54 / 100
第二章
精霊の神殿
「ここが精霊を祀る神殿だよ」
マーガレット達はギルバートの案内で小さな神殿の中にいた。
神殿は古い石造りの建物で、壁には壁画が描かれていた。
そこには羽がある人間とそうでない人間が描かれていて、羽のある人間が精霊なのだろう。精霊が人間に手を翳す壁画や、人間達が精霊を拝んでいる壁画もあった。
(まぁ、とても神秘的な壁画だわ。これが精霊様なのね…)
マーガレットは壁画に近づいて眺めていた。
「誰がいつ、どうやってこの壁画を描いたのかは未だに解明されていないのだ。言い伝えでは、当時のシルベスタには羽の生えた種族が居たという」
ギルバートがマーガレットに壁画の説明をした。
「そうなのですね。では、ここに描かれている物は実際に起きた出来事なのでしょうか…?」
「そうだね、この壁画を見てごらん」
ギルバートが一つの壁画を指差した。
「これは、冠かしら…?」
マーガレットは小さな声で呟いた。
「そう、これは当時の王族だったと言われていてね。羽を持つ人が王族を導いているように見えるだろう?だからシルベスタでは、この種族を精霊として信仰するようになったそうだ」
「これはとんだ失礼を…」
マーガレットは自身の独り言を聞かれていた事に焦ったが、ギルバートに懇願されてしまった。
「シルベスタ帝国ではそこまで身分に隔たりがないし、どうか楽にして欲しい。私達は友人だろう?畏まられてしまうと私も気が抜けないよ」
「……ギルバート殿下のお望みでしたら…」
(よしっ!)
ギルバートはマーガレットの友人の座を勝ち取った?のだった。
(ギルバート殿下と友人だなんて良かったのかしら…?でも、私も肩の力が抜けるもの。お互いに気の楽な方が良いわよね)
ケナード領からあまり出たことのないマーガレットは、堅苦しい言葉遣いが好きではなかった。基本的に暢気であるが生真面目な性格でもあった為、言葉遣いには気を付けていたのだった。
マーガレットがギルバートに説明されながら壁画を眺めていると、年老いた男が神殿に入って来た。
「これはこれは…お若い方達が神殿に来るとは珍しいですな」
「ごきげんよう」
マーガレットがペコリと簡単なお辞儀をした。
「いやはや、若い者達はあまり興味を持ちませんからな。精霊の言い伝えも廃れて行ってしまった…」
老人は顔を歪ませてそう言った。
「あなたは言い伝えに詳しいのだろうか?」
ギルバートが老人に尋ねた。
「伊達に年食ってる訳ではないですからな。きっと、お若いあなたよりは詳しいでしょう。この老耄の話で良ければお聞かせしましょうぞ?」
「是非お聞きしたいわ!」
マーガレットが前のめりになって、目を輝かせていた。
「ふぉふぉふぉ。では、これは古くから言い伝えられている話でね…」
― 遠い昔、まだシルベスタが帝国になる前の話だよ。
そこには二つの国があってね。羽を持つ種族、精霊が治める国と、羽を持たない種族、人間が治める国があったんだよ。
どちらも争い事のない平和な国だった。
ある時人間の国で飢饉が起きてね、人々はとても苦しんでいたんだよ。心の優しい精霊達は、苦しむ人々を見ていられなかったんだね。だから手を差し伸べたんだよ。
精霊達は不思議な力で人間達の国を豊かにしていって、人々は涙を流して感謝をしたそうだよ。
でも、人間っていうものは欲張りな種族だったんだよ。
精霊達のお陰で国が豊かになったのにね…
「もっと豊かにして欲しい」
