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化けの皮と心の支え

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無事に使用人として城に侵入できた二人は、リックとデニーを探りながら機会を伺っていた。

だが、二人が化けの皮を剥がす場面は一度も来なかった。ただ時間だけが過ぎていき、二人は焦っていた。


そんなある日、ベラが二人の会話を聞いた。

「今夜いつもの場所で落ち合おう」

ベラはすぐにエドに伝えた。危険だからとベラを連れて行きたくなかったエドだったが「置いていくなら勝手に一人で行く」と言う頑ななベラを連れて行くことにした。

警戒心の薄いリックの後を付けたエド達は、廃墟に入って行くのを見届けた後、裏から回って二人のいる部屋の壁にそっと近付いた。

「誰にも気付かれなかったか?」

「あぁ、ちゃんと気を付けて来たよ。それよりも、次はどうする?」

「そう焦るな。丁度いいカモが見つからないんだよ」

(あいつら…やはりまたやるつもりだったのか)

エドは怒りで震えていた。

「ライラを選ばないでくれよ?」

「当たり前だよ。デイジーを選ぶつもりも無い」

(妹達は無事みたいだな…でも、何故呼び捨てにしているんだ…?)

疑問に思ったエドだったが、その答えはすぐにわかった。


「しかし、アーロンも馬鹿だよな。自分のたった一人の血の繋がった息子を追放して、私達の娘を可愛がっているんだから…」

「アーロン国王様だろう?そのお陰で私達が良い思いをしているんだ。感謝をしないと」

二人は笑っていた。

(まさか…ライラはリックの娘で、デイジーはデニーの娘なのか?)

力の入ったエドの拳をベラが優しく包んだ。

(ベラ…ベラがここに居て良かった)

エドはベラに頷いた。次の悪事の予定を話す様子も見られず、二人はそっと城に戻ったのだった。


「こんな事を国王に言える筈がない!俺はどうすれば良いんだ…」

エドは泣いていた。追放された時でさえも涙を零さなかったのに、母の不貞と妹とは異父兄妹だった事を知らされ、あまりの出来事に堪えきれなかったのだ。

「エド、証拠を集めよう。こんな酷い事は許せないよ」

しかし、どんなに探っても、二人の悪事や不貞の証拠は見つからなかった。

(あれから何年も経っているし、頭の良い二人のことだ。証拠など残っていないんだろう…)

エドは自分の無力さに嫌気が差した。

「ねぇ、王様に二人の会話を聞いて貰えば良いんじゃないかな?」

「でも、どうやって?」

本人が直接聞けば話は早いが、その状況に持っていく事が困難だった。


しかし、その機会はすぐに訪れた。

エドが狙ったのはリックだった。城内で話してエドに聞かれた程だ。付け入る隙はデニーよりもあった。

暫くリックを付けていたエドは、リックが定期的にフローラの元へ通っている事を突き止めた。知りたくなかった事だったが、アーロンに真実を突き付けるには一番効果的だと思った。

ある日、リックがいつものようにフローラの私室に入って行くのを見届けた後、エドはアーロンの所へ行き、フローラが呼んでいると伝えた。

「すぐに向かおう」

そう言ってフローラの部屋に入ったアーロンは、二人の不貞の現場を抑えた。

リックを殴り飛ばしたアーロンに、フローラは縋りついた。

「アーロン様、怖かった…」

「可哀想なフローラ…もう大丈夫だよ」

そんな二人を見たエドは、声色を変えて囁いた。

「ライラ様はリック様に似ている気が…」

「そう言えばデイジー様は何処となくデニー様の面影が…」

ベラも後に続いた。


「そんな…フローラ、嘘だろう?二人は私達の娘だろう?」

アーロンは必死になってフローラに問い質した。

「もちろんよ。私にはアーロン様しかいないよ」

安心したアーロンだったが、ベラが囁いた言葉に凍りついた。

「たとえ今日でなくとも、真実はいずれ晒される。その日まで真実に怯えて過ごすのでしょうね…」

「今喋ったのは誰だ!お前か?」

鬼の形相で使用人達に詰め寄ったアーロンだったが、誰が言ったのかはわからなかった。

「アーロン様はきっと疲れているのね。今日はゆっくり休もう?」

フローラに連れられて私室で休むアーロンだったが、その顔は青白かった。

「イザベラ…」

小さな声でそう呟いていた。


「ベラ、今の言葉は?」

誰もいない部屋でエドがベラに尋ねた。

「伯母さんがお父さんに宛てた最後の手紙に一言だけ書かれていたの。処刑される時に最後に王様に言ったんだって」

「だからあんなに怯えていたのか…もしかしたら冤罪に気が付いていたのか…?」

「もしそうなら最低ね」

「そうだな…でも、一先ずはリックが不貞で捕らえられた。後は横領の自白とデニーだな…」


その頃のデニーは…

「リックの奴、馬鹿な事を…今までの悪事をあいつに被って貰おうか?」

不敵に笑っていたのだった。



一人になったアーロンはデニーを呼ぼうとして、思い留まった。

(デイジーがデニーに似ていると誰かが言っていたな…)

