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謁見
しおりを挟む「こちらのお部屋でございます」
王城へ着いたのは、予想通り夜になってからだった。
王との謁見は明日になるそうで、部屋を用意され今日は王城に泊まることになった。
クズンの態度から色々と心配が多かったけど、幸い王城で働く他の人たちは今のところ普通に接してくれている。
「疲れた……」
ボフンッと音を立てフッカフカのベッドに寝転ぶと、両側からモフモフが覗き込んでくる。
「なんなんだ、あのクズンとか言う男は……!」
「そうだっ!あんなやつ俺の爪で微塵切りにしてやる!!」
2匹がなぜ同じ部屋に居るのかというと、さすがにグリフォンとフェンリルとはいえ敵の多いこの国で離れるのは心配だったからだ。
いや、私の生まれ育った国なんだけどね。しかも前世からの。
それにもし何かされてノアとネージュがやり返してしまったら、という意味の心配もある。
2匹も部屋は同じで。と言ったらさすがに大きさが……、と言われたので目の前で小さくなったらなんとかなった。
「微塵切りにしちゃダメなんだよ~」
気持ち的にはしたいくらいだけど。
「「なぜだっ!」」
「いろいろあるの。国際問題になっちゃうんだよ」
2匹は納得いかないのかグルルルと喉を鳴らしながら、これだから人間はめんどくさいだの、また国際なんちゃらか、だの言っている。
「とにかく、この国にいる間は大人しくしててよね。その分ラルージュ帝国に帰ったらいっぱい狩りして美味しいものもたくさん食べましょう」
「「狩り!!!」」
狩りという言葉を聞いて、クズンについてはどこかへ飛んでいってしまったようだ。
このまま何の問題もなく帰れれば良いんだけど。
キャッキャと戯れる2匹を見ていると、どうにも不安になる。
「……はぁ」
ま、なるようになる。はず。
「ラルージュ帝国皇太子ウィルフレッド・ラルージュ様、アールグレーン公爵令嬢オレリア・アールグレーン様が参りました」
何だか落ち着かず、今朝は早くに目が覚めてしまった。
しばらく部屋でゆっくりと過ごし、朝食、着替え、化粧、ヘアセットとあっという間に準備が整って謁見の時間になった。
隣国の皇太子が来たとあって、扉が開くとルボワール王国の重鎮達がずらりと並んでいるのが見える。
あ、お父様!!
公爵家の当主としてなのか、私が共に来るからなのか、その中にお父様もいた。
目が合い、普段はキリッとしているお父様が見たことのない泣きそうな顔でニコリと笑う。
なんだか少し痩せたような気がする。
もう2度と会えないと思っていた父が目の前に現れ私も自然と涙が滲んでくる。
「おぉ! 遠いところよく来てくれた」
!! 不意に掛けられた声でハッと我にかえる。
そうだ! 今は謁見中。しかも相手は私を国外追放に追いやった人。しっかりしなくては。
「お久しぶりでございます」
「いやいや、わざわざ皇太子殿下が送ってくださるとは! 連絡が来た時は驚きましたぞ!」
「いえいえ、婚約者なのですから当然です」
「皇太子殿下にそこまで気を遣ってもらって、アンドレも喜んでいるぞ! なあ!」
そう呼びかけられて、王の後ろからくすんだ金の髪の男がでてきて横へ並ぶ。
アンドレ殿下!
旅は楽しかったしラルージュ帝国での生活も楽しいけれど、やっぱり元凶の顔を見ると暗い気持ちが湧き上がってくるものね。
「皇太子殿下。わざわざ皇太子殿下自らオレリアを連れてきてくださりありがとうございます」
そうウィルフレッド様に言ったアンドレ殿下がこちらにチラリと目を向ける。
気持ち悪いっ!
以前はあんなに釣り合いたいと思って努力していたのに、今は見られるだけで気持ち悪くて仕方がない。
というかもう婚約者でもないのにオレリアって呼ばないで!!
って、あれ? 手紙にはもう1度婚約者にって書いてあったっけ? ということは、もしかしてこの会話のながれって勘違いされてない……?
「あぁ、申し訳ございません。実はお伝えしないといけないことがありまして」
そう言っていつも通り柔らかな微笑みを浮かべるウィルフレッド様からは、何だか黒いオーラが立ち上っていた。
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