アルセリア王朝記〜月の化身となる者〜

夜明けのハリネズミ

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月が降り立つ

第9話 異国の宴

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第9話 異国の宴

 この日も引きこもろうかと思っていたのに、今日は王宮で大きなパーティが開かれると聞き、早朝から私のために準備が進められていた。アイたち侍女に手伝ってもらいながら、湯浴みや着付け、化粧が施され、細部まで気が配られたドレスを身にまとった。まるで別人のように着飾られている自分が少し恥ずかしくもあり、不安にも感じる。

 パーティ会場に着くと、そこには着飾った女性がほとんどおらず、華やかな装いの女性は皇后ィレューネと私だけだった。他の女性たちは皆、侍女のような服を着て控えめに立っている。会場の様子がどこか異様に感じられる中で、私は一体何をすればいいのかわからず、ただ静かに椅子に座っていた。

 皇后に挨拶する貴族たちが次々とやってくるが、彼女は立ち上がることなく、冷ややかに見下ろすような態度で会話をしている。その姿が堂々としていて、私は自然と目を奪われた。

 そのうち、喉が渇いたので立ち上がり、飲み物を取りに行こうとした。その瞬間、なぜか足が動かなくなり、バランスを崩して前へと倒れてしまった。ちょうど目の前に階段があり、そのまま階段を転がり落ちてしまった。

 床に着いた手がじんと痛む。頭を打ったせいか、額から暖かいものが流れているのを感じた。

「ごめんあそばせ。あまりにもとろく動くものだから、踏んづけてしまいましたわ」

 声の主を見上げると、侍女の姿をした気の強そうな女性が腕を組んで私を見下ろしていた。そして私の腕を躊躇なく踏みつけ、痛みが全身を貫く。声が出ないほどの激痛に、体が硬直した。

「ああっ!?」

「やめなさいよ!」

 その時、アイが現れ、女性に強烈なビンタを食らわせ、私の体を起こしてくれた。涙が滲む視界の中で、アイが必死に私を守ろうとする姿が頼もしく見えた。

「なに?あんたごときが口出すんじゃないわよ。私だって何度も王様の承恩を受けているわ。しかも異国のこの女よりも私の方が身分が高いもの。何かの間違いだったのよ」

 その女性は私を嘲笑うように睨みつけると、さらに言葉を続けた。

「こんな貧祖な体で王様を満足させられているのかとっても不安だったの。この目で見てはっきりわかったわ。こんなちんちくりんじゃだめね」

 私の席に座り、鼻で笑う彼女の言葉が耳に刺さる。体は痛いし、寒気もしてきて、意識がぼんやりと遠のいていくようだった。必死に顔を上げようとするが、視界がぐらつき、周りの喧騒も遠のいていく。

 そして次の瞬間、彼女の首が私の座っていた椅子の上に転がっているのが見えた。衝撃で胸がどくどくと早くなり、心臓が痛いほどに高鳴る。この世界では、人の命があまりにも軽い…その現実に、背筋が凍る。

 いつか私も、彼女のようになってしまうのではないか…。そう考えただけで、体が震え始める。

「おい、ィレューネ」

 カリュゥムの低い声が響き、視界がふっと遮られた。その瞬間、やっと息ができるようになり、体のこわばりが少し解ける。冷や汗が止まらなくて、目で助けを求めると、カリュゥムが私のそばに近づいてきた。私は彼の胸に倒れこむように身を預けた。

 気づけば目を閉じていて、次に意識が戻ったとき、カリュゥムとアイ、そして見知らぬ人物が何か話しているのが聞こえた。

「骨が折れています」

「それは治るのか?」

「はい。ただ、もしかしたら後遺症が残るかもしれませんね」

「後遺症ですか?」

 私は起き上がろうとするが、アイがそっと手を置き、悲しそうに首を横に振って私を制止する。

「全て直せ。王命だ」

「はい」

 その強い口調に、カリュゥムがどれだけ私を心配しているかが伝わってきた。しかし、私の腕には激しい痛みが残り、少し動かすたびに鋭い痛みが走る。こんな痛みではとても眠れそうにない。私は顔をしかめながら小声で呟く。

「骨折でしょ?放っておけば治るよ。カリュゥム、あなたは大袈裟すぎ」

「そんなことない!」

 彼の強い反応に、私は少し戸惑いながらも安心を覚える。扉の隙間から、ィレューネ様が静かに去っていくのが見えた。私は首を傾げ、彼女の冷静な表情にどこか不思議な感情が込み上げる。

 カリュゥムは、私をしっかりと抱きしめながら呟いた。

「あの女、許せない」

 その冷たい言葉に、私は思わず顔を上げた。

「あの女の父親の右腕を切り落として、王に献上するように通達を出せ」

 その厳しい命令に、私は驚きと不安を感じる。体の痛みと混じり合い、胸の奥にズキズキとした重い感覚が残る。

「やりすぎよ」

 そう言って、私は震える左手でカリュゥムの胸を軽く押した。彼は一瞬、驚いたような表情を浮かべるが、私の言葉を理解したのか、少し不機嫌そうな顔をして何も言わなくなった。

 私の腕の痛みは夜になっても引かず、鋭い痛みがずっと続いていた。眠ろうとしても何度も目が覚めてしまい、冷や汗がにじむ。カリュゥムはずっとそばにいて、手を握りしめてくれていた。そのぬくもりが少しだけ痛みを和らげてくれるようで、私はなんとか瞼を閉じる。

 
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