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月が降り立つ
第7話 王宮での不安と疑念
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王宮の回廊を歩いていると、あまりの広さと豪華さに圧倒される。壁一面に施された細かい彫刻や、鮮やかな彩色で描かれた絵画は、どこかこの場所が異世界であることを強調しているようだった。私にとって、ここはあまりにも非日常で、どれだけ歩いても落ち着かない。
ふと、下腹部にじんわりと痛みを感じ、隣を歩く侍女に愚痴をこぼしてしまう。
「アイ。私、毎日ここが痛いの」
私はお腹のあたりを押さえながら、少し恥ずかしそうに言うと、アイはニコニコと微笑んで答えた。
「愛されてますね」
彼女の無邪気な返答に、思わず赤くなってしまう。侍女の名前は「アィ」だが、私にはどうしても「ア」としか聞こえなくて、何度も練習した末に「アイ」と呼ぶことに落ち着いていた。私は親しみを込めて「ルナって呼んでね」と言ってみたものの、彼女は相変わらず「リュィナ様」とだけ呼んでくる。彼女の律儀さはありがたいけれど、なんだか距離を感じてしまう。
歩いていると、すれ違うたびに貴族たちから冷たい視線を浴びるのがわかる。私は彼らにとって異質な存在なのだろうか。もしかすると、ここにいるべきではないのかもしれない…そんな気持ちが頭をよぎる。
それでも、部屋に引きこもってばかりでは心が塞いでしまう。少しでも馴染むためにと思い、足を進めた。
外の庭に出ると、遠くに皇后ィレューネの姿が見えた。彼女の隣には、カリュゥムがいる。二人は何か楽しげに話し合いながら笑っていて、その雰囲気がとても親密に見えた。私は足を止め、視線をそらすことができなくなった。
胸の奥がきゅっと痛む。息が詰まり、喉の奥が苦しくなる。カリュゥムがあのように笑い合う姿を見たことがなかったから、私はその光景に強く心を揺さぶられた。
私が知っているカリュゥムは、冷静で堂々とした王。彼の笑顔が見られるのは、私と二人きりのときだけだと、どこかで信じていた。けれど、彼はィレューネの前でこんなに楽しそうで、自然な表情を見せている。彼女と一緒だと、カリュゥムはまるで別人のように思える。
嫉妬の感情が胸の中で渦巻いていく。私はただの体の関係なのかもしれない。カリュゥムにとって、私の存在は単なる楽しみの一部でしかないのだろうか。あの二人の間には深い絆があるのに、私はその絆の外にいるに過ぎないのかもしれない。
「帰ろう」
私は視線をそらし、静かに呟いた。
「いいんですか?」
アイが小声で問いかけてくるが、私は無言で頷き、足早にその場を立ち去った。部屋へ戻る道すがら、胸の中のもやもやとした感情がますます膨らんでいく。あの楽しそうな二人の姿が頭から離れない。私は彼の何になれるのだろうか。
部屋に戻ると、力なくベッドに倒れ込んだ。重い気持ちが体にまとわりつき、何もする気になれない。
「どうしたんですか?」
アイが心配そうに尋ねてくるが、私は答える気力もなく、曖昧に返す。
「んー、ちょっと…」
下腹部の痛みも、今はどこか喜びが薄れてしまい、忌々しく感じる。自分の体が痛むたびに、カリュゥムとの夜のことが思い出されてしまう。さっき見た二人の笑顔が、私の中に苦々しい感情を呼び起こす。
私は体だけの関係なの?あんなにィレューネ様と楽しそうに話しているんだから、私なんてきっと一時的な存在に過ぎない。そもそも私は…彼にとって何の価値があるんだろう?
胸の奥に渦巻く疑念と孤独感に耐えかねた私は、意を決してアイに頼むことにした。
「アイ、今日は調子が悪いから…誰も中に入れないでほしいの」
「分かりました。リュィナ様、お体を大切にしてくださいね」
アイの優しい言葉に少し救われる気持ちになりながら、私はベッドに横たわった。いつもなら、カリュゥムが夜遅くにやってくるはずだが、今夜は彼が来ることがないようにと心のどこかで祈っている自分に気づく。もし彼が来たら、また体だけを求められるような気がして、今はそれが耐えられない。
そして、夜が更けても扉が開く音はしなかった。カリュゥムが来ないことに、私は安心感を覚え、静かに目を閉じた。このままひとりで、今夜はゆっくり眠れる。少し寂しいけれど、今の私にはこの静かな時間が必要だった。
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