「もっと楽な生活を送れるようにして欲しい」
次第にそう言うようになっていったんだよ。
精霊達が拒むと今度は怒り出してしまってね。それは酷いものだったそうだよ。
精霊達は人々の変わりように心が傷付いてしまったんだよ。優しくて繊細な心を持っていたからね。
彼らは国を捨てる決心をして、遠い場所へと移り去って行ってしまったんだよ。
人々は精霊達の居なくなった国を自分達の物にして、豊かな国が手に入ったと喜んでいたよ。
でも、段々と実りが悪くなって、また飢饉が起きてしまったんだよ。
当時の人間の王は、その時になって初めて後悔したんだよ。自分達を助けてくれた精霊達を追いやってしまったんだとね。
それから精霊達に戻って来て欲しいという願いと、感謝の気持ちを忘れてはいけない、必要以上に欲張ってはいけないと、過去の過ちを忘れないように、この神殿が建てられたんだよ。
「これが古くから言い伝えられている話だよ。若い者は知らないだろう。時の流れとはそういう物なんだよ。悲しい事だね…」
話し終えた老人の顔はとても辛そうだった。
「とても悲しいお話ね。私達は精霊様への感謝の気持ちを忘れてはならないのだわ…」
老人の話を聞いて、マーガレットは悲しくなった。
「優しいお嬢さんなら大丈夫でしょうな。そして、王族には他にも言い伝えられている話がある…そうでしょう?」
老人がギルバートに聞いた。
「あぁ。あなたの話は初めて聞いたが、王族の者にしか伝えられない話はよく聞かされている」
「そうでしょう。心に留めておきなさい。決して忘れてはいけないよ」
そう言って、老人は神殿を出ていったのだった。
(昔は羽の生えた種族がいたのね…あら?羽があるのなら、妖精さんは精霊様と関係があるのかしら?そう言えば、帝国に入ってからはまだ妖精さんを見ていないわ…)
「お爺さん、お聞きしたいことが…」
マーガレットは老人に妖精の事を聞こうと外に出たが、老人は何処にもいなかった。
マーガレット達はギルバートの案内で小さな神殿の中にいた。
神殿は古い石造りの建物で、壁には壁画が描かれていた。
そこには羽がある人間とそうでない人間が描かれていて、羽のある人間が精霊なのだろう。精霊が人間に手を翳す壁画や、人間達が精霊を拝んでいる壁画もあった。
(まぁ、とても神秘的な壁画だわ。これが精霊様なのね…)
マーガレットは壁画に近づいて眺めていた。
「誰がいつ、どうやってこの壁画を描いたのかは未だに解明されていないのだ。言い伝えでは、当時のシルベスタには羽の生えた種族が居たという」
ギルバートがマーガレットに壁画の説明をした。
「そうなのですね。では、ここに描かれている物は実際に起きた出来事なのでしょうか…?」
「そうだね、この壁画を見てごらん」
ギルバートが一つの壁画を指差した。
「これは、冠かしら…?」
マーガレットは小さな声で呟いた。
「そう、これは当時の王族だったと言われていてね。羽を持つ人が王族を導いているように見えるだろう?だからシルベスタでは、この種族を精霊として信仰するようになったそうだ」
「これはとんだ失礼を…」
マーガレットは自身の独り言を聞かれていた事に焦ったが、ギルバートに懇願されてしまった。
「シルベスタ帝国ではそこまで身分に隔たりがないし、どうか楽にして欲しい。私達は友人だろう?畏まられてしまうと私も気が抜けないよ」
「……ギルバート殿下のお望みでしたら…」
(よしっ!)
