アルセリア王朝記〜月の化身となる者〜

夜明けのハリネズミ

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月が降り立つ

第13話 別れの旅立ち

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第13話 別れの旅立ち

 私はカリュゥム様からもらった金の腕輪と豪華なネックレスだけを手に取り、身軽に準備を整えた。彼の寵愛の証である装飾品を手放すのは少し心が痛むが、これが最後の頼りだと思えば、自然と指がその品々を握りしめていた。

 肌の色はごまかせないが、庭の泥を溶かして薄く塗ると、浅黒い肌に近しい色合いが作れた。髪を一つに結び、一般的な女性が使う布付きの髪ゴムで整える。そして、髪色を隠すために、砂をかけて茶髪に見えるよう工夫する。顔には、傷を隠すために使われるフェイスベールを付ける。侍女たちの中には茶色の髪を嫌う者もいるが、これで人目を避けられるはずだ。

 宮殿の出入り口は、ほとんどが見張りがついているが、私はどうしても覚えている一か所があった。何かを搬入する時だけ使われる、あまり人目に付かない裏口だ。いつも使用されている場所ではなく、侍女たちもほとんど知らないはず。宮殿内に詳しい侍女であるアイから偶然聞いたことがあり、今こそその扉を使う時が来たと思った。

 その扉の前にたどり着くと、私は近くにあった水甕を持ち上げ、そっと中に腕輪とネックレスを沈め、泥水でそれらを覆い隠した。初めて通るその通路に胸がドキドキするが、後ろを振り返らず、周囲の様子を伺いながら慎重に歩みを進める。

 運よく、人々の波に紛れることができ、無事に城下町へとたどり着いた。侍女の服を着ている者は思った以上に多く、私もすぐに人混みに溶け込むことができた。水甕の中から泥で覆われたアクセサリーを取り出し、水で洗い落として再び金の輝きを取り戻すと、私はアクセサリーショップへと向かった。

「すみません」

 私は店主に声をかけると、店主がこちらを見上げて小さく頷く。

「ん?どうしましたか?」

「主人の使いで、こちらを売却したいのですが、売れますか?」

 手のひらに置いたアクセサリーに気づいた店主の表情が驚きに変わった。彼はアクセサリーを手に取り、じっと見つめる。

「ああ。これは…王家の紋章入りのブレスレットにネックレスか?これほどの品は…このくらいでどうだ?」

 店主が差し出した金貨を見て、私は少し戸惑いながらも、これで十分だと判断し、微笑んで受け取った。

「それで構いません。ありがとうございます」

 アクセサリーの価値は正直よくわからないが、これで少なくとも馬車には乗れるだろう。私は城下町を歩き回り、外套を露店で購入して身にまとった。これで日差しも防げるし、目立たなくなるはずだ。

 しばらく歩いていると、ラクダに似た生物が引く荷車を見つけ、何とかしてこれに乗せてもらえないかと考えた。近づいて声をかけると、年配の男が振り返り、こちらを訝しげに見つめた。

「すみません」

「なんだい、ねーちゃん?お城のお使いかい?」

 男が顔をしかめるのを見て、私は急ぎで言い訳を続ける。

「そうなんですけど、急ぎで…どちらまで行きますか?」

「これは人を乗せるもんじゃないんだがね」

「それでも構いません。お金なら払いますから」

 男は少し考えたが、私が手にした金貨を見せると、驚きの表情を浮かべた。

「こんなにいいのかい?!急いで向かってやるよ!」

「ありがとうございます」

 私は荷台に乗り込み、外套を羽織って身を隠した。直射日光にさらされると、ただでさえ疲れるし、体が悲鳴を上げてしまう。背後に広がる王宮が遠ざかっていくのを見て、胸にこみ上げるものがあった。

了解しました。以下に、乗客がルナ一人である設定に沿って修正した文章をお届けします。

第13話 別れの旅立ち

 ぼそりと、誰にも聞こえない声で呟く。

「カリム様、さようなら」

「なんか言ったかい?」

 荷車の運転手が振り返って声をかけてきたが、私は笑って首を振るだけだった。運転手は少し肩をすくめると、再び手綱を握り直して、ラクダに似た動物をゆっくりと進ませた。

 道のりはまだ始まったばかり。そう思っていた矢先、彼がぽつりと話し始める。

「そういや、ねーちゃん、今話題のリュィナ様って知ってるかい?」

「はい?」

 その名前を突然聞いて、思わず胸がざわめいた。見知らぬ町の人々の話題として、まさか自分が出てくるとは思っていなかったからだ。

「それが、とんでもない金食い虫らしいんだよ」

「え?」

「王様を色付けにして、なおかつ早く自分の宮殿が欲しいとねだり、貴族の令嬢侍女たちに暴力を働いて、立場が悪くなると王様の胸に抱かれてポロリと涙を流す悪女だって噂だ」

 その言葉に、無意識のうちに手が拳を握りしめた。運転手は私の表情には気づかないまま、話を続ける。

「オマケに、宮殿を作ってくれないならここで死ぬって言って、王様を困らせたって話だ。あんな立派な宮殿を作ってもらっても、まだ贅沢を言うんじゃないかってみんな心配してるんだ」

「……そうなんですね」

 私は精一杯、平静を装いながら返事をした。胸の奥が締め付けられるような気持ちでいっぱいになっていた。カリム様が私にくれた大切な場所と愛情が、こうして歪んだ形で伝わっていることが悲しかった。そして、自分がカリム様や他の人々に対して迷惑をかけているように感じ、悔しさが込み上げてきた。

「ホントに悪い女だよな。俺らの税金がそいつに使われてるかと思うと、ムカついてしょうがない」

 運転手はそう吐き捨てるように言い、道を急いで進めていく。私は心の中で静かに涙を流しながら、ただ黙っているしかなかった。

「そういや、ねーちゃん、名前はなんていうんだい?」

 急に話しかけられ、はっと我に返る。

「……アィです」

 咄嗟に侍女の名前を口にした。すると運転手は満足そうにうなずき、再び道に目を向けた。

「アィか!よろしくな。これから一週間の旅になるからな」

「よろしくお願いします」

 運転手の背中を見つめながら、私は一人、心の中でカリム様への思いを噛み締めていた。
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