私が抱き続けた彼は~時を超えるアンドロイドは運命の博士を離さない~

藤原ライラ

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 HF-0108ゼロイチゼロハチ
 それが私の個体識別番号。

 HFタイプは室内での業務、主に家事に特化したタイプのアンドロイドだ。人間の個体数が減ってしまったこの世界で、生命維持に必要な家事活動を担う。具体的には掃除洗濯炊事などを行っている。ご主人マスターの依頼があれば雑用もこなす。

 一昔前に『家政婦』と呼ばれたものに一番近いのかもしれない。政府機構から各家庭に一~二台必要な数が派遣されている。

 はじめて博士と出会った時、彼は寝ぐせのついたぼさぼさの髪によれよれの黒いシャツを着ていた。

 前任のアンドロイドは何をやっていたのだろうと思う一方で、インプットしたデータの特記事項に『とてもアンドロイドの好みが激しい』との記載があったこと思い出した。大体のアンドロイドが三ヶ月ワンクールで交代を命じられるらしい。

 交代したところで、何も変わらないのになと思う。

 HFタイプは、女性であっても男性であっても最も人間が好感を抱きやすいという、二十代前半の女性の容姿を元に設計されている。識別番号はあるが、容姿は全て同じだ。インストールされているファームウェアも同じ。

 きっと、私もすぐに交代するのだろうなと思っていた。どんな偏屈な人物なのかとも。

「はじめまして、僕は宗一郎ソウイチロウと言います」

 けれど、私を迎え入れてくれたのは人懐っこい笑顔だった。

「えっと、君達名前はないんだよね?」
「はい、HF-0108と言います」

「じゃあ、ゼロイチゼロハチちゃんでいいかな? ごめんね。来たばかりで悪いんだけど、片付けからお願いしてもいいかな?」

 アンドロイドに対して、こんな腰の低い話し方をする人がいるのだろうか。

「承知いたしました。ではまず、片付けから始めます。ご主人」
「あ、できればマスターって呼ばないで欲しくて。こう、宗一郎とかって、呼んでもらえると」

「ご主人はご主人です」
「そこを、なんとか!」

 彼は、ぱんっと顔の前で両手を合わせて私を拝む。なんだか面倒なことになった。これでは確かに『アンドロイドの好みが激しい』と記載されるだろう。

 後ろには地獄とはこのことかというような惨状の部屋が広がっている。

「ご職業は、研究者と伺っておりますが」
「うん、そうだよ。一応、『博士』って呼ばれることも多いよ」
「それでは、私も『博士』とお呼びするのはいかがでしょうか?」

 さすがに主人を名前で呼ぶのはアンドロイドの領域を超える。ただ、主人の要望にはできるだけ応える必要があるだろう。ここが譲歩できるぎりぎりだ。何より早く片付けがしたい。

「はかせ……」
 彼は目をきらきらさせながら私を見下ろしてきた。

「いいね、すごくいい。それでいこう。よろしくね、ゼロイチゼロハチちゃん」
 右手を出して握手まで求めてくる始末。仕方なく、私はその手を握った。
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