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第一章
一方その頃 エイドリアン
― 一方その頃 ―
王都にあるテイラー伯爵家では、一人の男が激しい怒りで震えていた。
息子からの手紙を受け取った現テイラー伯爵であり、ジェラルドの父でもあるエイドリアンだった。
「一体どういうことなんだ!」
長ったらしい手紙の大半は、真実の愛の相手であるキャシーが如何に素晴らしい女性かということが書かれてあった。
マーガレットについては離縁して屋敷を出て行ったと一文で綴られていただけで、手紙の最後には、まるでオマケのようにセバス達二人が辞めたことが書いてあったのだ。
(意味がわからん!真実の愛の相手がいたなんて話は聞いていないぞ!セバスの報告にも書いてなかったではないか!)
セバスはキャシーが屋敷に来た頃に、何度かエイドリアンに報告の手紙を書いていた。
だが、新人のメイドがお茶を零してしまったり、何故か執務室の窓が開いていて飛ばされてしまったりと、不運な事故が重なってしまい、エイドリアンは報告を読むことが出来なかったのだ。
(まだジェラルドには本格的な仕事は任せていないから、どうせ大したことは書いていないだろう…)
エイドリアンがそう思ってセバスにも手紙の再発行を催促しなかったことで、キャシーの存在には気付かなかったのだ。
キャシーについて何も言われなかったセバスは、平民とではあるが、真実の愛はエイドリアンにも認められたのだと思い、報告することを止めたのだった。
(はぁ…勝手なことをしよって…一人息子だと甘やかしすぎたか…?ケナード家にはわざわざ私自身が頭を下げて、こちらから頼み込んだというのに…また頭を下げに行かねばならんのか…)
エイドリアンは貴族らしい貴族だったので、高位の者にならまだしも、同格やそれ以下の者に頭を下げたくはなかったのだ。
「おい、手紙を書くから用意をしなさい」
エイドリアンは側に立つ執事に命令した。
(急いでケナード家に謝罪の手紙と訪問の許可を取らねば…事業だけは続けなければ、我がテイラー家は私の代で終わってしまう…そんな事はできん!)
ジェラルドはマーガレットに一切興味がなかったので知らなかったが、ケナード家の商会や職人達は王国一と言っても過言ではない程に優れていた。
いくらテイラー領に良い品が有ろうとも、それを加工し販売する者が居なければ宝の持ち腐れだ。そのための共同事業であり、結ばれた二人の婚約だったのだ。
エイドリアンの当初の予定では、ゆっくりとジェラルドに引き継ぎをして、子供が生まれたら家督を譲って自領に帰ろうと思っていた。
王都の屋敷にジェラルド達を住まわせて、自領の特産物を売り込み、高位貴族と繋がりを持たせようと施策を練っていたのだ。
エイドリアンは、ケナード家の繁栄についてはジェラルドにまだ知らせていなかった。同じ伯爵家でありながら、自分よりも成功しているケナード家に嫉妬していたからだった。
(それにしても、真実の愛か…早く言ってくれれば良いものの。そうすれば私だって協力をして、段階を踏んで婚約を解消していたのに…勝手なことをするから、後からこんなに面倒なことになってしまったではないか!セバス達だって時間と金をかけてあそこまで育てたというのに!)
エイドリアンは共同事業契約が破棄されてしまうという可能性に不安を感じていたが、離縁については気にもならなかった。
崇高なる真実の愛のためなのだから…
(キャシー…キャサリンか?年頃の娘にそんな令嬢はいただろうか…?いくら真実の愛と言っても、愛人の立場で良いと言って娘を差し出すとは…高位貴族の次女三女当たりか、下位貴族の娘だろう。少しでもテイラー家に利益のある縁談になれば良いのだが…)
エイドリアンはそんな風に考えていたが、高位貴族の三女でも下位貴族の娘でもない、酒場の給仕をやっていた平民の娘、ただのキャシーだった。
仕事はとうに辞め、キャシーは離れで贅沢に暮らしていた。
マーガレットが出て行った今では本邸に移り住み、跡取りを産むのだからと言って、次期伯爵夫人として過ごしている。
利益どころか不利益にもなりかねないキャシーなのだが、セバスとのやり取りを怠ったエイドリアンには知る由もなかった。
王都にあるテイラー伯爵家では、一人の男が激しい怒りで震えていた。
息子からの手紙を受け取った現テイラー伯爵であり、ジェラルドの父でもあるエイドリアンだった。
「一体どういうことなんだ!」
長ったらしい手紙の大半は、真実の愛の相手であるキャシーが如何に素晴らしい女性かということが書かれてあった。
マーガレットについては離縁して屋敷を出て行ったと一文で綴られていただけで、手紙の最後には、まるでオマケのようにセバス達二人が辞めたことが書いてあったのだ。
(意味がわからん!真実の愛の相手がいたなんて話は聞いていないぞ!セバスの報告にも書いてなかったではないか!)
