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月が降り立つ
第15話 再会と真実
しおりを挟む第15話 再会と真実
旅が始まって四日目。心の中には、どこか不安と後ろめたさが渦巻いていた。布商人の彼も、その様子に気づいているのか、時折、視線を送ってくる。ルナも察していた。自分が王に追われている存在だと、この布商人が知ったなら、どう思うのか。
夜が更けた頃、商人が静かに切り出した。
「アィちゃん、実は…どうするべきか迷ってるんだ」
「どうするべきかって…?」
「ほら、最近、黒髪の女が王に指名手配されてるって噂、聞くだろ?俺…もしや君がその人なんじゃないかと思ってさ」
ルナはぎゅっと手を握りしめ、心からのお願いを口にした。
「お願い、絶対にやめて」
彼の目を見つめ、真剣な思いが溢れる。彼女はその場に立ち尽くし、胸の奥から自然に言葉がこぼれた。
「私、ここにいられる場所が欲しいの。…あそこに戻るのは怖い。でも、あなたと一緒にいるなら、なんだか安心できるの」
彼は驚いたように目を丸くし、しばらくの沈黙の後、深く息をついた。
「分かったよ。俺も、今まで一緒に過ごした君を、王に突き出すのは気が引けるしな。やっぱり知らない王様より、目の前にいる君の方を信じるさ」
「ありがとう…本当に、ありがとう」
ルナはその言葉に胸がいっぱいになり、心から感謝した。信頼してもらえたことが、これほどまでに嬉しいと思えるとは思わなかった。
次の町に出発する為街の門を潜ろうとすると、警戒がさらに厳しくなっていた。門を通る際、通行人一人ひとりの顔を確認する役人が立っている。後戻りするわけにもいかず、ルナはできるだけ堂々と振る舞い、泥で少し茶色になった髪を隠すようにして前を向いた。商人も不自然さを出さないようにと会話を続けてくれる。
「…それじゃ、気をつけて」
関所を通り抜けた瞬間、安堵の息をつこうとしたその時、後ろから冷ややかな声が響いた。
「待て」
その声の持ち主を見た瞬間、ルナの心臓が凍りついた。そこに立っていたのは、カリュゥムだった。冷徹な眼差しでこちらを見据えている彼の姿に、ルナは息を飲む。
「カリム様…」
心臓が止まりそうなほどの恐怖と、逃げ出したいという本能が交錯する。だが、カリム様の手が伸び、彼女はあっという間にその腕に捕らえられてしまった。必死に逃れようともがくが、彼の力に抗うことはできない。
連れて行かれたのは、カリュゥムの保養所の宮殿だった。豪奢な部屋に入れられ、彼は無言で彼女を見つめている。ルナもまた視線をそらせずにいたが、その視線の中にはどうしようもない動揺が隠せなかった。
「俺の愛が足りなかったか?」
彼の静かな声が、彼女の胸に鋭く刺さる。カリュゥムの目には、彼女を見失った悲しみと怒りが浮かんでいた。彼の問いに、ルナはただ唇を噛み締め、視線を落とした。
「私は…貰いすぎました」
「じゃあ、なぜ逃げた」
「私は…」
言葉が詰まり、声が震えた。どんな理由があろうと、逃げ出した事実は変わらない。もはや言い訳をする気も起きなかった。その時、アィが皇后宮殿での出来事を話し始めた。
「リュィナ様は、皇后様が怖いと感じられていたのです。皇后様に、何かをされるのではないかと…」
ルナは自分の心に湧き上がった感情を正直に話そうとしたが、何が正しいのか自分でも分からなくなっていた。
「…違う…よ。」
震える声で、ようやくそれだけを口にする。皇后が怖いのだと改めて自覚する。カリュゥムはそんな私を見つめ、少し優しい表情を浮かべて抱きしめた。
「ィレューネは、誤解されることが多い人だ。自分の心をさらけ出さないから、秘密も多いし、私にも話さないことがある。それでも、彼女は何もしていないだろう?もし文句があるのなら、私に言うはずだ。だが、何も言わない。それが答えではないか?」
その言葉が彼女の胸に静かに響き、思わず息をのんだ。確かに、何もされていない。皇后が文句を言うことも、罰を与えることもなく、彼女を見つめ続けていただけだったのだと、カリムの言葉が少しずつ染み渡る。
「ごめんなさい…」
小さく、そう謝るとカリュゥムは優しく微笑んだ。
大変お待たせしました。第15話の続きを完成させました。どうぞお読みください。
第15話 再会と真実(続き)
その時、扉の外から兵士が現れ、同行していた布商人を引き立ててきた。彼は肩をがっしりと押さえつけられ、怯えた表情でカリュゥムの前に引き出された。だが、商人は観念したのか、強がりとも言えるような顔つきでカリュゥムを見上げていた。
「お前が、リュィナを逃がそうとした張本人だな」
カリュゥムの冷たい視線にさらされ、商人はひるむことなく、強く頷いた。
「はい…そうです。しかし、王様、彼女は何も悪いことをしていません。俺はただ、少しでも彼女の助けになりたかっただけです」
その言葉に、ルナはハッとし、カリュゥムに思わず懇願した。
「カリム様、どうかこの方だけはお許しください!私がわがままを言ったせいなんです…この方は何も悪くありません」
カリュゥムはしばらく無言でルナと商人を見つめていたが、やがて深い息をついて言った。
「そうか。リュィナがそこまで言うのならば、命だけは助けてやろう」
その言葉に、ルナも商人も安堵の表情を浮かべたが、カリュゥムは続けて重々しく命じた。
「だが、この国の法を犯した罪は重い。それを許すのは王としても容易ではない。お前には、私の信頼に足る働きをしてもらおう」
ルナは驚き、そして心の中でほっとした。彼の命令は厳粛ではあったが、彼の目には商人を見捨てない意志が感じられたのだ。
数日後、ルナの新たな宮殿「リュィナール宮殿」の開館の記念パーティの準備が整えられ、そこで使用する高級な布を仕入れるよう、例の布商人に指示が出された。彼にとって、それは王家の命を受けて働けるという、かつてない栄誉の瞬間だった。
ルナは布商人にそっと微笑み、感謝の言葉を口にした。
「本当にありがとう。あなたのおかげで、無事に戻って来られたの」
商人は少し恥ずかしそうに笑い、深くお辞儀をして去っていった。その姿を見送りながら、ルナはカリュゥムの横に並んで立ち、そっと彼の手を握りしめた。
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