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第一章
新しい事業の思い付き
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(テイラー家に残してきた使用人達は大丈夫かしら…?早く呼びたいとは思うのだけれど…でも、どうしましょう…?)
マーガレットがテイラー家を出てから数週間が経っていた。
久しぶりのケナード領が楽しくて、あっという間に時が過ぎていたのだ。決して使用人達の事を忘れていたわけではない。きっと…
(でも、わが家には使用人は充分揃っているのよね…だからと言って、職人や商会に勤めさせるわけにはいかないわ…彼らは貴族家出身ですものね…)
ケナード領には数多くの職人と商人が在籍し、常に人材や次代を担う者を欲していた。だが、働く彼らは平民か跡取りになれない下位貴族の子息達で、自ら進んで働いていたのだ。
いくら下位貴族とはいえ、伯爵家で使用人をしていた人間に「平民と一緒に職人になって働いて欲しい」とは言えなかったのだ。
(すぐに呼ぶと言ったのだけれど…私は不甲斐ないのね…)
マーガレットが悩みながら歩いてると、先の方に少し大きな屋敷を見つけた。妖精がふわふわと屋敷の周りを飛び回っていたのだ。
(あら?このお屋敷は…)
この屋敷はケナード領に住む男爵家の持ち家で、以前は男爵夫妻が住んで居た。だが高齢になり、王城に勤める子息の王都にある屋敷に引っ越す為に、少し前に手放したのだった。
今は誰も管理をする者がいない。
「マーガレット様、お待ちください!危険にございます!」
いきなり屋敷に入ろうとするマーガレットに、慌ててオリビア達が止めようとするも、彼らの制止を気にも留めずにズンズンと屋敷に入っていくマーガレットだった。
(まぁ、素敵な内装だわ!男爵夫妻はとても趣味が良かったのね!ここを何かに使えないかしら…?)
マーガレットは慌てて追いかけてくオリビア達を横目に、何かを考えていた。
「ねぇ、オリビア。テイラー家の使用人達はこの素敵なお屋敷で働いて欲しいって言ったら受け入れてくれるかしら?ケナード家の使用人として雇うことは難しいの…でも、ここで何かを始めて、そしてケナード家が雇えばいいと思うのだけれど…どうかしら…?」
マーガレットの問い掛けに、オリビア達は感激していた。
(マーガレット様はテイラー家に残してきた使用人達のことも考えて下さっていたのね。でも…)
自分達だけがケナード家に連れて行ってもらえたオリビア達は、ケナード家での生活に満足していたが、テイラー家に残してきたかつての仲間が気になっていた。
多くの使用人達を一度に連れて帰ることができないことも、ケナード家の使用人として全員が働けないことも理解していたので、オリビア達は何も言えなかったのだ。
「マーガレット様、どんな形であれマーガレット様に雇って頂けるのであれば彼らも喜ぶでしょう。しかし「何か」とはどういったことでしょうか…?」
テイラー家に忠誠を誓っていた上級使用人達だったが、マーガレットと過ごしていく内に、マーガレットに傾倒していった。
息子の平民の愛人を許容し屋敷に帰って来ない伯爵領主よりも、
事業契約の一環である結婚を不服として離れで愛人と過ごし、愛人の無理難題を求めてくる次期伯爵よりも、
いつでも笑顔で使用人達までにも気を遣うマーガレットの方が選ばれたのだった。
彼らの思いはただ一つ。(マーガレット様の為に…)だ。
しかし、「何か」とはなんだろうか…?
