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月が降り立つ
第10話 王の守護
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私はまだ腕に痛みを感じながらも、少しでも気分転換になればと庭園を散歩していた。歩くたびに腕がじんわりと痛むが、息苦しく感じていた部屋の中よりも、この広々とした庭園の方が少し気持ちが軽くなるような気がしていた。
すると、侍女がそっと差し出してくれた茶が目の前に置かれる。喉が渇いていたこともあり、私は自然と手を伸ばそうとした。しかしその瞬間、背後から鋭い気配を感じ、思わず手を引っ込めた。
「リュィナ、その茶を飲むな」
低く響く声に振り返ると、そこには険しい表情を浮かべたカリュゥムが立っていた。彼は私の前に一歩進み出て、冷ややかな目つきで周囲を睨みつける。そして、ゆっくりと手を伸ばし、私の目の前でその茶碗を引き寄せた。
そのまま彼は一口茶を口に含むと、顔をしかめ、力強く茶碗を叩き割った。茶の飛沫が地面に散り、カリュゥムの目が鋭い怒りの光で燃えているのが見えた。周囲の貴族たちは一気に緊張し、誰もが身じろぎ一つせずに様子を見守っている。
「俺の女に手を出すつもりか」
カリュゥムの低く冷たい声が庭園に響き、周囲にいた貴族たちは一瞬で表情をこわばらせた。彼の圧倒的な威圧感に、庭園全体が静まり返り、誰一人として動くことができない。
やがて、カリュゥムの視線がある侍女に止まった。彼女はルナが以前、階段から突き落とされた際、腕を踏みつけた貴族の娘に仕えていた侍女だった。貴族の娘は既に処罰されて亡くなっているはずだったが、彼女の侍女がここで毒入りの茶を仕掛けたとは…。
「お前だな。何を企んでいる?」
カリュゥムが問いただすと、侍女は怯えながらも口を閉ざしたまま、ちらりと他の貴族たちに目をやった。彼女の背後に、密かにルナを快く思っていない者たちが存在していることが伺える。彼女は主を失った後も、今なおルナに対する恨みを持ち続け、その思いを果たすために他の貴族たちから支援を受けていたのだろう。
「リュィナに手を出した者は、この王が決して許さない」
カリュゥムは冷たい視線を彼女に向け、すぐに打首を命じた。すると、背後に控えていた兵士が剣を構え、一歩前に進み出る。私はその場にいる侍女に視線を向けた。彼女の表情には怯えが浮かんでいたが、その奥にはまだ消えない怒りと悔しさがあった。
無意識に体が動き、私は彼女の前に立ち塞がる。
「待ってください!命だけは…助けてあげてください」
私の言葉に、カリュゥムは驚きの表情を見せた。
「何故だ?その女はお前の命を狙った」
「それでも助けてほしいの。だって私は無事よ?」
カリュゥムは眉をひそめ、さらに冷たく言い放つ。
「おいつは反逆罪だ。王族への侮辱だ。手に入らぬものを望んだ罰だ」
「それでも私は生粋の王族ではないわ。きっとまだ受け入れられない人もいると思うの」
私は心を込めて彼にお願いした。カリュゥムは一瞬、厳しい視線を私に向けるが、やがて少しだけ表情を和らげる。
「それがお前の願いか?」
「ええ。そうよ」
カリュゥムは一度深いため息をつくと、剣を構えていた兵士に手で制止の合図を出し、侍女を許すよう命じた。彼の大きな決断に私はほっとし、感謝の気持ちを彼に伝えた。カリュゥムは私をじっと見つめ、少し寂しそうな表情を浮かべる。
その夜、私はカリュゥムの部屋に初めて招かれた。私は豪華絢爛な空間を想像していたが、実際の部屋は私の予想を裏切るように繊細で美しい空間だった。
確かに、部屋には豪華な装飾が施されているが、金銀宝石が溢れるわけではなかった。代わりに、細かく彫刻が施された家具や、美しい絵画の縁取りが金色で縁どられている程度の控えめな豪華さだった。重厚な木材で作られた家具や、深みのある色彩の絨毯が敷かれ、洗練された趣が漂っていた。
「思っていたよりも…ずっと落ち着いた部屋ですね」
「俺のために造られた部屋だからな。過剰な装飾はいらん」
そう言いながら、彼は甘い香りの蜜酒を私のために用意してくれた。二人で蜜酒を飲み交わすうちに、徐々に体が温まり、心が解けていくような気がした。いつもの緊張感が消え、心地よい空気が漂う。
夜が更けるにつれ、二人の距離がますます近づき、蜜の甘さが二人の気持ちを熱くした。彼の優しい囁きと温もりに包まれ、私は自分がどれだけ彼を求めているのかを実感した。
この夜、カリュゥムと過ごしたひとときは、私にとって特別な意味を持つ時間となり、彼の温かな手が私の心の隅々まで届くようだった。
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