【完結】呪いを解いて欲しいとお願いしただけなのに、なぜか超絶美形の魔術師に溺愛されました!

藤原ライラ

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幕間

魔術師の独白

 最初はただ単純に呪いに興味があった。

 自分でもかけたことのないような、複雑で難解な呪い。それを解いたら、どんな気分だろう。どんな対価を奪い取ってやろう。厭世の暇つぶしにはもってこいだった。

 呪いとは執着、未練、依存。その成れの果ての形。
 美しいドレスの代わりに禍々しい想いの檻に閉じ込められた王女様。
 寝台の上で眠る彼女を見遣る。目を閉じて、一つ呼吸をする。

 思い浮かべるのは、清浄な朝の空気。
 彼女の体に手を翳して、浄化と治癒の魔法をかける。華奢な体をやわらかな光が包み込んで、やがて収まっていく。

 自分がつけた醜い所有の印も、おぞましい呪いも、その白い滑らかな肌に何一つ残っていないことにほっとする。
 元のように、魔法で取り去った夜着を着せると、閉じられた左の瞼から一筋の雫が流れ落ちた。

 あの時、触れてきた手を掴んではいけなかった。この手とは比べものにならないほど、か弱い小さな手。振りほどくことなど簡単だと思ったのに。
 いつの間にか、囚われていたのは自分の方だった。
 紛い物の感情に、本物の心を返される度にどうすればいいのか分からなくなった。対価を貰いすぎた。傾いた天秤の戻し方が分からなかった。

 もう二度と、彼女に触れる資格なんてない。
 そう思うけれど、涙の痕が残るのはよくないなと思った。
 少し悩んでから、やわらかな頬に触れる。できるだけ丁寧に涙を拭って痕を消した。絡まった髪を梳く。手のひらをさらさらと黒髪が流れていく。

 こんなに虚しいものだとは思わなかった。抵抗できないように縛った彼女を突き上げる度に、自分の中の何かが死んでいく気がした。
 「さよなら」と言うつもりだった。
 彼女を自由にしなければならない。同じ昏い海の底に引き摺りこんではいけない。
 そう思うのに、口を衝いて出たのは未練がましい「おやすみ」だった。魔術と引き換えに売り渡した嘘はこんな時まで「正直」だ。

 目覚めた時、彼女は何も覚えていない。
 手酷く抱かれたことも、泣いたことも。
 満ちた月が欠けて消えるまでの、このわずかな期間。共に過ごした何もかもを。
 覚えているのは、おれだけでいい。

「もう一回ぐらい食べたかったかな」

 木漏れ日のようなきらきらとした瞳で、彼女が差し出してきた甘やかな、マドレーヌというお菓子。
 その手から与えられたお菓子が、他のどれよりも美味しく感じた。
 全部、奪って食べ尽くしたいと思うぐらいに。

「さてと」
 このままいつまでもここに居てしまいそうだ。散らかしたローブを羽織る。

 もうすぐ日が昇る。
 月の役目は、終わり。
 せめて大きな業から解放された彼女のこれからが。
 幸せであってほしいと願った。
 
 銀色の翼を広げた小さな鳥が、白み始めた空に羽搏き、消えていった。
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