「何が良いかしら…?彼らの好きなようにして貰えれば良いと思うのだけれど…」
(どうしましょう…?)と、悩むマーガレット。
(一体ここで何を始めればいいのか…)と、少し驚くオリビア達だった。
「そうだわ!貴族風の宿屋なんてどうかしら?ケナード領には商人や職人の出入りばかりで、あまり貴族の泊まれる宿屋はないの。平民の方達も、お金を出して貴族の生活が体験できるもの。面白そうだわ!それに、それなら伯爵家でやっていることとあまり仕事も変わらないもの、ね?」
「面白いことを思い付いたわ!」と、何度も頷くマーガレットだった。
マーガレットは屋敷に帰って早速ビクトールに伝えたのだが、いきなりの事業展開の提案にビクトールはまた頭を抱えた。
(だが…良い考えかもしれないね…)
そう思ったビクトールはクロードに指示を出し、男爵家の屋敷を買い取った。使える物はそのまま残し、必要な物を揃え、あっという間に貴族風宿屋の準備が整ったのだった。
ビクトールに許可を貰ったマーガレットは、すぐにテイラー家の使用人達に手紙を送った。
彼らはジェラルドに退職の旨を伝え、揃ってケナード領にやって来た。自分達の働く宿屋の掃除をし、客に出す料理の確認をし、それぞれが自分達に見合った仕事をしていた。
発注や運営などの仕事は暫くクロードが行うことになったが、後から来た使用人達の一番の古株であるベニーがクロードに付き、細かい事も教わっていた。
「皆様お待たせしてしまったわね。それに、ケナード家の使用人として雇ってあげられなくてごめんなさいね」
ケナード家を訪れた使用人達に開口一番に謝るマーガレットに、使用人達は恐縮し、感謝したのだった。
そして、マーガレットに一生仕えるのだと心に誓った。
(マーガレット様の役に立つた為に…)
(マーガレット様に喜んで頂く為に…)
そんな共通の思いを持つ彼らが働く宿屋。
貴族達はようやくできたケナード領の宿屋に泊まり、ケナード領の職人が作り、商会で売られている物を見に訪れた。
自分達の屋敷に訪れる商人に見せられるケナード領の職人技に驚愕し、商人の選んだ数点ではなく、全ての商品を己の目で見たかったのだ。
平民達は憧れの貴族の生活が体験できると喜び、お金を貯めて特別な祝い事などの日に泊まりに来るようになった。
こうしてマーガレットの面白そうという思い付きで始まった貴族風宿屋は、ケナード領に繁栄をもたらしたのだった。
これは余談だが、マーガレットは思い付いただけで、実際に動いたのはビクトールとクロードだった。
この二人とケナード領に到着してからのベニー達は、宿屋の開店準備であちこち動き回っていた。
そんな彼らの忙しない姿を見て
(あらまぁ…みんな忙しそうね。お茶のお誘いをと思ったのだけれど…残念ね…)
マーガレットは呑気に考えていたのだった。
マーガレットがテイラー家を出てから数週間が経っていた。
久しぶりのケナード領が楽しくて、あっという間に時が過ぎていたのだ。決して使用人達の事を忘れていたわけではない。きっと…
(でも、わが家には使用人は充分揃っているのよね…だからと言って、職人や商会に勤めさせるわけにはいかないわ…彼らは貴族家出身ですものね…)
ケナード領には数多くの職人と商人が在籍し、常に人材や次代を担う者を欲していた。だが、働く彼らは平民か跡取りになれない下位貴族の子息達で、自ら進んで働いていたのだ。
いくら下位貴族とはいえ、伯爵家で使用人をしていた人間に「平民と一緒に職人になって働いて欲しい」とは言えなかったのだ。
(すぐに呼ぶと言ったのだけれど…私は不甲斐ないのね…)
マーガレットが悩みながら歩いてると、先の方に少し大きな屋敷を見つけた。妖精がふわふわと屋敷の周りを飛び回っていたのだ。
(あら?このお屋敷は…)
この屋敷はケナード領に住む男爵家の持ち家で、以前は男爵夫妻が住んで居た。だが高齢になり、王城に勤める子息の王都にある屋敷に引っ越す為に、少し前に手放したのだった。
今は誰も管理をする者がいない。
「マーガレット様、お待ちください!危険にございます!」
いきなり屋敷に入ろうとするマーガレットに、慌ててオリビア達が止めようとするも、彼らの制止を気にも留めずにズンズンと屋敷に入っていくマーガレットだった。
(まぁ、素敵な内装だわ!男爵夫妻はとても趣味が良かったのね!ここを何かに使えないかしら…?)
