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例えどんな理不尽な世界だとしても
冒険者って何ですか?
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窓から差し込む日差しが長い時間をかけて少しずつ移動し、やがてハルトの顔を照らす。目を刺すような鋭い明かりにようやく目を覚ました。
ぼんやりとした頭で、おおよそ何時くらいなのかを想像する。正確には分からないが、どう考えても朝早いわけではないことは明らかだ。
事実、起き上がって窓を開けると太陽は既に高く、街の賑わう声がうっすらと聞こえてきた。
「そうか。今日、休みにしたんだった……」
自室を出て、一階に降りる。広い共同のリビングには誰もいなかった。他三人はハルトと違い、休みの日だろうと、いつも通りに起床する。
静まり返る家はなんだか懐かしいような、それでも少し寂しい。すっかり共同生活にも慣れてきた表れなのだろうか。
寝癖が派手に暴れる髪を軽く整えて、特に目的もなく家を出る。自室に引きこもっても良いのだが、なんだか今日はそんな気分になれない。
途中、出店で何の肉かもわからない串肉を買い、ふらふら歩きながら食べる。
昨日、デッドリーパーが出現したというのに、街はいたっていつも通りだ。大通りにはのんびり歩くこともできないくらい人がいて、様々な店が立ち並ぶ。歩行人は甲冑を着た兵士、派手な装備を身に着けた冒険者、薄い麻服を着た農民、大きな荷車を馬に引かせる商人など多種多様だ。
正直、人が多いところは嫌いだ。様々な声が入り乱れて、まるで聞くに堪えない音楽隊の演奏を聴いているようだ。
目的というようなやるべきことはないが、冒険者ギルドに立ち寄り、クエストの紙が貼ってある大きな掲示板に目を通す。急ぎではないが、次のクエストを探しておきたかった。
めんどくさいと思いながらも、なんだかんだ言ってやることがないと、とりあえずギルドに来るようになってしまっている辺り、やはり冒険者という職業が染みついてしまっている証拠だろうか。
差し当たって良さげなクエストも無く、足早にギルドを出る。
「うーん……」
今日は何だがいつも以上にやる気が起きない。普段も基本的にはやる気ゼロなのだが、今日に関してはマイナスに突き抜けている、気がする。
たぶん、脳が疲れてる。というか、確実に混乱はしていると思う。ふと、大きな鎌が脳裏に浮かぶ。
勝った。確かに昨日の戦闘に関しては、あまり恐怖を感じなかった。全く無かったとは言わない。それでも、やっぱりどこか心に余裕があった。
でも、それって良いことなのだろうか。油断してたとか、軽く見ていたとかはない。絶対。でも、恐怖ってどれだけ感じても、悪いことじゃない気がする。
冒険者は言わずもがな危険な職業だ。日夜、多くの冒険者が命を落としている。実際、育成学校を卒業して、五年以内に死亡する割合は二割と言われている。
ハルトの時は同期が百五十人ほどいた。つまり、そのうち三十人が五年以内に無残にも命を散らすことになる。
胸元に目を向ける。今でも肉を引き裂かれる感触は忘れられない。人ってこんなにも脆いのか。そう思えた。
「なんで生きてるんだろ……」
気が付くと、街の西端にある廃れた小さな喫茶店で、薄い珈琲を前に呟いていた。ボロボロの木製テーブルに、お世辞にも美味しいとは言えない飲み物。店内にはハルトの他に一名、やせ細った女性が隅っこで物思いにふけっている。
明らかにヤバい雰囲気が漂っている喫茶店だが、ハルトは何度か足を運んでいた。
理由は単純に人が少なくて、静かだから。物音一つしない。大通りから離れた裏路地にあるため、街の喧噪も全く聞こえてこない。
実際、廃れてるとはいえ、結構穴場なんじゃないかなと思っている。
「生きる……か」
今回は二度目の命の危機だった。一回目は父親、そして二回目は魔物。どちらも、助けてくれた人がいる。一回目は母親。二回目は仲間。
結局、考えていた内容の終着点が見当たらなかった。
「冒険者って何なんだろう……」
冒険者――世界の半分を支配する魔王を倒し、人間の住める領土を増やすための職業。ざっくりとはこんな感じ。でも、実際やっていることは日銭を稼ぐために魔物を倒すことだけ。
たぶん、冒険者をやっている人の中で、本気で打倒魔王を信条に日々を過ごしている人などいないと思う。
だって、なりたくてなったわけじゃないし。
生まれながらにして勇者の印だとか言う痣があるってだけで、国から強制的に冒険者という職業に就かされる。酷い話だ。とはいえ、他にやりたいことがあるのかと言われれば、まぁ、特に無いけど。
なんでこんなことを考えているのかというと、たぶん、認めてもらいたいんだと思う。いや、認めてもらうってよりも、褒めてほしい方が近いかもしれない。
だって魔物だよ? 意味わからないじゃん。本当に意味がわからないよ。危ないんだよ? そんで、魔物倒したから何? 冒険者のランク上げて……だから何?
勇者? 未だかつて冒険者がしっかりと職業として認められてから、一度も現れてないよ?
