真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN

文字の大きさ
18 / 100
第一章

一方その頃 エイドリアン

― 一方その頃 ―

王都にあるテイラー伯爵家では、一人の男が激しい怒りで震えていた。

息子からの手紙を受け取った現テイラー伯爵であり、ジェラルドの父でもあるエイドリアンだった。


「一体どういうことなんだ!」

長ったらしい手紙の大半は、真実の愛の相手であるキャシーが如何に素晴らしい女性かということが書かれてあった。

マーガレットについては離縁して屋敷を出て行ったと一文で綴られていただけで、手紙の最後には、まるでオマケのようにセバス達二人が辞めたことが書いてあったのだ。


(意味がわからん!真実の愛の相手がいたなんて話は聞いていないぞ!セバスの報告にも書いてなかったではないか!)

セバスはキャシーが屋敷に来た頃に、何度かエイドリアンに報告の手紙を書いていた。

だが、新人のメイドがお茶を零してしまったり、何故か執務室の窓が開いていて飛ばされてしまったりと、不運な事故が重なってしまい、エイドリアンは報告を読むことが出来なかったのだ。


(まだジェラルドには本格的な仕事は任せていないから、どうせ大したことは書いていないだろう…)

エイドリアンがそう思ってセバスにも手紙の再発行を催促しなかったことで、キャシーの存在には気付かなかったのだ。

キャシーについて何も言われなかったセバスは、平民とではあるが、真実の愛はエイドリアンにも認められたのだと思い、報告することを止めたのだった。


(はぁ…勝手なことをしよって…一人息子だと甘やかしすぎたか…?ケナード家にはわざわざ私自身が頭を下げて、こちらから頼み込んだというのに…また頭を下げに行かねばならんのか…)

エイドリアンは貴族らしい貴族だったので、高位の者にならまだしも、同格やそれ以下の者に頭を下げたくはなかったのだ。

「おい、手紙を書くから用意をしなさい」

エイドリアンは側に立つ執事に命令した。

(急いでケナード家に謝罪の手紙と訪問の許可を取らねば…事業だけは続けなければ、我がテイラー家は私の代で終わってしまう…そんな事はできん!)

ジェラルドはマーガレットに一切興味がなかったので知らなかったが、ケナード家の商会や職人達は王国一と言っても過言ではない程に優れていた。

いくらテイラー領に良い品が有ろうとも、それを加工し販売する者が居なければ宝の持ち腐れだ。そのための共同事業であり、結ばれた二人の婚約だったのだ。


エイドリアンの当初の予定では、ゆっくりとジェラルドに引き継ぎをして、子供が生まれたら家督を譲って自領に帰ろうと思っていた。

王都の屋敷にジェラルド達を住まわせて、自領の特産物を売り込み、高位貴族と繋がりを持たせようと施策を練っていたのだ。

エイドリアンは、ケナード家の繁栄についてはジェラルドにまだ知らせていなかった。同じ伯爵家でありながら、自分よりも成功しているケナード家に嫉妬していたからだった。


(それにしても、真実の愛か…早く言ってくれれば良いものの。そうすれば私だって協力をして、段階を踏んで婚約を解消していたのに…勝手なことをするから、後からこんなに面倒なことになってしまったではないか!セバス達だって時間と金をかけてあそこまで育てたというのに!)

エイドリアンは共同事業契約が破棄されてしまうという可能性に不安を感じていたが、離縁については気にもならなかった。

崇高なる真実の愛のためなのだから…


(キャシー…キャサリンか?年頃の娘にそんな令嬢はいただろうか…?いくら真実の愛と言っても、愛人の立場で良いと言って娘を差し出すとは…高位貴族の次女三女当たりか、下位貴族の娘だろう。少しでもテイラー家に利益のある縁談になれば良いのだが…)

エイドリアンはそんな風に考えていたが、高位貴族の三女でも下位貴族の娘でもない、酒場の給仕をやっていた平民の娘、ただのキャシーだった。


仕事はとうに辞め、キャシーは離れで贅沢に暮らしていた。

マーガレットが出て行った今では本邸に移り住み、跡取りを産むのだからと言って、次期伯爵夫人として過ごしている。

利益どころか不利益にもなりかねないキャシーなのだが、セバスとのやり取りを怠ったエイドリアンには知る由もなかった。

あなたにおすすめの小説

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」 新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。 それもそのはず。 2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。 でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。 美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。 だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。 どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったレオノールに、やがてクラウディオの心は……。 すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?  焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。

氷の貴婦人

恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。 呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。 感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。 毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる

冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」 謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。 けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。 なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。 そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。 恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

旦那様は離縁をお望みでしょうか

村上かおり
恋愛
 ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。  けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。  バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。

どうかこの偽りがいつまでも続きますように…

矢野りと
恋愛
ある日突然『魅了』の罪で捕らえられてしまった。でも誤解はすぐに解けるはずと思っていた、だって私は魅了なんて使っていないのだから…。 それなのに真実は闇に葬り去られ、残ったのは周囲からの冷たい眼差しだけ。 もう誰も私を信じてはくれない。 昨日までは『絶対に君を信じている』と言っていた婚約者さえも憎悪を向けてくる。 まるで人が変わったかのように…。 *設定はゆるいです。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。