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第五話
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「ちなみに、子どもを残せない男性はどうなるんですか?」
ミナミはこわごわと先生に尋ねた。
「奴隷だな。多くが富裕層に買われていく。男色の男のこともあれば、性奴隷として種無しの男を敢えて希望する女性もいる。この国の若い男は繁殖プログラムを皆受けているから、言っちゃ悪いがどんな不細工でも事故で四肢が欠けていたりしても、女であれば興奮できるんだ。すごい才能だよな。子無しだと一般企業には就けないし、まぁそれが堅実だろうな」
「奴隷……」
冷えきった心が、さらに氷のように冷たくなるのを感じた。
強制的な性交によって愛を知らぬまま生まれ大きくなって、誰の一番にもなれぬまま商品として一生を終える。
そんなことがあっていいのだろうか。
せっかく人間に生まれたのに、自由すら与えられずに動物以下だ。
ミナミも、そうなる可能性が消えた訳ではない。
妊娠し、その先の流産や早産の危機を乗り越えて、さらに現代より何倍も危険が伴う出産を無事に終え、健康な子を国へ渡して初めて、繁殖の義務を果たしたと言えるのだ。
それがこの国で生きるということ。
でも、そんなこと絶対にしたくない……
ミナミは声を上げた。
「ミナミは反対です。人の命は平等です。子どもができないからと言って人間らしい生き方を取り上げるのはどうかと思います」
先生や少年少女たち、その場にいる人たちが一斉にミナミの方を向いた。
「では代替案を提示してみなさい。人が滅ばずに、順調に子孫が繁栄していく筋道が、これ以外にあるというのかね?」
「それは……」
言葉に詰まった。
確かに、そんなに都合のいいアイディアなどない。
ミナミの前世でも多くの国が、市や町が、人口減少には悩まされ続けていたからだ。
「今は分かりませんけど、皆が集まって議論を重ねれば必ずいい策が浮かぶはずです!」
「……この子、どっかで見たと思ったらさっきフィリと一緒にいた子じゃん!」
その時、ミナミの言葉を遮るように、兄妹の兄が手を叩いた。
「フェリックスが子無しだから庇ってんのか! そっか、そうだよなー。その制服を着れるのは検査済みの奴だけだし、あいつが初期検査やったのか! 他国には一度交わっただけで好きになる女もいるって聞くし、おまえ惚れたんだな? あんな粗チン野郎に、男に嫁入りする負けチンに!」
ガハハハハ、と兄は爆笑し始めた。
つられて妹も笑い声がこぼれるのを必死にこらえている。
「お兄ちゃんたらー、ちょっと言い過ぎ……! 本当のことだからって……! もっとオブラートに包むとかあるじゃない」
妹は兄の腕を組んで身体をくねらせた。
子持ちが何よりもステータスであるこの世界、於いてはこの学校では、まだ十五、十六歳にも関わらず三人もの子をもうけた兄を持つ妹は、きっと鼻が高いだろう。
それだけじゃないのに、人生とは子を成すことだけじゃないのに。
上手く言い返せない自分がもどかしい。
ミナミは唇を噛んだ。
「別に惚れたわけじゃないです。ミナミだってそんなことで人を好きになんかならない」
「隠さなくていいよ、恋愛は自由だからね。奴隷になってしまっても愛し続けるなんてロマンチックー! いつかは買い戻さないとね! 男色家を超える収入を得て、大好きなあの人感動の再会ー!」
バチン、と鈍い音が響いた。
気づけば、ミナミは兄の頬をぶってしまっていた。
「だから、別にそういんじゃないって言ってるでしょう! 会ったばかりの人どうやって好きになれと言うんですか? フェリックスさんはただ助けてくれただけです! 始めちょっとびっくりしたけど、セックスするしか生きられないならそうするしかないじゃないですか。どう見てもミナミは外国人だから、慣れてないから、初めてでオジサンは嫌だろうって、気遣ってくれただけです!」
