。
野営場所っぽいけど誰もいなそうだし、あのくらいの広さがあればノアも下りられるだろう。
今日はここで野営をすることにしよう。
「掴まっていろよ」
ノアはいつも風魔法で私が落ちないようにサポートしてくれているが、念のため首もとにしっかりと掴まる。
ノアは羽ばたくのをやめ、スーッと地面に向かって下りていく。
「うーん、気持ちいい」
このノアに乗って地面に下りるときのスーッとした感じとフワッとする感じが結構好きなんだよね。
「よし、大森林にとうちゃーく!」
ノアから降りて伸びをすると、ノアも体のコリをほぐすように体を伸ばしている。
「今日はここで寝ることにしましょう。今準備するからノアはゆっくりしててね」
昼過ぎからずっと私を乗せて飛びっぱなしだったのだから、今日はガッツリした美味しいご飯を作るぞー! と気合を入れる。
どこにテントを出そうかな、と野営場所を見回すと木の間でポカンと口を開けこちらを見ている人達と目が合う。
「「「う、うわぁぁぁ!!!」」」
「キャァァァァア!!!」
上から見て見当たらなかったから人はいないと思っていたが、どうやら森に入っていた人達がいたようだ。
野営のために枝を拾いに行っていたのか全員手には枝を抱えている。
「なっ、グ、グググ、グリフォン??」
真ん中にいるリーダーらしき男の人が声を振り絞るように言った。
「グリフォンですが従魔なので襲いません。大丈夫ですよ」
そう声をかけるが黙ったままピクリとも動かない。
いきなりグリフォンが飛んできたのだからさぞ驚いただろうとノアをなでなでしながらしばらく待っていると、3分ほどしてから「ほ、本当に大丈夫なのか?」と言いゆっくりと森から出てきた。
「ハッハッハッ! いやー、驚いた! 町を出て2日なのにもう死ぬかと思ったよ」
そう肉を齧りながら明るく話しているのがこのBランクパーティー【銀色の刃】のリーダーで大剣使いのシメオンさん。
銀色の刃は大剣使いのシメオンさん、短剣二刀流のレジスさん、盾使いのドナシアンさん魔法使いのリーゼロッテさんの4人パーティーだという。
4人ともルボワール王国出身の幼馴染で他国に行ったことがないためBランクになった記念に隣国のラルージュ帝国に行くことにしたそうだ。
なぜこの4人と一緒に夕食を食べているのかと言うと、あの後恐る恐る森から出てきた4人に気づかずグリフォンに乗って下りてきたことを謝ると、グリフォンが恐いのは恐いが興味もあるようで色々と話しているうちにお詫びに夕食をご馳走することになったのだ。
「ノアちゃんが降りてくるのを見た時はBランクになったんだから隣国に行ってみようと言ったシメオンを恨みましたよ」
私の隣に座りノアをモフモフしながらそう言うのは魔法使いのリーゼロッテさんだ。
森から出てきた時は1番怯えていたのに一旦ノアを触ってからはモフモフの虜になってしまった。
「でも本当にすごいな。グリフォンを従魔にしている人なんて初めて見たよ!」
そうキラキラした瞳をしながらノアに興味深々な爽やかな人が短剣二刀流のレジスさんだ。
盾使いのドナシアンさんは寡黙な人のようで相槌を打ったり頷いたり。
「そうよね!私もノアちゃんみたいな従魔を見つけたい! リアちゃんはどうやってノアちゃんと出会ったの!?」
リーゼロッテさんはどうやらノアのようなモフモフを従魔にしたくなってしまったようだ。
「私が怪我で動けなくなっていたのを助けてもらったんだ。それで私から従魔にさせてもらえるようにリアに頼んだ」
さっきまでは「大森林を通ってる間に強い魔物と戦って強い攻撃魔法を覚える!」と気合を入れていたのに今は「回復魔法をもっと練習しなきゃ!」とノアのせいで言っていることがだいぶ変わっている。
「魔物に回復魔法をかけてどうすんだよ! 俺たちにかけろ!」
いや、ほんとに。シメオンさんの言う通りだよ。
ノアはグリフォンの中でも特に人語が流暢に話せる子だからね?
適当な魔物に回復魔法なんてかけたら大変なことになるからね??
「ちぇー。あ! じゃあリアちゃんも一緒に隣国まで行こうよ! ノアちゃんがいると言っても1人だと色々大変でしょ?」
リーゼロッテさんはよほどノアと一緒にいたいらしい。
まぁ確かに普通ならありがたい申し出なんだけどね。野営の準備とか戦闘とか1人じゃ大変だし。
でも私はアイテムボックスからパッと出すだけだし、戦闘も1人で全く問題ないんだよね。
それに身体強化をかけて進む私とじゃペースが合わないだろう。
なによりノアのお家に寄ってからお友達のところへ挨拶に行かなくてはいけない。
「ごめんなさい。私とノアは隣国に行く前に寄るところがあるの」
リーゼロッテさんたちは「え? 大森林で、寄るところ……?」と不思議そうな表情だ。
「隣国にはノアの友達のところに寄ってから行くわ」
4人は「ノアちゃんのお友達!?」「それって魔物だよね?」「グリフォンの友達って絶対やばい魔物だぜ!」「そうだな」となにやらコソコしている。
うち1人はなぜかとても喜んでいるけれど。
「いやー、まぁ、せっかく知り合えたのに残念だな。隣国でまた会えたらいいな!」
4人は次の日の早朝に出発して行った。
リーゼロッテさんは最後まで「ノアちゃ~ん!! 離れたくないよぉ~!」と騒いでおり他のメンバーにズルズル引きずられて去って行った。
96
あなたにおすすめの小説
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる
千環
恋愛
第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。
なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる