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第二部
2.失くした何かー②
こういう顔をしている人を、見たことがある。お祖母さまだ。小さい頃、お祖母さまが時々こんな顔をしていることがあって、尋ねた。
「何を考えてらっしゃるの?」
そんな時お祖母さまは決まってこう答えた。
「ルーカスのことよ」
亡くなってしまったお祖父さまのことを、お祖母さまはずっと想っていた。
「さみしいってこと?」
「そうね。さみしいは似ているわね。けれどそれだけではないの」
ルーカスと見たもの。ルーカスと感じたこと。
一緒に過ごした自分まで、いなくなってしまったようだと、お祖母さまは言った。
その時のお祖母さまと、同じような顔をわたしはしていた。
だとしたら、わたしは何を失くしたのかしら。元あったことさえ、分からないのに。
部屋に飾られた小さな花瓶の花が萎れていた。
「コルネリア、これも片づけてくれる?」
「大切にされていたのに、よろしいのですか?」
飾った覚えなんてないのに。わたしはこの花を本当に大切にしていたんだろうか。花瓶の中で項垂れる沢山の花を見遣る。
わたしはどうやってこの花を手に入れたのだろう。
萎れた花びらをなぞる。誰かが、そんな風にするのをこの目で見た気がした。
大したことではないのかもしれない。ただ、何かがぽっかりと欠けているような。
呪いは確かになくなった。けれど、一緒に、わたしは大切な何かを失くしてしまった気がしていた。
身支度を終えて、コルネリアは一度下がった。
他にすることもないので、読みかけの本を開いた。栞の代わりに、きれいな銀の羽根がはさまっていた。
読み始めたばかりだと思っていた「月の姫」はいつの間にか、魔法のヴェールで記憶を無くした姫が月に帰ってしまい、悲しみに暮れる地上の人々の話になっていた。ページを捲った覚えはないのに、どんな話かはわかる。おかしな気分だった。
銀の羽根は見たこともない鳥のもので、このまま栞にしてしまうのももったいない。少し考えて、大切なものばかりをしまっているお祖母さまにもらった宝石箱を開いた。
金の飾りのついた宝石箱の中。三つ編みされた銀と深い青の刺繍糸が入れられていた。刺繡糸は沢山持っているけれど、これを見た覚えがない。刺した記憶もない。
その傍に、丸い青い石がころんと置かれていた。
宝石ではないのだと思う。けれど、本物の宝石に負けないぐらい輝いていて美しい。
わたしはそれを手に取り、覗き込むようにして見つめた。
窓を叩く雨の音が、次第に強くなっていく。
このまま空が荒れるのが恐ろしかったわたしは、その夜、お守りのようにその石を握りしめて眠りについた。
「何を考えてらっしゃるの?」
そんな時お祖母さまは決まってこう答えた。
「ルーカスのことよ」
亡くなってしまったお祖父さまのことを、お祖母さまはずっと想っていた。
「さみしいってこと?」
「そうね。さみしいは似ているわね。けれどそれだけではないの」
ルーカスと見たもの。ルーカスと感じたこと。
一緒に過ごした自分まで、いなくなってしまったようだと、お祖母さまは言った。
その時のお祖母さまと、同じような顔をわたしはしていた。
だとしたら、わたしは何を失くしたのかしら。元あったことさえ、分からないのに。
部屋に飾られた小さな花瓶の花が萎れていた。
「コルネリア、これも片づけてくれる?」
「大切にされていたのに、よろしいのですか?」
飾った覚えなんてないのに。わたしはこの花を本当に大切にしていたんだろうか。花瓶の中で項垂れる沢山の花を見遣る。
わたしはどうやってこの花を手に入れたのだろう。
萎れた花びらをなぞる。誰かが、そんな風にするのをこの目で見た気がした。
大したことではないのかもしれない。ただ、何かがぽっかりと欠けているような。
呪いは確かになくなった。けれど、一緒に、わたしは大切な何かを失くしてしまった気がしていた。
身支度を終えて、コルネリアは一度下がった。
他にすることもないので、読みかけの本を開いた。栞の代わりに、きれいな銀の羽根がはさまっていた。
読み始めたばかりだと思っていた「月の姫」はいつの間にか、魔法のヴェールで記憶を無くした姫が月に帰ってしまい、悲しみに暮れる地上の人々の話になっていた。ページを捲った覚えはないのに、どんな話かはわかる。おかしな気分だった。
銀の羽根は見たこともない鳥のもので、このまま栞にしてしまうのももったいない。少し考えて、大切なものばかりをしまっているお祖母さまにもらった宝石箱を開いた。
金の飾りのついた宝石箱の中。三つ編みされた銀と深い青の刺繍糸が入れられていた。刺繡糸は沢山持っているけれど、これを見た覚えがない。刺した記憶もない。
その傍に、丸い青い石がころんと置かれていた。
宝石ではないのだと思う。けれど、本物の宝石に負けないぐらい輝いていて美しい。
わたしはそれを手に取り、覗き込むようにして見つめた。
窓を叩く雨の音が、次第に強くなっていく。
このまま空が荒れるのが恐ろしかったわたしは、その夜、お守りのようにその石を握りしめて眠りについた。
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