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ダルトン邸
しおりを挟むと言っていたにもかかわらず、私は今ダルトン邸にいる。
「聖女様。ただ、教皇聖下と結婚すると言えば良いのです」
そう言ってダルトンは脂ぎった顔に笑みを浮かべこちらを覗き込む。
汚い。近寄るな。
なぜ私がこんな状況にあるのかというと、国ゆ立劇場で帰る前にお手洗いに行った時、後ろから口元に薬剤を当てられたためだ。
もちろん王国でのこともあり、対策はしてあった。
ただ、その薬剤を当ててきたのが先ほどダルトンと一緒にいたクラーラだったのでそのまま気を失ったふりをしてついて行くことにしたのだ。
「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ……」、と謝り涙を流すクラーラを見てただことではないと思った。
ウィルフレッド様は驚くだろうけど、帝国に帰るまでには戻るし、後でいっぱい謝るから許して欲しい。
「まあ、時間はたくさんありますから。じっくり考えてみてください」
返事をしない私をどう思ったのかしらないが、ダルトンはそう言ってふん、と鼻を鳴らし部屋を出て行った。
ガチャン、と音が鳴り部屋に鍵を掛けられたのがわかる。
が、
「正直こんなの余裕なんだよね~」
だって本当に部屋に鍵を掛けられただけなんだもん。
手も足も自由だし。窓に格子もない。
回復魔法が使えるだけの深淵の令嬢だとか思っているんだろうか。
実際公爵令嬢だから記憶を思い出す前はそうだったのは間違いないんだけれど。
今ならドアを開けることもできるし、なんなら吹き飛ばすこともできる。窓から飛び降りることもできるのだ。
普通の令嬢ならばできるとしても、はしたないとやらないだろうけど。
私には平民から成り上がった時の記憶があるから大丈夫だ。冒険者時代なんてもっとすごいこともしている。
「ま、夜までゆっくりしますか」
せっかくフッカフカのベッドがあるのだからひと休みしよう。
ベッドにごろんと寝転ぶと、ベットの周りに障壁を張り、そのままぐーぐー暗くなるまで寝入ってしまうのだった。
「んー、よく寝た!」
窓の外を見ると真っ暗だ。ドアの前には食事が置かれている。
寝ていて全く気が付かなかったが、食事を運んできた人も無理やり連れてこられて塞ぎ込んでいるとでも思ったのかそっとしておいてくれたようだ。
「【探知】」
うん。時間はよくわかないけれど、もうほとんどみんな寝ていみたい。
「じゃあ行きますか」
私は障壁を解除し部屋の入り口まで歩いてドアの前に立つ。
「【解錠】」
冒険者時代、宝箱を開けるのに常用していた魔法をこんなことで使うことになるとは。
カチリと小さな音が鳴り鍵が開いた。
探知で人の気配を避けつつ、お目当ての人物の部屋へと向かう。
「うーん……、こっち行って~、あっちに向かって~、ここを曲がって~、到着っ!」
その部屋は屋敷の最上階の隅にひっそりとあった。ちなみに最上階の中央にはダルトンがグースカ寝ている。
「【解錠】」
カチリと音を立てて開いた扉を進むと、寝ていた部屋の主人が気がつき起き上がる。
「な、なに……!?」
「しっ! 静かに。クラーラ嬢、お話をしましょう」
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