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第一章

あぁ、またか…

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「さぁ、遠慮しないでお二人もソファで休みましょう?」

屋敷に入ったマーガレットは、オリビア達を席に座るように言ったのだが、二人は恐縮してソファの後ろに立ったままだった。


「マーガレット様のお優しいお言葉は大変有り難いのですが…私共は使用人ですので…」

「あら?今はケナード家の使用人ではないわ。まだお父様に伝えていないもの。だから大丈夫よ、ね?」

マーガレットはクスクスと笑っていたが、二人は立ったまま動かなかった。


(あらまぁ、そんなに畏まらなくてもいいのに…どうしましょう…?そうだわ、良いことを思い付いたわ!)

マーガレットは徐ろに立ち上がり、オリビアの手を引いてソファに座らせた。

「ほら、もうオリビアは座ってしまったわ。セバスもどうぞ?」

マーガレットの自然なエスコートに釣られる様にソファに座ってしまったオリビアは、顔を青くして動けなくなり、縋るような目でセバスを見た。

そんなオリビアを見て、自分を見つめるマーガレットを見て、またオリビアを見て…セバスは恐る恐るソファに座った。

(長時間の移動だったもの…私だけが座るだなんて、気が引けてしまうのよね…これでやっと落ち着けるわ!)

ソファに寛いでお茶を飲むマーガレットと、石像のように固まったまま動かないオリビア達が、ケナード家のティールームで休んでいたのだった。


パタパタパタッ

ビクトールが小走りでティールームに入って来た。

その瞬間、オリビア達はサッと立ち上がり、マーガレットの後ろに移動した。

「メグ、私の天使!よく帰って来てくれたね!急にどうしたんだい?」

「あら、お父様。ただいま戻りましたわ」

そう言ってゆっくりと立ち上がったマーガレットを、ビクトールが抱きしめた。

「メグが帰って来てくれたのはうれしいよ。でも、ジェラルド君は大丈夫なのかい?」

ビクトールがマーガレットに訝しげに聞いたが、マーガレットは何でもないように伝えた。


「後でお父様にはご報告を差し上げようと思っていたのだけれど…テイラー次期伯爵様とは離縁されてしまったの。不甲斐ない娘で申し訳ありません…」

「なんだって?」

マーガレットから伝えられた思いもよらない出来事に、ビクトールは憤慨した。

「私達の大切なメグを奪っておきながら、離縁だなんて…許せない!」

(あらまぁ…そこまで怒らなくても、私は気にしていませんのに…)

マーガレットは全く気にしていなかった。真実の愛の為なら仕方がない。そう思っていたのだった。


「次期伯爵様には真実の愛のお相手様がいらしたの。私ったら全く気付かずに、お二人には申し訳ないことをしてしまったわ。お父様にもケナード領の方達にも、ご迷惑が掛からないと良いのだけれど…」

(あぁ…離縁されて辛いはずなのに、私や領民の心配をするなんて…メグは幾つになっても天使のままだ!)

ふぅと小さなため息を吐くマーガレットを見て、ビクトールは親馬鹿のように思っていた。


「ふむ、真実の愛か…そんな相手がいるだなんて思ってもみなかったが、そうなるとこちらからは言い難いね。メグ、不甲斐ないお父様を許しておくれ…」

クレランス王国では、真実の愛に限っては、不貞を訴えることが難しかった。真実の愛の邪魔をすることは無粋だと思われているのだ。

「お父様、私は気にしてないわ。どうぞお気持ちを楽になさって?それよりも、出戻りの私はこのお屋敷にいても良いものなのかしら…?」

「そんな風に悲しいことは考えなくても良いんだよ。いつまでだって居ていいのだから…私はもう、メグを他所にはやらないよ!」

そう言ってビクトールは、自分達を気遣うマーガレットを再び抱きしめたのだった。


「あら、そうだわ。お父様にもう一つご報告があるのだけれど…こちらはテイラー家の執事と侍女だったセバスとオリビアですわ。お二人をケナード家で雇っても良いかしら…?テイラー家ではとてもよくお世話になったので、連れて来てしまったの…」

マーガレットの言葉で初めて、ピンっと立ったままの二人に気付いたビクトール。

(あぁ、またか…)そう思ったが、顔には出さなかった。


「そうか。君達、マーガレットが世話になったね。マーガレットが帰って来てくれたから、丁度マーガレット付きの使用人がいないんだよ。そのままマーガレットに仕えてくれて構わないよ」

「「ありがとうございます」」

こうしてオリビア達は、無事にマーガレットに仕えることになった。

(お父様はお優しいから絶対に言わないでしょうけど…「離縁された娘など知らん!」と言われてみたかったわ…)

マーガレットは今でも物語の展開に憧れていたのだった。


久しぶりにマーガレットと共にする夕食を楽しみにしていたビクトール。

「実は…ケナード家に仕えたいという使用人が他にもテイラー家に残っているのだけれど…」

夕食後にマーガレットに言われたビクトールは執務室で一人で頭を抱えることになるのだが、今はまだ誰も知らない。


ビクトールはそんなことはつゆ知らず、

(ジェラルドの奴め…どうしてくれようか…)

密かに復讐の炎を燃やしていたのだった。
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