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抗ったその先に

元パーティーメンバーですか?

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「紹介します。 こちら、俺たちの師匠のシャロです」

 小屋の中はまるで屋敷のように広かった。
 外見だけ見れば、確実に人が一人住むのが関の山に見えたが、その内見は旧マナツたちの家と同じような広々とした建築で、外からはどう見ても一回建てなのに二階まで存在していた。
 
 これも魔法の力なのだろうか。

「シャロと申します。テトラたちの友人だそうで。どうぞ、何もないところですが、ゆっくりしていってくださいな」

 吹き抜けのガラス天井から注ぐ日光に照らされている女性。
 陽に照らされてきらめく金色の髪に整った顔立ちで、白に青いライスストーンが散りばめられた魔法衣に身を包んでいる。
 相好は穏やかで、つい見とれてしまう。

 不躾にも視線を上下に動かしたマナツはあることに気が付いた。

「シャロさんって、もしかしてエルフですか?」

「おや……? よく気がつきましたね。エルフの最大の特徴とも言える、つり上がった耳は魔法で隠していましたのに」

「なんというか、身にまとう魔力の質が違ったもので……。あと、ありえないくらい綺麗ですし」

「あら、お褒めの世辞、嬉しく受け取っておきますわ。それで、ここへは何用でいらしましたの?」

「あっ、そうだ! テトラさん! ロインさん! シャンディさん! アカメさん! どうか、力を貸してもらえないですか!?」

 マナツの思い出したかのような切迫した勢いに先程までの和やかな雰囲気が一変した。

「ちょっ、マナツさん。落ち着いてください。一体、何が?」

 マナツはこれまでの出来事を包み隠さず語った。イルコスタが滅んだこと、街の大半の人が犠牲になったこと、そして、氷龍のこと――

「私たちの街が……?」

 アカメの半ば信じられないというような呟きにマナツは小さな頷きで返す。

「確かに数日前に強い殺気を感じたっすけど、まさか街が一つ壊滅してたなんて……」

 ロインもどうやらまだ事実をしっかりと受け止めきれていないようだ。
 テトラとシャンディは無言ながらも一瞬、顔を見合わせた。

「でも、あの街には私の弟子があと五人ほどいたと思いますが、その方達は出払っていたのかしら」

「弟子って……?」

「あぁ、ごめんなさい。冒険者のライズ、イアン、ヤヒロ、コマチ、そしてまだ生きていたはずですが、ロイドという老人です」

「――ッ!」

 マナツの表情が歪んだ。その表情を見て、シャロも察したのだろう。静かに目を閉じた。

「そう。あの子達でも止められなかったのね」

「で、でも! 一緒に戦ってくれました! それに私たちを命がけで逃してくれました! イアンさんも、ヤヒロさんも、コマチさんも、ロイドさんも……。最後まで、勇敢でした…………」

「……ライズは、生きているのですね?」

「はい……。私たち四人とロイドさんの弟子であるゼシュさん、そして勇者の一人と一緒にソーサラまで逃げ延びました」

「そう……。彼が生きていただけでも救いだわ」

 シャロはガラス天井から覗く透き通った青い空を見上げた。表情はほとんど変わらないものの、どこか悲しげな瞳だ。

 しばしの沈黙。
 見かねたシャンディが口を開く。

「それで、どうして私たちの場所を訪ねたんだ? さっき助けてくれって言ってたけど、今の話を聞く限りCランクの私たちパーティーではその氷龍にはとてもじゃないけど手も足も出ないと思うんだが」

「……助けてほしいっていうのは、ハルトです」

「ハルト……」

 テトラがいち早く呟いた。

「私たちは氷龍と戦って、その強さに、そして何より仲間が命を落としたことによって多大な心傷を追いました。私はまだこうしてなんとか立ち直りましたが、ハルトは特に酷くて……。部屋に引きこもり続けているんです」

「――ッチ! あのバカ……」
「ハルト先輩っては昔から一人で背追い込んじゃいますよね」
「こんな時まで引きこもり体質ですか……私たちがお仕置きをしましょう」

 三人は顔を見合わせ、頷いた。そして、無言で腕を組んでいるテトラに視線を送る。

「どうか、お願いします! 私たちは、どうしても氷龍を倒したい! そして、その思いが一番強いのはきっとハルトなんです!」

 マナツはテーブルに頭を擦り付ける勢いで頭を下げた。きつく閉じたまぶたの裏には忌々しい氷龍の姿が浮かんでいる。
 
「ハルト君は、良い仲間を持っているわね。それで、テトラはどうするのかしら。元パーティーメンバーとして、そしてハルト君の友人として――」

 シャロが穏やかに微笑む。

 全員の視線がテトラに集まる。

 テトラはゆっくりと目を開ける。

「よし、俺が一発ぶん殴ってきます――!」
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