アルセリア王朝記〜月の化身となる者〜

夜明けのハリネズミ

文字の大きさ
8 / 16
月が降り立つ

第8話 孤独と涙の夜

しおりを挟む


第8話 孤独と涙の夜

 この日も、私は一日中引きこもるつもりでいた。アイが心配してくれた。

「湯浴みやお食事はどうなさいますか?」

「何もいらないから、今日は放っておいて」

 すべて断り、ベッドに潜り込む。

 昨日のことが頭から離れない。あの庭で見た二人の光景が、何度もまぶたの裏に浮かんでは消える。

 あの二人は、とてもお似合いだった。カリュゥムもィレューネも、どこか現実離れした美しさで、まるで絵画の中の登場人物のようだった。二人とも背が高く、品格があり、髪も目も美しい光を放っていて、どこまでも輝いて見える。私なんて比べものにならない。

 私が、あの二人の間に入れるはずがない。彼にとって、私はただの慰みなのかもしれない…そんな考えが頭を巡り、心が重く沈んでいく。

 なぜか涙がぽろぽろと溢れてきた。頬を伝う涙を止めることができず、私はただ静かに泣いていた。

「なぜ泣いている」

 突然声がして、驚きとともに私は跳ね起きた。思わず周囲を見回すと、そこにはカリュゥムが立っていた。

「えっ?!誰も入れないでってお願いしたのに…」

 彼はバルコニーを指さし、にやりと微笑む。その姿を見て、私は妙に納得してしまった。さすが王様というか、そういえばバルコニーがあったことすら忘れていた。けれど、私は彼に会う心の準備ができていなくて、慌てて掛け布団を頭まで引き上げた。

「ご飯も食べてないと聞いた。侍女からも、お前が昨日俺とィレューネに会いに行こうとしていたが、様子がおかしかったと聞いたが…また嫌なことでもあったか?」

「私の心の問題です」

 布団の中からそう答えたが、カリュゥムの気配がまったく動かない。彼の視線がしっかりとこちらを見据えているのが感じられる。

「この蜜を飲め。栄養価が高い」

 彼が手にしていたカップをこちらに差し出すが、私は顔を背けて拒んだ。

「嫌です!」

 力いっぱいに抵抗する私に、カリュゥムはわずかに苦笑しながら、飲み物を自ら口に含むと、突然私に顔を寄せてきた。あっという間に口移しで蜜を飲まされ、口の中に流れ込んでくる甘い液体が喉を通るたびに、体の奥からじんわりと熱くなっていく。私は涙を浮かべながら彼の胸を叩く。

「嫌って言ったのに!」

 カリュゥムは少しも動じることなく、私の体を押さえつけると、そのまま布団の中に入ってきた。彼の指先が優しく太ももを撫でると、私の体は自分の意思に反して反応してしまう。ぬるりとした感覚が触れるたびに、私は身をよじって抗おうとするが、その後のことは次第に記憶がぼんやりと曖昧になっていく。

 翌朝、目を覚ますと、カリュゥムが私の顔をじっと見つめていた。まるで何かいたずらが成功したような満足げな表情で、私が目を開けた瞬間、少し口元を緩めて微笑む。

「許しません」

 私がそう言うと、彼はさらににやりと笑みを深める。

「初めてやったんだ」

「初めてなんですか?」

「君がしてくれたじゃないか。嬉しかったから俺もしてみたんだ。どうだった?」

 その言葉に私は少し照れながら、つい素直に答えてしまう。

「…良かったです」

 すると、彼は満足げに私を抱き寄せ、優しく額にキスを落とした。

「君以外にはしないよ」

「皇后様にも?」

 私は何気なく尋ねたが、カリュゥムは首をかしげた。どうやら、彼にとって皇后とは今そういう関係にはないらしい。それどころか、彼の表情には少し戸惑いが浮かんでいる。

「あれとはもうしない。そもそも…できない」

「そうなんですか?」

「ィレューネは戦友だ」

 その言葉を聞いたとき、胸の奥でほっとしたような気持ちが広がるのを感じた。


 カリュゥムは私を見つめたまま、少し表情を曇らせ、低い声で囁いた。

「俺はお前に全てを与える。だから拒むな。俺はお前を愛している。1日でも会えないと寂しくて、胸が張り裂けそうだった。何度も扉の前で、君が開けてくれるのを待っていた」

 そう言って、彼はゆっくりと私の胸に顔を埋め、まるで甘えるようにその体を寄せてきた。カリュゥムがこうして心をさらけ出すのは珍しいことで、私は少し驚いた。それと同時に、彼もまた孤独を抱えているのだと気づき、胸が温かくなる。

 その瞬間、気持ちが抑えられなくなり、再び彼と熱い時を過ごすことになった。

 そして、再び甘い蜜を口移しで口に注がれ、気がつくと、私は彼の手を握りながら上に乗っていた。突然扉が開かれる音がして、私は振り返る。そこには、驚いた表情のィレューネが立っていた。彼女の冷たい視線が私を射抜くように見つめ、顔から火が出そうになるほど恥ずかしくなる。

「あっ…え?…」

「…お、お取り込み中のようね」

 ィレューネは冷静さを装いながらも、何かを悟った様子で扉を静かに閉じて出ていった。私はその場で赤面し、恥ずかしさで胸がいっぱいになってしまった。

「気にするな続けよう。」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目の人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

決めるのはあなた方ではない

篠月珪霞
恋愛
王命で決まった婚約者に、暴言を吐かれ続けて10年。 逃れられずに結婚したカメリアに、実はずっと愛していたと言われ。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

処理中です...