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第二話「王女」①
しおりを挟むレキは草原を歩いていた。
ユタの村を旅立ってしばらくはずっと見通しのいい草原が続いており、歩きやすく、また遠くにモンスターがいてもすぐに気づく事ができるような景色であるため今のところレキの旅は順調といえた。
これまでに何度かモンスターとも遭遇したが、それほど強いモンスターは出なかったのでこの辺りは比較的安全なのだろう。
レキがユタの村を出発してから、すでに三日が経っていた。
水や食料はユタの村で補給していたが、ところどころで小川を見つけては水を汲んだり、食べられる木の実などを探しながらレキは先に進んでいる。
今日もかなり歩いたはずだ。レキはこの辺りで少し休憩することにした。
荷物をおろし、地図を広げながらその場に寝転がる。さわさわと風にゆれる草がレキの頬をやさしくなでている。
レキはここから西に位置するウェンデルという都を目指していた。
ウェンデルはラトル大陸の中でも最も大きな国“レスト王国”という国が治めるとても大きな都で、各地からたくさんの人が集まって来る場所らしい。そこならきっとフォースの有力な情報が聞けるだろう。
そう思ってレキはもともとウェンデルを目指していたのだが、途中道をはずれてしまいユタの村に着いたのだった。
だが結果的にはその偶然行き着いたユタの村で、フォースの導きの書のひとつを見つけることができた。
レキは自分が今いる大体の位置を確認してから地図をしまうと、代わりに紋章の描かれた二冊の本を取り出した。
一冊目の本を開いてみる。もともとレキが持っていたほうだ。
“遥か昔、世界を破滅へといざなう闇の力があった。
その闇の力の源は自分の力を分け与え、悪しき闇の化身であるモンスターを次々に生み出し世界に解き放った。
解き放たれたモンスターは人々を襲い、世界には暗黒の時代が訪れた。
しかし世界を破滅へといざなう闇の者が現れるとき、紋章に選ばれた勇者も現れる。
聖なる白い光を放つ紋章・グランドフォース。
紅蓮の紅い光を放つ紋章・フレイムフォース。
厳正な蒼い光を放つ紋章・アクアフォース。
三人の英雄、その三つの力が交わるとき、世界を破滅へといざなう者を打ち破り、世界には再び平和が訪れる……”
一冊目に書かれている内容はこれだけだ。このフレーズはこの世界の誰もが知っている有名な勇者伝説だった。
紋章の中でも「最も偉大な力」という意味をもつグランドフォース。そして、その力を支えるフレイムフォースとアクアフォース。
この伝説を知らない人はたぶん、いないだろう。モンスターだって知っている。
レキは一冊目の本を閉じ、続いてユタの村で見つけた本を開いた。
“世界を破滅へといざなう者が現れるとき、同時に、聖なる力によってフォースを導く七つの書も光を放ち、世界に現れる。
すべての書を集めることによってフォースのすべきことを導き、世界を破滅へといざなう者を討つことができるであろう。
書は各地に封印されており、邪悪な者にはさわることもできない。
正しい心をもつ者だけがその書に触れ、封印を解くことができるだろう……”
レキは二冊目の本を閉じた。
分厚いのは見た目だけで書いてあることはすごく少ない。最低限のことしか記していないようだ。
レキはこの二冊の本をもう何度も読み返していて、一字一句すっかり覚えてしまっていたが、それでも一日に何度も本を開いては眺めていた。
「あと五冊か……」
レキは小さく呟いた。
道のりは遠そうだ。それにまだ紋章をもつ者・フォースも見つかっていない。
「ふぅ……、やっぱりもう少し急がないとね」
レキははやる気持ちを抑えきれずに立ち上がると、土をパンパンと軽く払って荷物を持ち、再びウェンデルに向かって歩きはじめた。
同じくラトル大陸、南の町テセラ——。