彼女は自分でも何故こんなに怒ってるのか分からなかった。
「それに……っ! 粗チンだ何だって言ってますけど! あなたフェリックスさんとヤッたことあるんですか!?ヤったことないのに駄目だとか使えないだとか決めつけるのいい加減にしてください!」
兄は呆然とした顔でミナミを見ている。
その兄の胯間を指差してミナミは続ける。
「あのね! あなたのぶら下げてるそれは子作りだけの道具じゃないんです! ミナミの国ではセックスは、愛情を確かめ合う為にもやったりするんです! 道具を使ったり薬を飲んだりして、わざわざ子どもが出来ないようにして! そういうときに重要なのはいかに相手を気遣ってやれるかなんです、優しくできるかなんです! デリケートなんですよ、人間の身体は。妹さんをちゃんと労ってあげてるんですか?」
キッと兄を睨みつけると、兄は思わずビクッと身体震わし、妹はそんなこと考えたこともない様子で、キョトンとその場にたたずんでいる。
「自分のことも意識して気にかけてもらえれば、自ずと気持ちもついてきます。自分だけ気持ち良くなるんじゃなくて、二人で気持ち良くなれる、これこそがセックスの真髄だと思うんです。お兄さんはちゃんと気持ち良くさせることができるんですか? ちなみにフェリックスさんはでかくて太くて獰猛な神チンなので!! ミナミのこと超気持ち良くしてくれましたけどね!!!」
ミナミはありったけの想いを兄にぶちまけた。
(ついさっき処女喪失したばかりの素人が、何を知ったかぶって語ってるんだ)
冷静になって考えると、後先考えない浅はかな自分が恥ずかしくてたまらない。
しかもチンやらセックスやら連呼してしまったし。
普段のミナミなら絶対言わない言葉を大声で叫んでしまって、みんなにどう思われたのか想像するのが恐ろしかった。
でもどうしてもミナミは許せなかったのだ。
フェリックスのことを馬鹿にするこの世界の人たちを。
ミナミはこわごわと先生に尋ねた。
「奴隷だな。多くが富裕層に買われていく。男色の男のこともあれば、性奴隷として種無しの男を敢えて希望する女性もいる。この国の若い男は繁殖プログラムを皆受けているから、言っちゃ悪いがどんな不細工でも事故で四肢が欠けていたりしても、女であれば興奮できるんだ。すごい才能だよな。子無しだと一般企業には就けないし、まぁそれが堅実だろうな」
「奴隷……」
冷えきった心が、さらに氷のように冷たくなるのを感じた。
強制的な性交によって愛を知らぬまま生まれ大きくなって、誰の一番にもなれぬまま商品として一生を終える。
そんなことがあっていいのだろうか。
せっかく人間に生まれたのに、自由すら与えられずに動物以下だ。
ミナミも、そうなる可能性が消えた訳ではない。
妊娠し、その先の流産や早産の危機を乗り越えて、さらに現代より何倍も危険が伴う出産を無事に終え、健康な子を国へ渡して初めて、繁殖の義務を果たしたと言えるのだ。
それがこの国で生きるということ。
でも、そんなこと絶対にしたくない……
ミナミは声を上げた。
「ミナミは反対です。人の命は平等です。子どもができないからと言って人間らしい生き方を取り上げるのはどうかと思います」
先生や少年少女たち、その場にいる人たちが一斉にミナミの方を向いた。
「では代替案を提示してみなさい。人が滅ばずに、順調に子孫が繁栄していく筋道が、これ以外にあるというのかね?」
「それは……」
言葉に詰まった。
確かに、そんなに都合のいいアイディアなどない。
ミナミの前世でも多くの国が、市や町が、人口減少には悩まされ続けていたからだ。
「今は分かりませんけど、皆が集まって議論を重ねれば必ずいい策が浮かぶはずです!」
「……この子、どっかで見たと思ったらさっきフィリと一緒にいた子じゃん!」