ギルバートはマーガレットの友人の座を勝ち取った?のだった。
(ギルバート殿下と友人だなんて良かったのかしら…?でも、私も肩の力が抜けるもの。お互いに気の楽な方が良いわよね)
ケナード領からあまり出たことのないマーガレットは、堅苦しい言葉遣いが好きではなかった。基本的に暢気であるが生真面目な性格でもあった為、言葉遣いには気を付けていたのだった。
マーガレットがギルバートに説明されながら壁画を眺めていると、年老いた男が神殿に入って来た。
「これはこれは…お若い方達が神殿に来るとは珍しいですな」
「ごきげんよう」
マーガレットがペコリと簡単なお辞儀をした。
「いやはや、若い者達はあまり興味を持ちませんからな。精霊の言い伝えも廃れて行ってしまった…」
老人は顔を歪ませてそう言った。
「あなたは言い伝えに詳しいのだろうか?」
ギルバートが老人に尋ねた。
「伊達に年食ってる訳ではないですからな。きっと、お若いあなたよりは詳しいでしょう。この老耄の話で良ければお聞かせしましょうぞ?」
「是非お聞きしたいわ!」
マーガレットが前のめりになって、目を輝かせていた。
「ふぉふぉふぉ。では、これは古くから言い伝えられている話でね…」
― 遠い昔、まだシルベスタが帝国になる前の話だよ。
そこには二つの国があってね。羽を持つ種族、精霊が治める国と、羽を持たない種族、人間が治める国があったんだよ。
どちらも争い事のない平和な国だった。
ある時人間の国で飢饉が起きてね、人々はとても苦しんでいたんだよ。心の優しい精霊達は、苦しむ人々を見ていられなかったんだね。だから手を差し伸べたんだよ。
精霊達は不思議な力で人間達の国を豊かにしていって、人々は涙を流して感謝をしたそうだよ。
でも、人間っていうものは欲張りな種族だったんだよ。
精霊達のお陰で国が豊かになったのにね…
「もっと豊かにして欲しい」
「もっと楽な生活を送れるようにして欲しい」
次第にそう言うようになっていったんだよ。
精霊達が拒むと今度は怒り出してしまってね。それは酷いものだったそうだよ。
精霊達は人々の変わりように心が傷付いてしまったんだよ。優しくて繊細な心を持っていたからね。
彼らは国を捨てる決心をして、遠い場所へと移り去って行ってしまったんだよ。
人々は精霊達の居なくなった国を自分達の物にして、豊かな国が手に入ったと喜んでいたよ。
でも、段々と実りが悪くなって、また飢饉が起きてしまったんだよ。
当時の人間の王は、その時になって初めて後悔したんだよ。自分達を助けてくれた精霊達を追いやってしまったんだとね。
それから精霊達に戻って来て欲しいという願いと、感謝の気持ちを忘れてはいけない、必要以上に欲張ってはいけないと、過去の過ちを忘れないように、この神殿が建てられたんだよ。
「これが古くから言い伝えられている話だよ。若い者は知らないだろう。時の流れとはそういう物なんだよ。悲しい事だね…」
話し終えた老人の顔はとても辛そうだった。
「とても悲しいお話ね。私達は精霊様への感謝の気持ちを忘れてはならないのだわ…」
老人の話を聞いて、マーガレットは悲しくなった。
「優しいお嬢さんなら大丈夫でしょうな。そして、王族には他にも言い伝えられている話がある…そうでしょう?」
老人がギルバートに聞いた。
「あぁ。あなたの話は初めて聞いたが、王族の者にしか伝えられない話はよく聞かされている」
「そうでしょう。心に留めておきなさい。決して忘れてはいけないよ」
そう言って、老人は神殿を出ていったのだった。
(昔は羽の生えた種族がいたのね…あら?羽があるのなら、妖精さんは精霊様と関係があるのかしら?そう言えば、帝国に入ってからはまだ妖精さんを見ていないわ…)
「お爺さん、お聞きしたいことが…」
マーガレットは老人に妖精の事を聞こうと外に出たが、老人は何処にもいなかった。
あなたにおすすめの小説
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。
たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。
彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。
『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』
「……『愛している』、ですか」
いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚
きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」
新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。
それもそのはず。
2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。
でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。
美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。
だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。
どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったレオノールに、やがてクラウディオの心は……。
すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?
焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
噂の悪女が妻になりました
はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。
国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。
その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。
真実の愛がどうなろうと関係ありません。
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。
婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。
「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」
サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。
それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。
サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。
一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。
若きバラクロフ侯爵レジナルド。
「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」
フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。
「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」
互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。
その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは……
(予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)