パーティー追放された者同士で組んだら、全員魔剣士だったけど割と万能で強かった件

微炭酸

文字の大きさ
35 / 79
例えどんな理不尽な世界だとしても

理不尽ですよね?

しおりを挟む
 魔物の軍勢はソーサラにも押し寄せていた。

 休日、惰眠を謳歌していた昼下がりのことである。
 突然の地響き、そして訪れる災厄。無数の魔物が空から降り注ぐ。もちろん、ハルトたちも場に立ち会い、驚愕した。ハーピィーの一件があってから、装備を常備している状態でいたのが幸いした。
 四人は転げるように家から飛び出し、状況を把握仕切れない脳でひたすらに魔物を狩った。

 徒歩三分の大通りがやけに遠く感じる。とにかく、数え切れない魔物の軍勢が波のように押し寄せる。魔物のランクはDランクとEランクがほとんどで、ハルトたちではなくとも、冒険者であれば十分に対処できるレベルであった。

 しかし、問題は冒険者ではない職業の人たちだ。家にこもる人もいれば、どこに逃げるというのかわからないが、街の門を目指してひたすら逃げ惑う人もいる。

「もぉー、きりがないわね」

 マナツは鬱憤が見え隠れしている。。

「もう、何がなんだかわからないよ……」

 ユキオも困惑している。いや、もちろん全員困惑していることは確かなのだが、一段と慌てているというか、時折周りをキョロキョロとせわしなく見渡していた。

 モミジは相変わらず口数少ない。それでも、献身的に民間人と魔物の間に体を滑り込ませて対処している。

 正直、魔物の数が多すぎて陣形なんてものはなかった。とにかく、ひたすらに迫り来る魔物を斬りふせる。大抵は一撃で沈む魔物だが、ハルトたち以外の冒険者はとてもじゃないが、捌き切れないだろう。かといって、実際ハルトたちも道すがらに人を助けるくらいしか余裕がなかった。目指すはひとまずギルドだ。

 ギルドにたどり着くには大通りに出て、直線約百五十メートル。近そうに見えて、行く手を阻む魔物をさばきながら進むとなれば、順調に進めても三十分はかかるだろう。

「魔法はなるべく使うな! 二次災害起きるから!」

 ハルトは意外にも冴えていた。正直、このパーティーになってから、色々なことが起きすぎて、脳が麻痺しているのかもしれない。この程度ならまだ、とすら思ってしまっていた。
 周りを見渡し、個々に魔物を狩る三人の動きを常に頭に叩き込む。
 細道にギチギチに詰まる魔物をスキルでなぎ倒し、大通りへの活路を開く。いつの間にか、ハルトたちの後をつけるようにして数人がついてきていた。まるで、守ってくれと言わんばかりのなんともいえない眼差しを送られるが、正直そんな余裕はない。

 大通りはまさに地獄絵図であった。至る所で冒険者が魔物と対面し、地面に伏す人もそこら中にいる。やはり、Cランク冒険者やBランク冒険者はなんとかしのげてはいるが、それ以下の冒険者のパーティーは数に押されていた。壁を背にして、なんとか戦っている様子だ。怪我人の出ているパーティーももちろんあるが、残念ながらハルトたちは誰一人として治癒魔法を覚えていない。怪我人に目をつぶって、ひとまず辺りの魔物をなぎ倒す。

「どこ見渡しても魔物、魔物って流石に疲れてきた……」

「し、しっかりしてマナツ……。でも、確かに終わりが見えない……と思う」

 大通りに出て道が拓けたこともあり、最前線をハルトが、その後ろをマナツ、モミジ、ユキオの順で一直線になって進む。広がって進んでしまうと、どうしても逃げる人や戦闘する冒険者の邪魔になってしまう。一列に並び、最低限の魔物を狩って進む。

「た、助けてくれぇ!」
 
 聞き覚えのない男性の声が聞こえてきた。もちろん、助けを求める声はそこら中から溢れるように聞こえてくるが、どうやらその声は建物内からするようだ。
 声のする左側面の建物に目を向けると、建物の二階の窓から身を乗り出すようにして、中年の男性が飛び降りようとしていた。二階といってもかなりの高さがある。それにどうやら酩酊しているようで、頬がやけに赤らみ、酒瓶を持っていた。

