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抗ったその先に
嫌いな人ですか?
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気持ち悪い……。
視界がぐらぐらと揺れ、焦点が定まらない。人に肩を借りなければ歩けないくらいだ。
頭はガンガンとハンマーか何かで殴られているような痛みがずっと続いている。
お酒を飲みすぎたことは覚えている。これだけ朦朧とした意識の中でもはっきりと脳裏にこびりついた恐怖、悔しさ、悲しみを消すために自ら得意でないお酒を煽った。
でも、やっぱり消えてくれないのだ。この胸の痛みは、消えない。
「ほら、モミジちゃん。着いたから、そこ座って」
……誰だろう。そもそも、なんで見知らぬ人に肩なんて借りてるんだろうか。
どうやらどこか室内のようだけど、なにぶんつい数秒前に見て、感じたことがスパッと消え去ってしまう状態だから、ここまでの道のりや、話してきたことなど全部覚えてない。
「ったく、ハルトに殺されるんじゃないかなぁ。いやいや、でもあのまま放っておいたらそれこそ……」
ここまで連れてきてくれた人はたぶん、男性。それに少なくともハルト君の知り合いのようだ。
「はい、水だよ。少し落ち着いたら話して」
「えっ……?」
「いやいや、そんな呆けた返事されても。相談に乗ってほしいって言ったのはモミジちゃんだよ」
「あ、そっか……。そうだっけ?」
確かに思わず口にしたような気がする。でも、何を相談したらいいんだろうか。見知らぬ人に何を話せというのだ。いや、きっと知らなくはない。思い出せないだけだ。
でも、知り合いなんてそれこそソーサラにはいない。ということは、この男性はイルコスタで出会ったことがある人だ。
「何を……話せば良いのかわからない」
「ふー、こりゃ相当飲まれたね……。仕方ない、友人と好きな人のためにもとことん付き合っちゃうよ」
男性は目の前の椅子に腰をかけた。
短めの金髪。一見、美男子だけど、その塗り固められたような笑みは好きになれない。あと、じゃらじゃらうるさい。
「辛い……」
「それ、さっきから口癖みたいに言ってるけど、どしたの? いや、なんとなく理由は察するけどね。大方、イルコスタでの出来事でしょ?」
「――ッ!」
「そりゃ、僕ちんだって知ってるよ。この街だって今はその話題で一色さ。それを踏まえて、何が辛いの?」
「……みんな死んだ」
「みんなって?」
「みんなは、みんな。街のみんな。イアンさんも、ヤヒロさんも、コマチさんも、ロイドさんも、街のみんな……。ギルドにいた冒険者も、喫茶店のおじいちゃんだって、みんな死んじゃった……。ううん。護れなかったの。勝てなかったから。それなのに、私はまだ生きてる。生かしてもらってるの!」
目頭が熱くなり、揺れる視界がにじんだ。
「……何も成長してない。マナツにユキオ君、それにハルト君に出会って、パーティー組んで、少しは変わったと思ってた。でも、臆病で塞ぎがちな性格も、護られ続けることに対する甘えも、何も変わってない」
男性は何も言わない。でも、しっかりと視線を向けられていることはわかる。
「何より……こういうときに仲間に何もしてあげられないことが辛い……」
溜まった涙が頬に流れた。
ふと、今ここで仲間に慰められたらどんなに嬉しいだろう。
……あぁ、こういうところが嫌いなんだって。どうしていつも受け身側なんだろう……。護られることが染み付いてしまっている。
本当に嫌いだ。
「ちゃらんぽらんで、何の力もない僕に言われるのも癪だろうけど、いいかいモミジちゃん? 君は弱い。それこそ、僕と一対一で戦っても負けちゃうくらい、君は弱い。何も変わっていないんじゃない。変わったことに恐れて、過去を真似してるだけなんだよ。全部を護ろうなんてできるわけない、君には無理だ。できないことをあたかももっと頑張ればできますみたいにいうのは、僕は大っ嫌いだね。もちろん、それは僕にも無理だし、あのAランクの人だって無理。だから、本当に助けたい人だけ助ければいい。それくらいなら、きっと君でも死に物狂いになればできるよ。というか、気づいてないだけで、もうモミジちゃんも護る側にいると思うけどね」
怒られた。
でも、何だか嬉しかった。
それにこの人の言っていることは正論だ。
今の私には優しい言葉なんていらない。きっと、誰かに怒ってもらいたかったんだ。
「あー、女の子が傷ついてる時は同情してあげるのが、本当は一番ゲットしやすいんだけどねー。モミジちゃんはハルトのもんだし、口説いたら殺されるからさ」
「ハルト君とは、そんなんじゃない。…………まだ、違う。これから」
「おっ、いいね~! 強気になれるじゃん。なんかモミジちゃんもいいかなって思ってきちゃったよ。あ、でも僕ちんはマナツ狙いだからね。その調子でさ、マナツにちょこ~とだけ僕のこと良く言ってくれてもいいよ?」
「……やっぱり、私、あなたのこと嫌いです」
「それ、初対面の時にも聞いたなぁ。あはは」
「ふふっ……」
緊張の糸が解けたのか、急速に眠気が襲ってきた。まぶたは堪え難いほど重く、頭もぼーっとしてきた。
徐々に暗転する視界の中で、ようやく目の前の男性を思い出した。