セバスはキャシーが屋敷に来た頃に、何度かエイドリアンに報告の手紙を書いていた。
だが、新人のメイドがお茶を零してしまったり、何故か執務室の窓が開いていて飛ばされてしまったりと、不運な事故が重なってしまい、エイドリアンは報告を読むことが出来なかったのだ。
(まだジェラルドには本格的な仕事は任せていないから、どうせ大したことは書いていないだろう…)
エイドリアンがそう思ってセバスにも手紙の再発行を催促しなかったことで、キャシーの存在には気付かなかったのだ。
キャシーについて何も言われなかったセバスは、平民とではあるが、真実の愛はエイドリアンにも認められたのだと思い、報告することを止めたのだった。
(はぁ…勝手なことをしよって…一人息子だと甘やかしすぎたか…?ケナード家にはわざわざ私自身が頭を下げて、こちらから頼み込んだというのに…また頭を下げに行かねばならんのか…)
エイドリアンは貴族らしい貴族だったので、高位の者にならまだしも、同格やそれ以下の者に頭を下げたくはなかったのだ。
「おい、手紙を書くから用意をしなさい」
エイドリアンは側に立つ執事に命令した。
(急いでケナード家に謝罪の手紙と訪問の許可を取らねば…事業だけは続けなければ、我がテイラー家は私の代で終わってしまう…そんな事はできん!)
ジェラルドはマーガレットに一切興味がなかったので知らなかったが、ケナード家の商会や職人達は王国一と言っても過言ではない程に優れていた。
いくらテイラー領に良い品が有ろうとも、それを加工し販売する者が居なければ宝の持ち腐れだ。そのための共同事業であり、結ばれた二人の婚約だったのだ。
エイドリアンの当初の予定では、ゆっくりとジェラルドに引き継ぎをして、子供が生まれたら家督を譲って自領に帰ろうと思っていた。
王都の屋敷にジェラルド達を住まわせて、自領の特産物を売り込み、高位貴族と繋がりを持たせようと施策を練っていたのだ。
エイドリアンは、ケナード家の繁栄についてはジェラルドにまだ知らせていなかった。同じ伯爵家でありながら、自分よりも成功しているケナード家に嫉妬していたからだった。
(それにしても、真実の愛か…早く言ってくれれば良いものの。そうすれば私だって協力をして、段階を踏んで婚約を解消していたのに…勝手なことをするから、後からこんなに面倒なことになってしまったではないか!セバス達だって時間と金をかけてあそこまで育てたというのに!)
エイドリアンは共同事業契約が破棄されてしまうという可能性に不安を感じていたが、離縁については気にもならなかった。
崇高なる真実の愛のためなのだから…
(キャシー…キャサリンか?年頃の娘にそんな令嬢はいただろうか…?いくら真実の愛と言っても、愛人の立場で良いと言って娘を差し出すとは…高位貴族の次女三女当たりか、下位貴族の娘だろう。少しでもテイラー家に利益のある縁談になれば良いのだが…)
エイドリアンはそんな風に考えていたが、高位貴族の三女でも下位貴族の娘でもない、酒場の給仕をやっていた平民の娘、ただのキャシーだった。
仕事はとうに辞め、キャシーは離れで贅沢に暮らしていた。
マーガレットが出て行った今では本邸に移り住み、跡取りを産むのだからと言って、次期伯爵夫人として過ごしている。
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