「おい! 落ちるぞ!」

 誰かが言った。男性は前のめりに建物から落ちる。
 男性はかなり大柄な体格だ。女性ではおろか、ハルトでも支え切ることはできないだろう。

「ユ、ユキオ!」

 おもむろに叫んだ。

「う、うん!」

 言わんとしてることは伝わったようで、ユキオは剣を前にいたモミジに押し付けて、スキルを発動する。十五メートルはあるかという距離を一瞬で縮め、最後はスライディングするようにして落下する男性を受け止める。
 流石に焦ったが、どうやら男性もユキオも無事のようだ。しかし、息をつくのはもう少し先である。男性の落ちた窓から、追随するように魔物が三匹飛び降りる。緑色の人型の魔物で、手には鉄製の棍棒のような物を握りしめていた。ゴブリンの上位種的な魔物だろう。いや、なんせ今まで見たことがないからわからないが……。

 ゴブリンもどきはユキオと男性に落下しながら棍棒を振り下ろす。スキルを発動した直後で武器も持たないユキオは無防備すぎる。しかし、今からスキルを発動しても間に合わない。

 焦る脳とは裏腹に声はスッと出た。

「――『ファイアーボルト』!」

 瞬時に簡易魔法を速射する。無詠唱では基本的に威力は八割ほど落ちるが、それでもやはり流石のパーティーバフだろうか、直径一メートルほどの火球が勢いよく射出され、空中で棍棒を振り下ろすゴブリンもどきの一匹に命中する。一瞬遅れて、さらに二つの火球がゴブリンもどきを吹き飛ばす。

 すぐ横で立ち往生をしていた冒険者が生唾を飲む姿が横目に映った。

「ユキオ! 大丈夫か!」

「だ、大丈夫!」

 ユキオは男性を先に起こし、体勢を取りなおそうとするが、男性に突き飛ばされる。尻餅をつく格好となったユキオは呆然とした。もちろん、ハルトたちも呆然とした。

 男性は一度しゃっくりをして、不機嫌そうに言い放った。

「助けんのがおせーんだよ! ったく、冒険者ってのは普段からバケモンと戦ってるんだろ! さっさと助けろよな!」

 そして、酒瓶に入った残りの酒を一気に煽る。

「ちょ、ちょっとあんたねぇ! 助けてあげたのにその言い草はないでしょ!」

「よせマナツ。相手は酔っ払いだ」

 虚ろな目がハルトを捉える。

「俺は、酔っ払ってなんかいねーよ!」

 男性が空になった酒瓶をハルトに向けて投げつけた。もちろん、反応できないわけもなく、ハルトは酒瓶を剣で打ち落す。粉々に砕け散った破片があたりに散らばるが、もとより既に魔物の鱗だとか、瓦礫だとかで散乱した地面である。さほど問題はないだろう。

 荒れ狂う人を見れば見るほど、ハルトの頭は冴えていった。
 そりゃ、そうだ。誰だって抗う術がなければ、助けを求める。助けてもらった相手になんともいえない歯がゆさというか、逃避したい気持ちを押し付けて当たり散らす。たまたま、この男性がそれを実行しただけで、冒険者以外の人たちはおそらく、冒険者や衛兵に助けを求め、それでいて理不尽のはけ口とする。自分だって、勇者の印なんてものがなかったら、もしかしたら声に出さなくても助けてくれない冒険者に憤りを感じていたかもしれない。
 本来ならば、助ける義務などないのだ。冒険者は衛兵じゃない。


 冷静に分析するが、まぁ感情的なマナツにそれを言うまでもなく、彼女は男性をぶん殴った。流石に全力ではなかったものの、男性は三度体をゴロゴロと回転させ、壁にぶつかった。

「……人に押し付けんな!」

 マナツは相当、不機嫌に見える。

「そんなのいいから助けてくれ!」

「誰か! 誰か、私の娘を探してください!」

「血が止まらない! 誰でもいいから治してくれ!」

 助けを求める声がやけに耳をつんざく。

 わかっている。押し付けて逃避したくなる気持ちはわかる。わかるし、そこでイラついても仕方ないこともわかる。それでも、やっぱりなんか、ね? 言葉にはできないけど、あれだよね。うん……。

「――めんどくせ……」

 わかってはいるが、逃避した。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

処理中です...