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月が降り立つ
第1話 異世界の囚われ人
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エジプトの市場は異国情緒に満ち、どこか神秘的な空気が漂っていた。ルナは友人たちと観光を楽しみながら、ふと露店に目を留める。そこには様々な宝石やアクセサリーが並んでいたが、ひときわ輝きを放つ一つの宝石が目に留まった。
「きれい…」
その宝石は虹色に光り、まるで自分を引き寄せるかのように輝いている。ルナは思わず手を伸ばし、そっと触れると、その瞬間、眩い光が彼女を包み込んだ。
次に目を開けた時、ルナは見知らぬ場所に立っていた。目の前には果てしなく広がる砂漠と、異国の風を感じさせる独特な風景。彼女は突然の出来事に混乱しながらも、必死に周囲を見渡す。
彼女の視界には、古風な衣装を身にまとった行列が進んでいるのが見えた。その行列の中心には、豪華な輿が揺れ、そこに座る一人の男性がルナの方をじっと見つめている。彼の鋭い視線が自分を捉えた瞬間、ルナは何もかもが現実であると悟る。
まばゆい光に包まれた瞬間、足元からふわりと感覚が消えた。
目を開けると、そこには見知らぬ大地が広がっていた。眼前には果てしなく続く砂漠と、蒼い空が広がっている。ルナは自分が見知らぬ場所にいることに戸惑い、辺りを見回した。埃を舞い上げながら進む人々がいて、その列の中心には、豪華な輿が揺れているのが見える。
「…夢…? それとも何かの撮影…?」
ルナは状況が飲み込めないまま立ち尽くし、ただその行列を見つめていた。だが、その輿に乗った男の鋭い視線がこちらに向けられると、何もかもが現実に引き戻されるような気がした。男は浅黒い肌に金髪と青い瞳を持ち、彼がただこちらを見ただけで行列は止まり、周囲の従者たちが彼に頭を垂れている。
「そこの娘を、こちらに連れてこい」
重々しい声が響き渡り、従者たちが一斉にルナの方へと歩み寄る。ルナは恐怖で足がすくみ、動けなくなってしまった。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
従者たちは彼女の言葉に一切耳を貸さず、無理やり腕を掴むと、輿の方へと引きずるように連れて行く。輿の中に座る男が、まるで王のように堂々とした態度で彼女を見下ろしている。
「この国のものはすべて、私とィレューネのためにある。だから、お前もだ」
その冷たい視線と声が、ルナを突き刺す。彼の言葉は威圧的で、反論を許さない力を感じさせた。ルナは必死に腕を振り解こうとするが、男の目に射すような光が宿り、まるで自分の運命が彼の手の中にあるかのような感覚に囚われてしまう。
気づけば、ルナはそのまま輿に乗せられていた。
輿は王宮へと向かって進み始めた。砂埃を上げて行進する行列の中、ルナは心臓が高鳴るのを感じながら、周囲の光景をじっと見つめていた。彼女の視線が向かう先には、使役されるように荷物を運ぶ女性たちの姿があった。彼女たちは無言で、ただ黙々と作業に従事している。
「…あの人たち、なんで誰も顔を上げないの…?」
ルナはぞっとする思いで女性たちの姿を見つめた。荷物を運ぶ姿勢も、身を縮めたような仕草も、まるで自分の意志を放棄したかのようだった。女性たちは従者や男性から命令されるままに動き、逆らおうとする気配は一切ない。
「ここで私も、あんなふうに扱われるの?」
その恐怖がルナの心を締めつける。彼女は必死に日本での自由な日常を思い出そうとするが、異世界の冷酷な現実がそれを飲み込んでいくように感じられた。
やがて、輿が一つの巨大な門の前で止まった。目の前に広がるのは、豪華絢爛な王宮だった。白い石でできた壮麗な建物が太陽の光を受け、眩いばかりに輝いている。外壁には精巧な彫刻が施され、宝石のような色鮮やかな装飾が光を反射していた。
ルナは思わず息を呑んだ。この場所がどれほど異質で、自分がいるべき場所ではないかを肌で感じていた。
「…ここが、あの人の住む場所なの…?」
広大な宮殿の門をくぐり、輿はさらに奥へと進んでいく。足元には豪華な絨毯が敷かれ、壁には金や宝石で飾られた絵画や彫刻が並んでいる。すれ違う従者たちは皆一様に頭を下げ、ルナの存在を意識する様子もない。
「なんて…世界なんだろう…」
広がる豪華さに圧倒されながらも、ルナの心には恐れと不安が渦巻いていた。彼女は、自分がこの異世界でどのような立場に置かれるのかを想像するだけで、全身が震えるような気がした。
輿が止まり、従者たちがルナを下ろす。目の前には広々とした部屋があり、豪奢な家具や装飾品が並んでいる。天井からは大きなシャンデリアが下がり、部屋全体を柔らかな光で包み込んでいるが、それがかえって彼女に冷たさを感じさせた。
従者の一人が冷静な声で告げる。
「ここが、あなたの部屋です」
その言葉に、ルナはようやく自分がどうやらこの場所に閉じ込められたことを悟った。広く、美しい部屋だが、それが彼女にとっては牢獄のように感じられる。
「…ここで、私はどうすればいいの?」
答えのない問いが、心の中に響く。この異世界での生活が、何もかもが未知であることが彼女を圧倒し、身動きが取れないほどの恐怖が彼女を襲った。
こうして、ルナはアルセリア王朝の豪華な王宮に囚われ、異世界での不安な生活の幕が開けたのだった。
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