たぶん、皆、一度は思ったことがあると思う。それでも、それしかできないから仕方なくやる。
これじゃ、奴隷と一緒だ。というか、まるっきり国の奴隷だ。
「……帰ろ」
やるせない気持ちになり、すっかりぬるくなった珈琲をグイっと呷って飲み干す。
帰る前にもう一回ギルドでクエスト見てくか。
いやはや、なんという矛盾だろうか。
結局、不満はいっぱいある。けど、やるしかない。
「死にたくないなぁ……」
声になっていたかも定かではない、小さな音が空気に溶け込んだ。
ぼんやりとした頭で、おおよそ何時くらいなのかを想像する。正確には分からないが、どう考えても朝早いわけではないことは明らかだ。
事実、起き上がって窓を開けると太陽は既に高く、街の賑わう声がうっすらと聞こえてきた。
「そうか。今日、休みにしたんだった……」
自室を出て、一階に降りる。広い共同のリビングには誰もいなかった。他三人はハルトと違い、休みの日だろうと、いつも通りに起床する。
静まり返る家はなんだか懐かしいような、それでも少し寂しい。すっかり共同生活にも慣れてきた表れなのだろうか。
寝癖が派手に暴れる髪を軽く整えて、特に目的もなく家を出る。自室に引きこもっても良いのだが、なんだか今日はそんな気分になれない。
途中、出店で何の肉かもわからない串肉を買い、ふらふら歩きながら食べる。
昨日、デッドリーパーが出現したというのに、街はいたっていつも通りだ。大通りにはのんびり歩くこともできないくらい人がいて、様々な店が立ち並ぶ。歩行人は甲冑を着た兵士、派手な装備を身に着けた冒険者、薄い麻服を着た農民、大きな荷車を馬に引かせる商人など多種多様だ。
正直、人が多いところは嫌いだ。様々な声が入り乱れて、まるで聞くに堪えない音楽隊の演奏を聴いているようだ。
目的というようなやるべきことはないが、冒険者ギルドに立ち寄り、クエストの紙が貼ってある大きな掲示板に目を通す。急ぎではないが、次のクエストを探しておきたかった。
めんどくさいと思いながらも、なんだかんだ言ってやることがないと、とりあえずギルドに来るようになってしまっている辺り、やはり冒険者という職業が染みついてしまっている証拠だろうか。
差し当たって良さげなクエストも無く、足早にギルドを出る。
「うーん……」
今日は何だがいつも以上にやる気が起きない。普段も基本的にはやる気ゼロなのだが、今日に関してはマイナスに突き抜けている、気がする。
たぶん、脳が疲れてる。というか、確実に混乱はしていると思う。ふと、大きな鎌が脳裏に浮かぶ。
勝った。確かに昨日の戦闘に関しては、あまり恐怖を感じなかった。全く無かったとは言わない。それでも、やっぱりどこか心に余裕があった。
でも、それって良いことなのだろうか。油断してたとか、軽く見ていたとかはない。絶対。でも、恐怖ってどれだけ感じても、悪いことじゃない気がする。
冒険者は言わずもがな危険な職業だ。日夜、多くの冒険者が命を落としている。実際、育成学校を卒業して、五年以内に死亡する割合は二割と言われている。
ハルトの時は同期が百五十人ほどいた。つまり、そのうち三十人が五年以内に無残にも命を散らすことになる。
胸元に目を向ける。今でも肉を引き裂かれる感触は忘れられない。人ってこんなにも脆いのか。そう思えた。
「なんで生きてるんだろ……」
気が付くと、街の西端にある廃れた小さな喫茶店で、薄い珈琲を前に呟いていた。ボロボロの木製テーブルに、お世辞にも美味しいとは言えない飲み物。店内にはハルトの他に一名、やせ細った女性が隅っこで物思いにふけっている。
明らかにヤバい雰囲気が漂っている喫茶店だが、ハルトは何度か足を運んでいた。
理由は単純に人が少なくて、静かだから。物音一つしない。大通りから離れた裏路地にあるため、街の喧噪も全く聞こえてこない。
実際、廃れてるとはいえ、結構穴場なんじゃないかなと思っている。
「生きる……か」
今回は二度目の命の危機だった。一回目は父親、そして二回目は魔物。どちらも、助けてくれた人がいる。一回目は母親。二回目は仲間。
結局、考えていた内容の終着点が見当たらなかった。
「冒険者って何なんだろう……」
冒険者――世界の半分を支配する魔王を倒し、人間の住める領土を増やすための職業。ざっくりとはこんな感じ。でも、実際やっていることは日銭を稼ぐために魔物を倒すことだけ。
たぶん、冒険者をやっている人の中で、本気で打倒魔王を信条に日々を過ごしている人などいないと思う。
だって、なりたくてなったわけじゃないし。
生まれながらにして勇者の印だとか言う痣があるってだけで、国から強制的に冒険者という職業に就かされる。酷い話だ。とはいえ、他にやりたいことがあるのかと言われれば、まぁ、特に無いけど。
なんでこんなことを考えているのかというと、たぶん、認めてもらいたいんだと思う。いや、認めてもらうってよりも、褒めてほしい方が近いかもしれない。
だって魔物だよ? 意味わからないじゃん。本当に意味がわからないよ。危ないんだよ? そんで、魔物倒したから何? 冒険者のランク上げて……だから何?
勇者? 未だかつて冒険者がしっかりと職業として認められてから、一度も現れてないよ?
たぶん、皆、一度は思ったことがあると思う。それでも、それしかできないから仕方なくやる。
これじゃ、奴隷と一緒だ。というか、まるっきり国の奴隷だ。
「……帰ろ」
やるせない気持ちになり、すっかりぬるくなった珈琲をグイっと呷って飲み干す。
帰る前にもう一回ギルドでクエスト見てくか。
いやはや、なんという矛盾だろうか。
結局、不満はいっぱいある。けど、やるしかない。
「死にたくないなぁ……」
声になっていたかも定かではない、小さな音が空気に溶け込んだ。
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