アルセリア王朝記〜月の化身となる者〜

夜明けのハリネズミ

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月が降り立つ

最終話 皇后との誤解と絆

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第16話 皇后との誤解と絆

リュィナール宮殿に帰り着いた瞬間、カリュゥムが力強く私を抱きしめた。何も言わず、ただその腕に包まれていると、どれほど不安な思いをさせてしまったのかが伝わってくる。

「不安で不安で仕方なかった。もう二度と居なくならないでほしい」

彼の低い声が、私の心の奥に響き、胸が締めつけられる。

 その時、部屋の奥から皇后が静かに歩み寄ってくるのが見えた。優雅で凛々しいその姿に見とれていた次の瞬間、彼女の手が私の頬を打った。頬に衝撃が走り、頭がぼうっとする。心の奥で「やっぱり、嫌われているんだ」と思った瞬間、再び彼女の腕が私を強く抱きしめた。

「訳が分かりません…」

皇后に抱きしめられ、困惑する私を見つめ、彼女は深く息をついた。そして、私の顔を見つめながら静かに言った。

「心配させるな。お前の命はこの国の宝なのだ。お前だけのものではない」

その言葉に、思わず私の目から涙がこぼれ落ちた。無謀な行動をした自分が恥ずかしくなり、心から後悔が湧き上がる。

「皇后様…私は馬鹿でした…どうしても不安で…」

そう言ってもらえるなんて夢にも思わず、感情があふれて言葉が止まらない。だが、皇后はその全てを受け止めてくれて、そっと微笑みながら、カリュゥムを手で押しやり、私と二人きりになった。

「カリュゥム様は、どうぞお下がりくださいませ。リュィナと二人で少し話がしたいのです」

カリュゥムは少し困惑した表情を見せたが、皇后の意思を尊重し、静かに部屋を出ていった。そして、私と皇后だけが残された。

二人きりになった皇后は、静かに口を開いた。

「私はカリュゥム様を心から愛しています。けれど、ある時から夜の相手をしなくなりました」

私は驚きながらも、彼女の話に引き込まれていく。

「私が彼の夜の誘いを断るようになったのは、私が大切なものを失ったからです。だからこそ、早くあなたとカリュゥム様の子供が見たいと思い、あなたの宮殿を立てることを許可したのですよ」

その言葉を聞き、私は思わず息を飲んだ。皇后の深い思いやりと、彼女の中に秘められた過去の痛みが、心の奥にずしりと伝わってくる。

その後、皇后とカリュゥム、そして私の三人で夕食を共にすることになり、食卓を囲んだ。

食事が始まると、皇后はふと私に向き直り、真剣な表情で言った。

「私はリュィナに少しだけ嫉妬していました。でも、あなたが現れたからといって、カリュゥム様は寝坊はよくするものの、公務を疎かにしたことはありません。今ではあなたは大切な王族のひとりです」

その言葉に、胸がいっぱいになり、食事が喉を通らなくなるほど感動した。

食事の後、皇后は私を誘い、夜の空の下で星を眺めることになった。

「見てごらんなさい、あの星々を」

そう言いながら、皇后は優しく微笑んでいたが、彼女の瞳はどこか遠いところを見ているようだった。

「あの星のどれが我が子なのでしょう…」

彼女の目に浮かぶ涙が月明かりにきらめき、私は彼女の孤独と痛みを感じずにはいられなかった。

「皇后様、必ず私も、この国においての役割を果たします。どうか見守っていてください」

決意を込めてそう伝えると、皇后は静かに頷き、涙を拭った。

「必ず、王の子を…」

その言葉を最後に、皇后は静かにその場を去っていった。残された私は、彼女の背中を見送りながら、ふと不思議な感覚に包まれた。

その瞬間、私の中に皇后の記憶が流れ込んできた。

 彼女が腹を痛め、産んだ子供が泣き声をあげなかった不安。朦朧とした意識の中で、彼女は力を振り絞って起き上がろうとしたが、すぐに意識を失ってしまった。そして、気がついた時、彼女の腹には大きな傷が残されていた。

 その後、彼女は腹を隠し、鏡という鏡を全て叩き割った。以来、彼女は王からも距離を置き、夜の誘いを断り続けた。王が他の女たちと過ごす姿を見ても、心は何も感じなかった。そして、他の女たちがどんなに横暴に振る舞っても、皇后の心は動かなかった。

 そんな中で、ルナが現れた。彼女は他の女たちとは違い、お淑やかで、どこか儚げな美しさがあった。自分にあだ名をつけてくれた彼女を、皇后は心から可愛らしいと感じ、またその呼び名で呼ばれることを心待ちにするようになった。

 そして、ルナが姿を消した日、皇后は深い不安に駆られ、軽口を叩いた侍女たちを全員宮殿から追い出した。ルナの無事を願い、彼女が戻ってくる日を心から待ち望んでいたのだ。そして、ルナが王と共に帰還する姿を見た時、安堵と喜びで抑えきれない気持ちになり、リュィナール宮殿に駆け込んだ。そして感情のままに、ルナをビンタしてしまったことを後悔している。

「そうか、私にとっても彼女は特別な存在だ。ほかの誰とも違う、大切な存在なのだ」

彼女の心からの想いが、今、私の中に静かに響いていた。

 
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