そこはウェンデルと同じく、レスト王国が治める町のひとつだ。
ウェンデルほどではないが旅人の行き来も多く、たくさんの商店が並んでおりなかなか活気のある町である。
その町の中のひとつの武器屋で店主と話し込んでいる女性がいた。
女性と呼ぶにはまだ少し幼さが残り、年齢でいうとたぶん16才前後である。
彼女は銀色に薄いピンクがかった緩やかなウェーブの長い髪をしており、横髪は頭の後ろに流し金の髪どめで軽くまとめている。瞳は輝く金色でぱっちりと二重でとても美しい。
白のローブに金色のストールをまいたその姿はどことなく優雅さをただよわせていた。
「残念だがこの店には来たことはないな」
古びた武器屋にあまりにも不釣り合いな綺麗な少女に驚きながら、店主は少女に向かって少し申し訳なさそうに答えた。
「そうですか……。この辺りでもそのような噂は全く耳にされませんか?」
「ああ、噂も聞いたことがないぜ。もしこの辺に一度でも来てたらすげぇ噂になったはずだからな。でも今のあんたみたいに探しにくる奴はこれまでに何度かいたがなぁ」
少女はお礼を言って店を出た。
店を出るとちょうど、背が高く長い銀髪を後ろで一つに束ねた目の鋭い男が少女に近づいてきた。
「そちらはどうでしたか?」
見た目で受ける印象とは違い、丁寧な言葉遣いで男が話しかける。
「ゼ~ンゼンだめよ! 手がかりなしだわ!」
やれやれ、といった様子で少女がお手上げの格好をする。
さっきの優雅さと言葉遣いはどこへやら? 少女も見た目の印象とは違う、くだけた様子で答えた。
「フォンのほうはどうだったの?」
少女にフォンと呼ばれたその男は、そう問われると残念そうに首を横に一つ振る。
「こちらもですよ。有力な手がかりは何一つありません」
彼はさらに小さくため息をついた。
「これだけ大きな町でも、紋章をもつ者を見たことがある人はいないようですね。噂さえ聞かないそうですよ。やはりこの大陸にもグランドフォースと呼ばれる方はいないのでしょうか……」
「う~ん……まだわからないじゃない。ここから少し北西に行ったところに、この大陸一の都・ウェンデルがあるわ。そこならきっと何か情報が手に入るわよ! うん、なんかそんな予感がする!」
「……姫の勘はよく外れますからね」
フォンはボソッとつぶやいたが少女には聞こえていたらしい。ジトッと少し不機嫌な様子で男を睨みつける。
「フォン! 余計なことは言わなくていいの!」
少女は口をとがらせつつ、ムッとした表情で窘める。たしかにこの少女、あまり勘の働くほうではなかった。
これまで二人は主に少女の言うとおり、いろいろな地を旅してまわっていたのだが、今のところ彼等の目的は達成されることなく、それらは全て空振りに終わっていた。
「冗談ですよ、姫」
フォンはそこで「姫」と呼んでいる少女に向かってフッと表情をやわらげる。
「ウェンデルに行くのは私も賛成です。人の多い場所には、自然と情報も集まるものですからね」
フォンの改められた言葉に少女は少しだけ気を取り直したようだった。ま、いいわ、とでもいうように軽く肩をすくめると、再び気合いを入れ直す。
「それじゃ、早速ウェンデルに出発するわよ!」
この「姫」と呼ばれている少女と、その従者「フォン」は紋章をもつ者・フォースを探し出し、守護することを目的に各地を旅していた。
今二人がいるラトル大陸のとなりに位置する最東の大陸・ルートリア大陸。少女はそのルートリア大陸にある国の一つ、セルフォード王国の王女であった。
ルートリアは非常にモンスターが狂暴化している大陸の一つで、セルフォード王国以外にもいくつかの国があったが、どの国も少なからずモンスターの被害を受けていた。
それぞれの国は軍事力を高め、モンスターに対抗してきたがその形勢は徐々に悪くなるばかりであった。
ルートリア大陸では、ある日突然モンスターの大群が攻め込んでくることもあり、そのターゲットとなった街や国などはすでに滅んでしまっているところもあるほどだ。