その時、ミナミの言葉を遮るように、兄妹の兄が手を叩いた。
「フェリックスが子無しだから庇ってんのか! そっか、そうだよなー。その制服を着れるのは検査済みの奴だけだし、あいつが初期検査やったのか! 他国には一度交わっただけで好きになる女もいるって聞くし、おまえ惚れたんだな? あんな粗チン野郎に、男に嫁入りする負けチンに!」
ガハハハハ、と兄は爆笑し始めた。
つられて妹も笑い声がこぼれるのを必死にこらえている。
「お兄ちゃんたらー、ちょっと言い過ぎ……! 本当のことだからって……! もっとオブラートに包むとかあるじゃない」
妹は兄の腕を組んで身体をくねらせた。
子持ちが何よりもステータスであるこの世界、於いてはこの学校では、まだ十五、十六歳にも関わらず三人もの子をもうけた兄を持つ妹は、きっと鼻が高いだろう。
それだけじゃないのに、人生とは子を成すことだけじゃないのに。
上手く言い返せない自分がもどかしい。
ミナミは唇を噛んだ。
「別に惚れたわけじゃないです。ミナミだってそんなことで人を好きになんかならない」
「隠さなくていいよ、恋愛は自由だからね。奴隷になってしまっても愛し続けるなんてロマンチックー! いつかは買い戻さないとね! 男色家を超える収入を得て、大好きなあの人感動の再会ー!」
バチン、と鈍い音が響いた。
気づけば、ミナミは兄の頬をぶってしまっていた。
「だから、別にそういんじゃないって言ってるでしょう! 会ったばかりの人どうやって好きになれと言うんですか? フェリックスさんはただ助けてくれただけです! 始めちょっとびっくりしたけど、セックスするしか生きられないならそうするしかないじゃないですか。どう見てもミナミは外国人だから、慣れてないから、初めてでオジサンは嫌だろうって、気遣ってくれただけです!」
彼女は自分でも何故こんなに怒ってるのか分からなかった。
「それに……っ! 粗チンだ何だって言ってますけど! あなたフェリックスさんとヤッたことあるんですか!?ヤったことないのに駄目だとか使えないだとか決めつけるのいい加減にしてください!」
兄は呆然とした顔でミナミを見ている。
その兄の胯間を指差してミナミは続ける。
「あのね! あなたのぶら下げてるそれは子作りだけの道具じゃないんです! ミナミの国ではセックスは、愛情を確かめ合う為にもやったりするんです! 道具を使ったり薬を飲んだりして、わざわざ子どもが出来ないようにして! そういうときに重要なのはいかに相手を気遣ってやれるかなんです、優しくできるかなんです! デリケートなんですよ、人間の身体は。妹さんをちゃんと労ってあげてるんですか?」
キッと兄を睨みつけると、兄は思わずビクッと身体震わし、妹はそんなこと考えたこともない様子で、キョトンとその場にたたずんでいる。
「自分のことも意識して気にかけてもらえれば、自ずと気持ちもついてきます。自分だけ気持ち良くなるんじゃなくて、二人で気持ち良くなれる、これこそがセックスの真髄だと思うんです。お兄さんはちゃんと気持ち良くさせることができるんですか? ちなみにフェリックスさんはでかくて太くて獰猛な神チンなので!! ミナミのこと超気持ち良くしてくれましたけどね!!!」
ミナミはありったけの想いを兄にぶちまけた。
(ついさっき処女喪失したばかりの素人が、何を知ったかぶって語ってるんだ)
冷静になって考えると、後先考えない浅はかな自分が恥ずかしくてたまらない。
しかもチンやらセックスやら連呼してしまったし。
普段のミナミなら絶対言わない言葉を大声で叫んでしまって、みんなにどう思われたのか想像するのが恐ろしかった。
でもどうしてもミナミは許せなかったのだ。
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