マーガレットは慌てて追いかけてくオリビア達を横目に、何かを考えていた。
「ねぇ、オリビア。テイラー家の使用人達はこの素敵なお屋敷で働いて欲しいって言ったら受け入れてくれるかしら?ケナード家の使用人として雇うことは難しいの…でも、ここで何かを始めて、そしてケナード家が雇えばいいと思うのだけれど…どうかしら…?」
マーガレットの問い掛けに、オリビア達は感激していた。
(マーガレット様はテイラー家に残してきた使用人達のことも考えて下さっていたのね。でも…)
自分達だけがケナード家に連れて行ってもらえたオリビア達は、ケナード家での生活に満足していたが、テイラー家に残してきたかつての仲間が気になっていた。
多くの使用人達を一度に連れて帰ることができないことも、ケナード家の使用人として全員が働けないことも理解していたので、オリビア達は何も言えなかったのだ。
「マーガレット様、どんな形であれマーガレット様に雇って頂けるのであれば彼らも喜ぶでしょう。しかし「何か」とはどういったことでしょうか…?」
テイラー家に忠誠を誓っていた上級使用人達だったが、マーガレットと過ごしていく内に、マーガレットに傾倒していった。
息子の平民の愛人を許容し屋敷に帰って来ない伯爵領主よりも、
事業契約の一環である結婚を不服として離れで愛人と過ごし、愛人の無理難題を求めてくる次期伯爵よりも、
いつでも笑顔で使用人達までにも気を遣うマーガレットの方が選ばれたのだった。
彼らの思いはただ一つ。(マーガレット様の為に…)だ。
しかし、「何か」とはなんだろうか…?
「何が良いかしら…?彼らの好きなようにして貰えれば良いと思うのだけれど…」
(どうしましょう…?)と、悩むマーガレット。
(一体ここで何を始めればいいのか…)と、少し驚くオリビア達だった。
「そうだわ!貴族風の宿屋なんてどうかしら?ケナード領には商人や職人の出入りばかりで、あまり貴族の泊まれる宿屋はないの。平民の方達も、お金を出して貴族の生活が体験できるもの。面白そうだわ!それに、それなら伯爵家でやっていることとあまり仕事も変わらないもの、ね?」
「面白いことを思い付いたわ!」と、何度も頷くマーガレットだった。
マーガレットは屋敷に帰って早速ビクトールに伝えたのだが、いきなりの事業展開の提案にビクトールはまた頭を抱えた。
(だが…良い考えかもしれないね…)
そう思ったビクトールはクロードに指示を出し、男爵家の屋敷を買い取った。使える物はそのまま残し、必要な物を揃え、あっという間に貴族風宿屋の準備が整ったのだった。
ビクトールに許可を貰ったマーガレットは、すぐにテイラー家の使用人達に手紙を送った。
彼らはジェラルドに退職の旨を伝え、揃ってケナード領にやって来た。自分達の働く宿屋の掃除をし、客に出す料理の確認をし、それぞれが自分達に見合った仕事をしていた。
発注や運営などの仕事は暫くクロードが行うことになったが、後から来た使用人達の一番の古株であるベニーがクロードに付き、細かい事も教わっていた。
「皆様お待たせしてしまったわね。それに、ケナード家の使用人として雇ってあげられなくてごめんなさいね」
ケナード家を訪れた使用人達に開口一番に謝るマーガレットに、使用人達は恐縮し、感謝したのだった。
そして、マーガレットに一生仕えるのだと心に誓った。
(マーガレット様の役に立つた為に…)
(マーガレット様に喜んで頂く為に…)
そんな共通の思いを持つ彼らが働く宿屋。
貴族達はようやくできたケナード領の宿屋に泊まり、ケナード領の職人が作り、商会で売られている物を見に訪れた。
自分達の屋敷に訪れる商人に見せられるケナード領の職人技に驚愕し、商人の選んだ数点ではなく、全ての商品を己の目で見たかったのだ。
平民達は憧れの貴族の生活が体験できると喜び、お金を貯めて特別な祝い事などの日に泊まりに来るようになった。
こうしてマーガレットの面白そうという思い付きで始まった貴族風宿屋は、ケナード領に繁栄をもたらしたのだった。
これは余談だが、マーガレットは思い付いただけで、実際に動いたのはビクトールとクロードだった。
この二人とケナード領に到着してからのベニー達は、宿屋の開店準備であちこち動き回っていた。
そんな彼らの忙しない姿を見て
(あらまぁ…みんな忙しそうね。お茶のお誘いをと思ったのだけれど…残念ね…)
マーガレットは呑気に考えていたのだった。
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