アーロンは二人の男を呼んだ。

「お前達に調べて欲しい事がある」

「デニー宰相ではなく、我々にでしょうか?」

一人が尋ねた。

「デニーのことも調べて貰いたい」

「「かしこまりました」」


数日後、二人の男が持って来た報告書には、異なる事が書かれていた。

一つは、ライラとデイジーはアーロンの娘だというもの。リックとフローラの不貞はあの時の未遂のものだけで、他にも、第一王子の横領にもリックが関わっていたと書かれていた。

もう一つは、ライラはリックの娘で、デイジーはデニーの娘だというもの。第一王子は無実で、リックとデニーが横領した犯人ではないかと書かれていた。イザベラの事も、再調査の必要性が書かれていた。

(私はどちらを信じれば良いんだ…)

アーロンは悩んでいた。こんな時は必ずリックとデニーが助けてくれたのに、今は二人の助けが貰えない。

アーロンは他の男に調査を頼んだ。その男が持って来た報告書は、一つ目の報告と同じだった。

(良かった…デニーは信用できる)

アーロンは安堵して、デニーを呼び出した。


「アーロン様、何か御用でしょうか?」

「リックのことは聞いたな?」

「誠に遺憾な事です。長年仕えて来たアーロン様を裏切るなどと…」

デニーは憤慨した様に言った。

「デニー、お前は私の味方だろう?」

「もちろんですよ。それよりもリックの処罰はどうしましょうか?」

「お前はどう思う?」

アーロンの問いに、デニーは答えた。


数日後、リックに毒杯が授けられた。詳しい取り調べもないまま、何も言えない存在になってしまったのだ。

その事を聞いたエド達はショックを隠しきれなかった。

「折角捕まえたと思ったのに…」

「デニーの方が一枚上手だったんだ」

「どうしたら良いのかな…?」


エドは考えた。デニーに対抗するには手札が足りない。狙うのはデニーではない。

「ベラ、イザベラの日記は持って来てる?」

「あるよ。それがどうしたの?」

「ちょっとやって欲しい事があるんだ」

エドはベラの耳元で提案をした。

「任せて!」

「頼んだよ。俺は別で接触してみるよ」

エドはそう言って庭園に向かって歩いて行った。


そこに居たのは、フローラだった。

「聖女様」

「どうしたの?」

「聖女様、どうか私の懺悔を聞いて欲しいのです」

「何でも話して?私にできる事は何でもするよ」

フローラは優しい笑顔で答えた。


「ありがとうございます。実は…私には異父妹が二人いるのです。二人共父親が違います」

「まぁ、酷いお母さんね…」

「えぇ…そして、異父妹の父達に嵌められた私は、この父達に復讐をしようと決意したのです。神の教えに背く私は許して貰えるでしょうか?」

「酷いお父さん達ね…そんな悪者に復讐したくなるのは仕方がないよ。私はあなたの味方よ」

フローラは優しい笑顔で答えた。

「不貞をした母や、私を信じなかった父に復讐をしても、神は許してくれるでしょうか…?」

「もちろんよ。でも、そんな酷い親がいるんだね…私だったら絶対に子供にそんな酷い事はできないよ」

「聖女様はお優しいですね…」

「そんな事ないよ。私は自分にできる事をやるだけ。聖女だなんて、ただみんなが呼んでくれるだけだよ」

「流石です」

「頑張ってね」

フローラはそう言って城内に戻って行った。

「ありがとうございました」

頭を下げたエドだったが、そのまま暫く動かなかった。怒りで動けなかったのだ。エドの手からは、強く握りしめて爪が刺さり、血がポタポタと垂れていた。

(本当に何も考えていない人だったんだ。それなら…聖女様、あなたの望み通りに…)


エドの手を見たベラは叱った。

「何でこんなになるまで強く握りしめるのよ!」

「悪い」

「うわぁ、痛そう…手を握るの禁止だからね」

「悪い」

「何で笑ってんの…?」

「いや、ベラが居てくれて良かったなって思った」

「馬鹿じゃないの!」

(本当だよ)

包帯を巻くベラを見て、エドは心の中で答えた。
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