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国立劇場
しおりを挟む「はぁ、これでやっと教国でやることが終わったわね」
「お疲れ様」
今はやるべきことがすべて終わってウィルフレッド様とゆったりとしたティータイムを過ごしている。
「あとは国立劇場に行くだけだ」
あと数日で帝国に帰るのだが、それまでの間またノアとネージュに付き合って屋台巡りもアレなので私たちは国立劇場に行かことにした。
なんでも、二百年前の聖女を題材にした舞台がやっているらしいのだ。
この聖女の物語は教国定番の物語で、常に国内のどこかしらでさまざまな劇団によって演じられている人気の演目らしい。
帰るまでどう過ごそうかと話していたら、セサルさんがお勧めしてくれたのだ。特に国立劇場でやるものは聖女の神秘性が良く現れており素晴らしいと力の入ったおすすめを受けた。
この間パレードで聖女としてお披露目をしたこともあり、混乱を避けるためにウィルフレッド様と変装をして劇場へと向かう。
魔法で色を変えて扇子を開けばもう別人だ。
「オレリアは金の髪も似合うけど、やっぱりいつもの艶のある黒髪が素敵だね」
せっかくの変装だからと綺麗なブロンドヘアにしたのだけれど……。どうやら完璧だと思われていたウィルフレッド様はあまりセンスが良くないようだ。
あの暗くて重い黒髪よりもブロンドのほうがずっと綺麗だろうに。
演劇が始まるとそれまで騒ついていた会場がシーンとなり、皆んな真剣に見入っている。
ストーリーは修道女として過ごしていた女性が回復魔法の才能に気がつき、修行し、紆余曲折を乗り越えてパーフェクトヒールに目覚め重症を負った教皇を助け結ばれるという物語だ。
さすが国立劇場。演出も魔法を使っていて素晴らしいけれど、主人公の聖女役の女性が特に素晴らしい。
もう見た感じは私よりも全然聖女だった。
幕が降り余韻に浸っていると、こちらに近づいてくる人がいるのに気がつく。
「おやおや、聖女様。わが国で人気の聖女の物語はどうでしたかな。この物語は二百年前の聖女様の実話を元にしているのですよ」
ダルトン……!
せっかくの素敵な舞台の最後にこんなイベントがあるなんて、最悪だ。
「この物語のように、実際に二百年前の聖女様も当時の教皇聖下とご結婚されていのです」
だから私も教皇聖下と結婚するべきだとでも言うような顔だ。まだ言ってるのか。
話を変えようとしていると、ダルトンの横にいる女性が目に入った。
華奢で儚げな美しい女性だ。パレードの後のパーティーにはいなかったが、奥方だろうか。正直全然ダルトンとは全く釣り合っていない。
「はじめまして。私はオレリア・アールグレーンと申します」
そう言うと女性はビクりとし、ダルトンを見あげ、ダルトンが頷いたのを確認すると、「はじめまして。私はクラーラと申します。聖女様と帝国皇太子殿下にお会いできて光栄です」と、挨拶をした。
「彼女は敬虔なセフィーロ教徒でしてね。ここ数年親しくしているのですよ」
親しく、ね。
チラリとクラーラを見るが、どこからどう見てもダルトンと親しくしたいと思っているようには見えないけれど。
むしろ……。
クラーラのダルトンの様子を伺うような目。怯えているように見える。
白い肌に華奢な体。心配になりひっそりと魔法を飛ばすが、特に怪しい点はなかった。
何かしらの術で無理やり? と思ったけれど、杞憂だったようだ。
「それではまた。聖女様、またお会いしましょう」
できればこちらはもう会いたくもない。少なくとも次に会うのは来年の生誕祭だ。今回はもうこのまま会わずに帝国に帰るのだ。絶対に。
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