どうぞ、おかまいなく

こだま。

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「……スミス男爵令嬢がフリーになるなら、僕が改めて申し込んでも良いだろうか……駄目かな?」

ボソッっと小さくつぶやいたのだろうが、全員が聞き逃さなかった。

「えええっ!!」

信じられないと言う顔で、皆一方向に顔を向け、次に私を見る。
一番信じられないと思っているのは、……私です。

ついさっき、御尊顔を拝見したばかりの、いわばニワカファンの私に、何をトチ狂ってしまわれたのかっ!!
ビックリして固まっていると、

「イ……イアン様、本気で言ってるんです?
ラナよりもチンチクリンなこんな子にっ!?」

本人を目の前にして、それを言える根性……素晴らしいです。
が、トンチキな貴女には言われたくないです。

「騎士を目指しているのに、嘘偽りは言わないよ。
スミス男爵令嬢。以前から度々、クラリスにポートレートをくれているだろう?
あれ、実は全部僕の部屋にあるんだ」

学校の選択授業の課題で撮った使わないポートレートをクラリスが目にして、気に入ったからと何回かあげたことがある。こんな自分の撮ったものでも、気に入ってくれたと言うのが嬉しかった。

「え……、なんで……」

クラリスに聞く。

「気に入って、いただいたポートレートを家の居間に飾っていたのよ。
それを見たお兄様にどうしてもと強請られて、最初の一枚は譲ったの」

「最初の一枚は……?」

「後のものは、私のいない間に家族に言って、強請って持って帰ってしまうの。
だから、私の家には残念ながらアンジェラのポートレートはなくて、お兄様の家にあるのよ」

……少なからず、衝撃を受けてしまいました。
まさか、イアン様が私のポートレートのオタクだったとは!
なんだか褒められたようで、照れてしまいます。

「湖畔の廃墟のポートレートがとても良かった。路地とか、普段何気なく通り過ぎる景色をこんなに素敵な場所にしてしまえるなんて、なんかの魔法かなと……」

はにかみながら、答えるイアン様。
すみません。もう、私の心臓が持ちません。
誰か、酸素を……。

「でね、アンジェラの話をたまにするでしょ。お兄様ったら、前のめりで聞きたがるのよ。
アンジェラはお兄様の推しなの」

お、推し……???
さらにクラクラしてきました。

「婚約解消するなら、新たな婚約をお兄様とどうかしら?
騎士志望だから、誠実よ。
こんな見た目で性格もワンコのように牧歌的だから、
オススメの優良物件だと思うけれど……」

目眩で気を失っている場合ではない。
正気に戻り、現実問題として高いハードルだと告げる。

「え……、家は男爵家なので、身分とか……」

イアン様が軽く飛び越えてくる……。

「あ、僕は三男で家を出るときに子爵位をもらうけど、
騎士だから領地経営はないし、身分はこだわらなくていいよ」

しかし、しかし、しかしっ!

「でも、ファンの方々が……」

気後れしてジリジリ後ずさるアンジェラに、マリアも詰めてくる。

「大丈夫よ、推しが健康で、幸せでいることが私たちの幸福だから。イアン様の幸せを見守るわ」

「……どうかな?」

上目遣いで少し不安そうな表情の、美丈夫の駄目押しきた~。
天使か、天使なのか?
完全にチェックメイトです!

「……地味で平凡な、ふつつかものですが……末永く宜しくお願いいたします」

めっちゃ、特大の棚からぼた餅……、いや、追い込み漁で、放流直後に捕まりました。
今日は、おなかいっぱいです。
なんだかあり得ない展開で疲れてふらついたので、ステラと一緒にイアン様に家の近所まで送っていただくことになりました。

カフェの二時間が、一週間ぐらいの濃さで怒涛の展開を見せたのである。
一方の、寒風吹きすさび荒ぶる波を背負う、話に入れなかった二人を置き去りに、春の木漏れ日のようなホッコリとした集団が帰っていく。

「な、なによ、なんなのよ……。こんなはずじゃ……。
ステュがアンジェラさんを繋ぎとめておかないから、
イアン様を取られたじゃないのっ。
ばかばかばかっ!」

涙を滲ませて、スティーヴンの背中をパシパシと叩く。幾重にもダメージを受けた二人のその顔は、大変悲壮に満ちている。
……自業自得です。

カフェの女給さんが、ライフゲージ切れの二人に声をかけた。

「紅茶のおかわりをお持ちいたしましょうか?」

「……えっ……、ああ……いえ、
どうぞ、おかまいなく……」

肩を落としたまま、力なく帰路につく。
高速でざまあ砲を浴び、これから両親になんと説明すれば良いのか、頭を悩ませてゲッソリとしていた。
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