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本編

感じ始めた違和感

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違和感を覚えたのはいつからだろう…?

ふとした時に(あれ?)って思ったのだけれど(そんなわけない)と思い直して、気にしないようにしていた。

「またお揃いだね!嬉しいな」

「髪型真似しちゃった!これ可愛いよね」

それが気が付けば…

「私が見つけたの!」

「あれ?なんで私と同じ物を持ってるの…?」

に、変わっていった。

私は彼女が勘違いしてるんだって思おうとしていた。


・・・・・


私はミラー子爵家の長女バネッサ。父であるミラー子爵が領主代理として街を治めている。

この街は商業が盛んで「ここで買えないものはない」と言えるくらいに商店も充実していた。デビュタントはまだしていないから王都に行った事はないけれど、王都と同じくらい凄いって噂に聞いている。


一番仲のいいお友達は隣町から引っ越してきたブラウン男爵の次女ケリー。

隣町は学者の多く住む町で、先代は学者だったけど現男爵は商業を営んでいて、代替わりを機に現男爵一家がこの街に越してきたらしい。

「私ケリー。よろしくね?」

ニコニコと人好きのする顔で自己紹介をしたケリー。

ケリーのお兄さんもお姉さんもしっかりしていたけど、三人兄妹の末っ子で歳の離れたケリーは甘え上手だった。

少し我儘なところがあったけど、私はそんなところも可愛く思っていた。


同じ年の私達は顔立ちも背格好も似ていた。

「髪の色は違うけど目の色は同じ焦げ茶色だし、まるで双子みたいだね」と、よく周りから言われていた。

兄弟のいない私は、妹が出来たみたいで嬉しく思っていた。


そんなある日、私の家の庭で私達家族とケリーの家族でお茶会をしていた時にケリーが言った。

「バネッサの髪飾り凄く綺麗!いいな!」

「ありがとう。お父様がくれたの」

「私も欲しい!ちょうだい?」

ケリーはじぃっと髪飾りを見て、それを強請った。

「ごめんね…これはお父様がくれたものだから、あげられないの」

そう言って私は断ったのだけれど、ケリーは泣き出してしまった。

「欲しい欲しい!お友達なのに…バネッサ酷いよ!わーん…」

「ケリー、泣かないでよ。お友達でもこれはあげれないの」

私がそう言っても、ケリーは泣き止まなかった。
見かねたブラウン男爵がケリーを宥めながら言った。

「ケリー、泣かないでおくれ。お父さんが似たような髪飾りを買ってあげるから」

「グスッグスッ…同じものじゃないと嫌!グスッ…」

泣きながら言うケリーに、ブラウン男爵は私のお父様を見て、お父様は渋々と頷くしかなかった。

「ケリー、同じ物を買ってあげるから…機嫌を直してくれるかい?」

「本当に?お父様、大好き!」

ケリーはパッと泣き止んで、ブラウン男爵に抱き着いた。

今思えば、これが始まりだった。


・・・・・


「それいいな。どこで買ったの?」

ケリーは私に何回も聞いてきて、私の真似をしたがるようになっていた。

妹に真似されるお姉さんの気分になった私は、嬉しくなった。すぐにお父様に聞きに行って、ケリーに教えてあげた。

「バネッサとお揃いで買っちゃった!」

そう言って笑ったケリーが可愛くて、私も笑った。

私達のお揃いの物がどんどん増えていって、凄く嬉しかった。両親も喜ぶ私達を見て、優しく微笑んでいた。


それがいつからだろう…?少しずつ違和感を感じるようになっていった。


ケリーの言い方だったのかも知れない。

「見て見て!これ、可愛いでしょう?この間フォレタグ商会に行ったときに見つけて、買ってもらったの!」

(あら…?そのブレスレットって私が何処で買ったか教えてあげた物よね…?その言い方だと、ケリーが見つけたみたいに聞こえるわ。今日はしてないけど、私も持ってるのに…ケリー、忘れちゃったのかしら…?)

「買ってもらえて良かったね」

きっとケリーの言い間違いか、勘違いだろうと思った私は、気にしない事にした。

私を姉のように慕ってくるケリーが可愛かったから、その時は何も言わなかった。


他にも、

「それかわいいよね。フォレタグ商会に売ってるの見て、買おうと思ってたの」

ケリーはそう言って、次の日には同じ物を持っていた。

(買おうと思っていたのなら、買えばよかったのに…私が買ってから買いに行かなくてもいいじゃない。嫌だわ…ケリーは私を慕って真似をしてくれているのに、こんな風に考えては駄目よね…)


そして、ケリーが見せてきたピンク色のペン。

私が同じ物をケリーに見せた時に言った、ケリーの言葉はとても衝撃的だった。

「あれ?私と同じ物買ったの…?」

(これはこの間ケリーに見せたじゃない。だからケリーは同じ物を買ったんでしょう…?)

あんなに嬉しく思っていたお揃いの物に、私は段々と嫌気が差していた。

(お揃いも嬉しいけど、私だけの物も欲しいわ…)


そんなある日、私の部屋に入るなり、ケリーは部屋に飾られたテディベアを見てこう言った。

「なにそれ、一点物なの?どうしてそんなの買うのよ…まぁ、いいわ。今日はティールームでお茶をしましょう」

ティールームでケリーとお茶を飲みながら楽しく話して、男爵家に戻るケリーを見送ってから私は自室に戻った。

お祖父様が誕生日に送ってくれたオーダーメイドのテディベアは、耳が千切れて目が外れていた。

(そんな…もしかして、ケリーが…?どうしてこんなに酷いことができるの…?)

私が壊れたテディベアを抱いて静かに泣いていると、私の泣き声が聞こえたお母様が心配して部屋に入って来た。

「あら、くまさん壊しちゃったのね。お母様が直してあげるから大丈夫よ」

そう言ってぬいぐるみを直してくれた。

「ありがとう、お母様」

(壊したのはケリーなの。でも、見てないから本当は違うのかも知れないわ…不確かなことは言わない方がいいわよね…)


私はメイドにケリーが部屋に入ったのかを聞いたけれど、結局の所はわからなかった。

「申し訳ございません。ケリー様は、何度も来ているからお手洗いの場所は知ってると言って走ってしまわれたので…もしかしたらお腹の具合でも悪いのかと思いまして、ついて行かなかったのです…何かあったのでしょうか…?」

「ううん、何でもないの。気にしないで」

他にも、お母様の手編みの白いマフラーはケリーが紅茶を零してしまったし、お父様が職人に頼んで作ってくれた蝶の形の髪飾りはケリーが誤って落として、羽の部分が欠けてしまった。

「バネッサ、ごめんなさい!わざとじゃないの!」

泣きながら謝るケリーに、私は何も言えなかった。


それから私は大切な物はケリーには見せないようになった。証拠はないけれど、どこかで確信していた。あれはわざとだったんだと思う。
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