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月が降り立つ
第12話 皇后へのお礼と不穏な囁き
しおりを挟む第12話 皇后へのお礼と不穏な囁き
カリュゥムが私のために用意してくれた宮殿。その豪華さと彼からの愛情を改めて感じて、私は胸がいっぱいだった。けれど、それと同時に感謝の気持ちも湧き上がり、どうしても皇后様・ィレューネにもお礼を言いたくなった。私をここに迎え入れ、宮殿の生活を支えてくれる存在に対して、きちんと挨拶しなければならない気がしたのだ。
とはいえ、ィレューネ様が私をどう思っているのかは気になる。あの日、発音ができずに彼女の名前をうまく言えなかったことで、冷たい視線を浴びたのが頭に残っている。嫌われているかもしれない——そう思うと少し怖い。でも、勇気を出して会いに行こう。今なら、お礼を伝えるべきだと信じられた。
私は「月影の宮殿」と呼ばれる皇后様の住まいに向かった。その重厚で優雅な佇まいは、いかにも皇后様の気品を象徴しているように感じられた。足を踏み入れようとするも、入り口で待っていた侍女に、冷たく制止されてしまった。
「何かご用でしょうか?」
「はい、皇后様にご挨拶をしたくて…。少しだけ、お時間を頂けませんか?」
私は恐る恐るお願いしたが、侍女は眉一つ動かさず、冷ややかな目で私を見返してきた。
「申し訳ありませんが、皇后様はお忙しいです。どうぞお引き取りください」
追い返される形で、私は入り口から下がることになった。何とか軽い挨拶だけでもと思い、再度頼み込んだが、侍女はまたしても冷たく首を振った。結局、入り口を離れざるを得なかった。
入り口から少し離れた庭のあたりをうろうろとしていると、ちょうどィレューネ様が庭を歩いているのが見えた。私は思わず足を早め、彼女に駆け寄った。
「皇后様、少しお時間を頂けませんか?ご挨拶を——」
ィレューネ様はこちらをちらりと見ると、面倒そうな顔をして一言だけ言った。
「忙しいからあとにして」
彼女の冷たく素っ気ない返答に、私は言葉を失った。心臓がきゅっと締め付けられたような感覚に襲われ、立ち尽くしてしまった。やはり、嫌われているのかもしれない——その思いが胸の中に広がり、心が重く沈んでいく。
失意のまま、私は宮殿を後にしようと足を向けた。途中、ぴたりと足を止める。ふと、遠くから侍女たちのひそひそと話す声が聞こえてきた。どうやら私の陰口を話しているらしい。
「身の程知らずよ。王様の寵愛を受けているからって、皇后様の気持ちを考えないで…」
「ほんとよね」
その言葉を耳にした途端、胸の奥にずしんと重たいものがのしかかった。やはり、皇后様やその侍女たちからすれば、私はここにふさわしくない存在なのかもしれない。私が想像している以上に、周りは私をよく思っていないのだ。
それでも、侍女たちはまだ話を続けていた。気づかれないように耳を澄ますと、さらに気になる言葉が聞こえてくる。
「あのことを知らないで…しかも!王様も知らないらしいわよ」
「ホントなの?」
「口を動かさないで!働きなさい!!」
そのやりとりを聞いた瞬間、胸が騒がしくなった。「あのこと」とは一体何のことだろう。そして、「王様も知らない」という言葉には一体どんな意味があるのだろうか。
私はしばらくその場に立ち尽くしていたが、気になる気持ちだけが膨らんでいき、どうしようもなくなってきた。しかし、これ以上聞くわけにもいかず、足早にその場を離れ、自分の宮殿へと戻ることにした。
リュィナール宮殿に戻ると、何もかもが豪華で美しいはずのこの場所が、どこか居心地の悪い空間に感じられた。宮殿は完璧で、カリュゥムの愛情が隅々に感じられるはずなのに、今の私の心はその優雅さに包まれきれず、冷たい感情が胸の奥で渦巻いているようだった。
このままカリュゥムの寵愛を受け続けていいのだろうか。ィレューネ様は王様の奥様であり、この国の皇后なのだ。それなのに、私は彼のそばに居続けることで、彼女の不満や冷たい視線を受けていくことになるかもしれない。今後、どんなことが私に待ち受けているのかわからない。それを考えると、自然と体が震えた。
——そうだ。出て行くという選択肢もあるのではないか。
私は心の中でそう答えを出していた。この国から出ることで、すべてが解決するかもしれない。カリュゥムのもとから離れれば、ィレューネ様や周囲の人たちの心にも平穏が戻るかもしれない。私がここにいることで、誰もが不満を抱えるなら、ここにいるべきではないのかもしれない。
そう思い至り、私はそっと侍女を呼んで「しばらく一人になりたい」と伝えた。侍女が心配そうに見つめていたが、どうにか笑顔で応え、部屋に戻ると、ひとり静かにこの国を出る方法を考え始めた。
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