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月が降り立つ
第6話 皇后ィレューネとの出会い
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扉が開け放たれる音で、私は目を覚ました。ぼんやりとした頭で周りを見渡すと、掛け布団の下の自分が裸であることに気づき、慌てて肩まで布団を引き上げる。心臓が早鐘を打ち、視線を上げると、気品にあふれた美しい女性が目の前に立っていた。
「ん?ああ、ィレューネか」
カリュゥムが隣で寝返りを打ちながら、まだ少し眠そうにその女性に気づく。彼女は冷静な声で返答した。
「その様子だと…まあいいわ。カリュゥム様が起きてこないから探していましたのよ」
「そうか、すまない。準備する」
カリュゥムは軽く私にキスをしてから、布団をはだけたまま、裸で扉の外に出ていく。私の視線の先で、待機していた側仕えたちがバスローブのようなものをカリュゥムにかけているのが見えた。…朝まであそこで待っていたなんて、まさかないよね?そんなことをぼんやりと考えながら、心のどこかで気まずさと恥ずかしさが混ざり合う。
「また次の女なのね…はぁ」
ため息をつきながら、冷ややかな視線で私を見つめるその女性は、堂々とした佇まいが印象的だった。彼女の瞳は深いエメラルドグリーンで、宝石のように輝いて見えた。光の加減でピンク色の輝きが差すブロンドの髪も美しく、どこか冷たさを感じさせる美貌だった。「かっこいい…」と、思わず口にしてしまった。
ィレューネはその言葉には反応せず、少し眉を上げて冷静な口調で言葉を続けた。
「あなたも、いちいちこんなことで恥ずかしがらないでちょうだい。見ているこちらが恥ずかしいわ。リュィナ。私はィレューネ。よろしく、皇后よ」
圧倒されながらも、私は何とか返事をしようと口を開く。だが、この堂々とした女性が、私とはあまりにも違う存在であることを痛感してしまう。胸の奥に不安が渦巻き、呼吸が少し浅くなるのを感じた。
「イレーネさま…?」
その言葉に彼女は一瞬、表情を固くし、冷たい視線を私に向けた。心臓がどきりと跳ね上がる。
「今、なんと言いました?」
「す、すみません。外から来たので…発音に慣れていなくて…」
ィレューネはしばらく冷ややかな目で私を見つめ、それから無言のまま身を翻して部屋を出て行った。そして扉が少し強めに閉められる音が響く。彼女の背中からは、ほんの少しの苛立ちや不快感が伝わってくるようだった。
彼女が出て行った後、私は胸の奥に小さな不安が広がるのを感じた。彼女を怒らせてしまったんだろうか。カリュゥムと少し心が近づいたと思った矢先に、彼の皇后ィレューネと出会い、さらに冷たくされたことで、まるで現実に引き戻されたような気がした。
「怒らせちゃったな…」
ィレューネにとっても、今朝はおそらく不愉快なものだったのだろう。昨日、カリュゥムが処分を決めた女たちはほとんどが貴族の娘たち。彼の指示で一斉に宮廷から送り返されたと聞いた。その後始末は、周囲に多くの緊張を走らせただろう。ィレューネもそれを仕方なく受け入れ、朝早くから対応していたのだと思うと、ますます気まずさがこみ上げる。彼女にとって、この騒動は些細なことではないのかもしれない。私のせいでさらに苛立ちを増してしまったのだろうか。
その夜も、カリュゥムは私の部屋に来てくれた。今日は、あの甘い蜜を温めてミルクティーにしてくれていた。湯気の立つ香りをかぐと、甘さと温かさが心地よくて、ほっとする。
「皇后様、怒らせちゃったかも…」
「ん?」
カリュゥムがカップに口をつけながら、少し首を傾げる。
「上手く発音ができなくて…その後、無言でこの部屋を後にしたんです…」
「そのくらい大丈夫だ」
「けど、最後に睨まれた気がして…」
「じゃあ今度謝りに行ってみろ」
「行ってみます」
カリュゥムの言葉に背中を押され、少し安心しながらカップを手に取った。温められたミルクティーを口に含むと、体の奥がじんわりと温まっていくような気がした。口当たりがとても柔らかく、甘さが心地よい。ぬくもりが体に広がり、少しずつ気持ちがほぐれていく。
飲み進めるうちに、どこか身体の奥が熱くなってくるのを感じた。じんわりとした温かさが次第に高まり、鼓動が自然と早まっていく。彼のそばにいると、安心感とともに、胸が高鳴る感覚が混ざり合ってくるのが不思議だった。私が何かを我慢できなくなったように見えたのか、カリュゥムが静かにこちらを見つめる。
その夜、彼に身を委ねると、カリュゥムの温かな腕に包まれて体が熱くなり、心も満たされていく。
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