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14.勘違い
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すとん、と地に踵を付けて目を開ければ、その喉仏が動いたのが分かった。
アルフレッド様が薬を飲み終えたのを見てから、わたしはもう一度彼を見上げた。
「これは……つまり……」
そう呟いて、確かめるように頬に手をやった。そのまま、アルフレッド様は長い指で己の唇をなぞった。
「俺と付き合ってくれるということで、いいのだろうか、クリスタニア嬢」
「えっうそ」
これは、一体どういうことだろう。おかしい。
ちゃんと解毒薬を飲ませたはずなのに、青い目の熱さが変わらない。
「無理です、どう考えても、無理です!!」
こんなかっこいい人と付き合うとか考えられない。わたしなんかはきっと、お呼びじゃない。
とにかく一度ここは引こう。困ったら逃げるべきって、メリ姉も言っていた。
「きっと何かの間違いです! それでは」
くるりとアルフレッド様に背を向けて走り出そうと思ったところで、ぐっと右の手首を掴まれた。
「クリスタ」
普通に名前を呼ばれたのは、はじめてだった。
そのまま、背中からぎゅっと抱きしめられる。その仕草は性急でアルフレッド様らしくない。
「どこに、行くんだ」
耳元に吐息が触れる。
「はじめてパン屋で見かけた時から、素敵だと思った」
ぞっとするほど色気の乗った声に言われて、わたしは魔法にでもかけられたかのように動けなくなる。
「君に会いたくて、苦手な甘いパンも買った。できることは全部やった。これでも俺は、必死だったんだ」
「えっ……」
そう言えば、アルフレッド様は喫茶では何もお菓子は食べなかった。
ただわたしと話をするために、あのフルーツサンドを買っていたのか。
「けれど、ちっとも君は気づいてくれなくて他の男に親し気に微笑みかけて、他にはあげない商品まで」
確かにエイベルには他にはあげない商品を渡していたけれど。
「あ、あれはただの残り物です。売り物にはできないものなだけです!」
どうしてだろう。惚れ薬の効き目はもう切れたはずなのに。これでは、まるで……。
「俺は、君のことが好きなんだ」
しなやかな腕が閉じ込めるようにわたしの胸の前で交差する。囁いた声は熱っぽく掠れる。
くるりと、体の向きを変えさせられて向き合うようになる。肩に大きな手が置かれる。
「俺の何が無理なんだ? 改善できるところがあれば、改善しよう」
その真摯な様はアルフレッド様が本気だと伝えてくる。でも、わたしにも気になることはある。
「でも、アルフレッド様はもうすぐご令嬢の方とご結婚されると」
「俺が? そんな予定はないが、どうしてそう思ったんだ?」
「街を女性の方と二人で歩いていたと、聞きました……」
アルフレッド様は少しの間額に手をやって考え込んでいた。そして、思いついたように小さく「あ」と呟いた。
「アリシアのことか」
「アリシア、様?」
「ああ、母方の従妹だ。王都を見て回りたいと言われたので案内していたのだが、それが何か」
その方、アルフレッド様の婚約者とのことで街中持ちきりです。
――で、でもさ、一緒に歩いていたからって結婚するとは限らないんじゃないかな。
実はわたしの予想の方が、正しかったということらしい。
アルフレッド様が薬を飲み終えたのを見てから、わたしはもう一度彼を見上げた。
「これは……つまり……」
そう呟いて、確かめるように頬に手をやった。そのまま、アルフレッド様は長い指で己の唇をなぞった。
「俺と付き合ってくれるということで、いいのだろうか、クリスタニア嬢」
「えっうそ」
これは、一体どういうことだろう。おかしい。
ちゃんと解毒薬を飲ませたはずなのに、青い目の熱さが変わらない。
「無理です、どう考えても、無理です!!」
こんなかっこいい人と付き合うとか考えられない。わたしなんかはきっと、お呼びじゃない。
とにかく一度ここは引こう。困ったら逃げるべきって、メリ姉も言っていた。
「きっと何かの間違いです! それでは」
くるりとアルフレッド様に背を向けて走り出そうと思ったところで、ぐっと右の手首を掴まれた。
「クリスタ」
普通に名前を呼ばれたのは、はじめてだった。
そのまま、背中からぎゅっと抱きしめられる。その仕草は性急でアルフレッド様らしくない。
「どこに、行くんだ」
耳元に吐息が触れる。
「はじめてパン屋で見かけた時から、素敵だと思った」
ぞっとするほど色気の乗った声に言われて、わたしは魔法にでもかけられたかのように動けなくなる。
「君に会いたくて、苦手な甘いパンも買った。できることは全部やった。これでも俺は、必死だったんだ」
「えっ……」
そう言えば、アルフレッド様は喫茶では何もお菓子は食べなかった。
ただわたしと話をするために、あのフルーツサンドを買っていたのか。
「けれど、ちっとも君は気づいてくれなくて他の男に親し気に微笑みかけて、他にはあげない商品まで」
確かにエイベルには他にはあげない商品を渡していたけれど。
「あ、あれはただの残り物です。売り物にはできないものなだけです!」
どうしてだろう。惚れ薬の効き目はもう切れたはずなのに。これでは、まるで……。
「俺は、君のことが好きなんだ」
しなやかな腕が閉じ込めるようにわたしの胸の前で交差する。囁いた声は熱っぽく掠れる。
くるりと、体の向きを変えさせられて向き合うようになる。肩に大きな手が置かれる。
「俺の何が無理なんだ? 改善できるところがあれば、改善しよう」
その真摯な様はアルフレッド様が本気だと伝えてくる。でも、わたしにも気になることはある。
「でも、アルフレッド様はもうすぐご令嬢の方とご結婚されると」
「俺が? そんな予定はないが、どうしてそう思ったんだ?」
「街を女性の方と二人で歩いていたと、聞きました……」
アルフレッド様は少しの間額に手をやって考え込んでいた。そして、思いついたように小さく「あ」と呟いた。
「アリシアのことか」
「アリシア、様?」
「ああ、母方の従妹だ。王都を見て回りたいと言われたので案内していたのだが、それが何か」
その方、アルフレッド様の婚約者とのことで街中持ちきりです。
――で、でもさ、一緒に歩いていたからって結婚するとは限らないんじゃないかな。
実はわたしの予想の方が、正しかったということらしい。
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