やっぱり、嫌いな人だ。
でも、起きたらマナツに少しだけ話してあげようかな。
視界がぐらぐらと揺れ、焦点が定まらない。人に肩を借りなければ歩けないくらいだ。
頭はガンガンとハンマーか何かで殴られているような痛みがずっと続いている。
お酒を飲みすぎたことは覚えている。これだけ朦朧とした意識の中でもはっきりと脳裏にこびりついた恐怖、悔しさ、悲しみを消すために自ら得意でないお酒を煽った。
でも、やっぱり消えてくれないのだ。この胸の痛みは、消えない。
「ほら、モミジちゃん。着いたから、そこ座って」
……誰だろう。そもそも、なんで見知らぬ人に肩なんて借りてるんだろうか。
どうやらどこか室内のようだけど、なにぶんつい数秒前に見て、感じたことがスパッと消え去ってしまう状態だから、ここまでの道のりや、話してきたことなど全部覚えてない。
「ったく、ハルトに殺されるんじゃないかなぁ。いやいや、でもあのまま放っておいたらそれこそ……」
ここまで連れてきてくれた人はたぶん、男性。それに少なくともハルト君の知り合いのようだ。
「はい、水だよ。少し落ち着いたら話して」
「えっ……?」
「いやいや、そんな呆けた返事されても。相談に乗ってほしいって言ったのはモミジちゃんだよ」
「あ、そっか……。そうだっけ?」
確かに思わず口にしたような気がする。でも、何を相談したらいいんだろうか。見知らぬ人に何を話せというのだ。いや、きっと知らなくはない。思い出せないだけだ。
でも、知り合いなんてそれこそソーサラにはいない。ということは、この男性はイルコスタで出会ったことがある人だ。
「何を……話せば良いのかわからない」
「ふー、こりゃ相当飲まれたね……。仕方ない、友人と好きな人のためにもとことん付き合っちゃうよ」
男性は目の前の椅子に腰をかけた。
短めの金髪。一見、美男子だけど、その塗り固められたような笑みは好きになれない。あと、じゃらじゃらうるさい。
「辛い……」
「それ、さっきから口癖みたいに言ってるけど、どしたの? いや、なんとなく理由は察するけどね。大方、イルコスタでの出来事でしょ?」
「――ッ!」
「そりゃ、僕ちんだって知ってるよ。この街だって今はその話題で一色さ。それを踏まえて、何が辛いの?」
「……みんな死んだ」
「みんなって?」
「みんなは、みんな。街のみんな。イアンさんも、ヤヒロさんも、コマチさんも、ロイドさんも、街のみんな……。ギルドにいた冒険者も、喫茶店のおじいちゃんだって、みんな死んじゃった……。ううん。護れなかったの。勝てなかったから。それなのに、私はまだ生きてる。生かしてもらってるの!」
目頭が熱くなり、揺れる視界がにじんだ。
「……何も成長してない。マナツにユキオ君、それにハルト君に出会って、パーティー組んで、少しは変わったと思ってた。でも、臆病で塞ぎがちな性格も、護られ続けることに対する甘えも、何も変わってない」
男性は何も言わない。でも、しっかりと視線を向けられていることはわかる。
「何より……こういうときに仲間に何もしてあげられないことが辛い……」
溜まった涙が頬に流れた。
ふと、今ここで仲間に慰められたらどんなに嬉しいだろう。
……あぁ、こういうところが嫌いなんだって。どうしていつも受け身側なんだろう……。護られることが染み付いてしまっている。
本当に嫌いだ。
「ちゃらんぽらんで、何の力もない僕に言われるのも癪だろうけど、いいかいモミジちゃん? 君は弱い。それこそ、僕と一対一で戦っても負けちゃうくらい、君は弱い。何も変わっていないんじゃない。変わったことに恐れて、過去を真似してるだけなんだよ。全部を護ろうなんてできるわけない、君には無理だ。できないことをあたかももっと頑張ればできますみたいにいうのは、僕は大っ嫌いだね。もちろん、それは僕にも無理だし、あのAランクの人だって無理。だから、本当に助けたい人だけ助ければいい。それくらいなら、きっと君でも死に物狂いになればできるよ。というか、気づいてないだけで、もうモミジちゃんも護る側にいると思うけどね」
怒られた。
でも、何だか嬉しかった。
それにこの人の言っていることは正論だ。
今の私には優しい言葉なんていらない。きっと、誰かに怒ってもらいたかったんだ。
「あー、女の子が傷ついてる時は同情してあげるのが、本当は一番ゲットしやすいんだけどねー。モミジちゃんはハルトのもんだし、口説いたら殺されるからさ」
「ハルト君とは、そんなんじゃない。…………まだ、違う。これから」
「おっ、いいね~! 強気になれるじゃん。なんかモミジちゃんもいいかなって思ってきちゃったよ。あ、でも僕ちんはマナツ狙いだからね。その調子でさ、マナツにちょこ~とだけ僕のこと良く言ってくれてもいいよ?」
「……やっぱり、私、あなたのこと嫌いです」
「それ、初対面の時にも聞いたなぁ。あはは」
「ふふっ……」
緊張の糸が解けたのか、急速に眠気が襲ってきた。まぶたは堪え難いほど重く、頭もぼーっとしてきた。
徐々に暗転する視界の中で、ようやく目の前の男性を思い出した。
やっぱり、嫌いな人だ。
でも、起きたらマナツに少しだけ話してあげようかな。
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