少女の国セルフォードも、いつそんな状況になってもおかしくはなかった。王宮の兵士たちは国を守るため、日々モンスターとの激しい戦いを繰り広げている。
しかし、いくらモンスターを倒してもきりがなかった。悪の根源を絶たなければモンスターはいくらでも生み出されてしまう。
そこで人々の唯一の希望は、伝説に記されている“世界を破滅へといざなう者”を倒す力を持つ、勇者グランドフォースだった。
フォースなら伝説どおりきっと、世界を破滅へといざなう存在を倒し、再び平和を取り戻してくれる、人々はそう信じていたのだ。
しかし、その肝心のグランドフォースはまだいっこうに現れる気配はない。
それどころかあまりにも現れるのが遅いため、既にモンスターに殺されてしまっているんじゃないかという噂まで流れていた。
もしも本当に、紋章の力を発揮できるフォースがすでに殺されているならば世界は終わりだ。紋章の力なしに“世界を破滅へといざなう者”を討ち破ることはできない。
それ故にモンスターはフォースの命をしつこくつけ狙っているという。
モンスターが最も恐れているのは紋章の力。なによりもフォースを抹殺することを最優先に動いているらしい。
そうなればなんとかモンスターよりも先に紋章をもつ者を見つけ出して守らなければならない。いくらフォース——勇者といっても一人だけの力ではモンスターに殺されてしまうかもしれない。
人々の唯一の希望をモンスターに消されるわけにはいかないのだ。
そこで王女は自ら立ちあがった。じっとしているのは性分に合わなかったため自分でフォースを探しに行くことにしたのだ。
もちろん最初は国王も反対した。しかし、今は国にとどまっていても、いつモンスターの大群が攻めてくるかわからないので安全とも限らない。
それならば王女のやりたいようにやらせてみようということになったのだ。
セルフォード王国には他国のように、国の総力を上げてフォースを探し出すという余裕はなかった。兵士は国を守ることで精一杯だったのだ。
王女は非常に強い魔力をもっており、魔法のエキスパートだったがやはり一人ではあまりにも危険だ。そこで護衛役として、セルフォードでも最強の剣士と呼ばれている家臣のフォンを旅の共につけることにした。
この二人がグランドフォースを見つけ、世界に平和を取り戻してくれることを願い国王は二人を送り出したのであった。
* * * *
ウェンデルへと続く草原を歩きながら、少女は内心焦っていた。
旅に出てしばらく経つが、有力な手がかりは何一つ見つかっていない。こうなるとやはり噂は本当でフォースはすでに殺されてしまったのではないかと不安になってくる。
それに、飛び出してきた祖国セルフォードのこともやはり気がかりだ。
これまでなるべく態度には出さないようにしていたのだが、旅の成果があまりにもあがらないため、少女は抱えている様々な不安な思いを隠しきれなくなっていた。
「姫、焦らなくても大丈夫です。私はこんなに早くフォースが見つかるとは思っていませんよ。まだまだこれからです。それにセルフォードもきっと大丈夫です。王宮の兵士はそんなにやわじゃありませんから」
少女の様子に気づいていたフォンが、優しい言葉をかける。
このフォンという男は、初めて見る者にとっては少し冷たい印象のする男だった。長い銀髪に切れ長の目、鼻筋は通っていて非常にきれいな顔立ちをしている。
そのあまりにきれいな顔と鋭い目つきが、フォンの印象をそうさせていたのだ。
しかし幼い頃からフォンを知っている少女は、フォンが本当はとても優しい人だということを知っている。
「ありがと……、フォン」
フォンの言葉に不思議と安心した少女はニコッと笑いかけると、気持ちを新たに再びウェンデルへと先を急いだ。
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