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第三十六話「破綻」②
しおりを挟む——翌朝。
レキは重い頭を無理矢理働かせるようにして、なんとかぼんやりと目を開けた。
なんだかすごく頭が重くてスッキリしない……。昨日夜更かしし過ぎたのだろうか? 確か昨日もリオーネと話している途中で寝てしまった気がする。
こんなに頭がぼんやりする状態は、まるで以前眠らされる呪術を喰らった後の時のようだった。
隣のベッドで寝ているはずのリオーネのほうをふと見ると、彼女は既にベッドから起き上がっており、レキに背を向けて髪を整えている最中だった。
「リオーネ、おはよう……。早いね」
レキは眠さの残る声でリオーネに話しかけたが、リオーネは一瞬ピクッと動いただけでレキのほうには振り向かなかった。
「………おはよう」
こちらを見ないままボソッと挨拶を返された。
「……?」
どうしたんだろう、リオーネは何か怒っている? とレキはすぐに思った。
さすがに二回連続で話の途中に寝てしまったことを怒っているのだろうか。それでも今回は結構長く深夜まで話したのだが……。
「リオーネ……?」
リオーネのほうへ行こうとバサッと布団を退けたレキは自分の姿を見てふと違和感を感じた。
なんだか少し着衣が乱れている気がする。
あれ……? 昨日こんな風に服を着たんだっけ……? と、少し腑に落ちずに首を傾げた。
しかし今はリオーネの様子のほうが気になるので起き上がって彼女の元へと駆け寄る。
「どうしたのリオーネ? 怒ってる? それとも体調でも悪いの?」
レキは心配そうにリオーネの顔を覗き込む。
すると目が合ったリオーネはレキをキッと睨んできた。
「何でもないわ」
「何でも……なく、ないよね……? 昨日も途中で寝ちゃったから怒ってるの? ……ごめんね」
レキは心当たりのことをすぐに謝ったが、リオーネはキッと睨んだままだった。……こ、怖い。
「そんなことで怒らないわ」
「そう……? じゃあなんで……?」
レキは全く訳がわからなかった。昨日は眠る寸前まで仲良く話していたのに朝起きたらリオーネは怒っている。途中で寝てしまったのが理由ではないなら……あとは何?? わかんない……。
レキは途方に暮れた。
「あなたは私の婚約者なのに……」
「? そうだよ」
「でも……あなたは心の中で別の人のことを考えてるわ」
「ええっ?」
別の人?
レキが考える前にリオーネがレキを睨みながら呟いた。
「“プレゼナ”」
「!!」
レキがビクッとした。
その反応は少なからず本人も自覚があるように見えるものだった。
「あなたってまだあの人のこと……」
「えっ……! いや、そういうのじゃないよ! た、多分……。自分でもよくわからないけど……無事かどうかは心配だし……気になってるのは気になってるけど……」
レキは困ったように弁解する。あれから彼女には会っていないし正直自分でもよくわからないのは事実だ。もしも生きていたとして、会った瞬間自分がどういう感情を抱くのか全く予想がつかなかった。
「でも、あなた昨日寝言で“プレゼナ”って呟いたわ」
「えっ……!? 寝言で……!?」
寝言でそんなことを言ってしまったとは……。だからリオーネは怒っているのかとレキは合点がいった。
「ごめん……。昨日デストロードの話で久しぶりにプレゼナの名前も言ったし、それが印象に残ってたのかな……?」
レキはあわあわと苦しい弁解をする。
しかしリオーネは凍るような目をスッと細めた。
「でもあなた、キスした時“プレゼナ”って呟いたのよ。まるで夢の中では彼女としてるみたいに……!」
「……ええっ!? ち、違うよ! そんな夢見てない……」
と、そこまで言ってレキは「え?」と思った。
「キスした時……? 昨日オレが寝てる時にキスしたの……?」
「! ………」
リオーネはハッとした表情をした後にすぐに顔を背けた。そして無言でまた髪をとき始める。その様子は何でもない風を装っていたが微かに動揺が見てとれた。
「……したんだね」
レキは小さくため息をつく。
そういうことはまだしないと拒否していたはずだったが、寝ている時なら——レキが気づかなければいいと思ったのだろうか。やはりレキの意思はあまり聞いてもらえないようだ。
こう何度も意思を無視されると何だかリオーネ自体信用できなくなってきてしまうし、そういう愛情表現が余計に苦手になってくる。
だが、いくら無意識とはいっても寝言で他の女性の名前を呼ぶ自分も良くないな、とレキも少し反省した。
正直自分がどういう意図でその名前を呼んだのかわからないが、リオーネが怒るのも無理ないのかもしれない。
レキは自分も悪いと思ったので、別にキスくらいならいいか……もうしちゃったわけだし……と納得しようとした。
「……リオーネ」
しかし、声をかけながらふと、レキは全身がゾワッとするある考えが頭をよぎった。
リオーネはレキがプレゼナに関心を持っていることを目の当たりにすると暴走する傾向がある。
確か以前も森の中にプレゼナを探しに行っていたことが見つかって、その後の話の流れで突然呪術で眠らされ、例の行為に至ったのだった。
そして今日……リオーネはまたプレゼナの名前を聞いて怒っている。そして朝起きたレキはまるで前回呪術を喰らった時と同じようなぼんやりとする頭の重さがあった。
さらには、着衣が変に乱れていた。明らかに自分で着た状態とは違う。
レキはそれらのことが一気に繋がって、ゾクッとした。まさか……、まさかまたオレは……。
「………ねぇ、リオーネ……もしかして……それ以外にも、オレに何かした……?」
おそるおそる震える気持ちでレキはリオーネに問いかける。肯定して欲しいのか否定して欲しいのかわからない。レキはリオーネに恐怖を感じ始めた。
「…………。してないわ」
「……本当に?」
「…………。……してないわ」
「…………」
してないと言われても全く信じられなかった。
今まで何度も約束は破られたし、レキの意思は無視され続けている。
レキは唐突に気持ちが悪くなってきた。なんだか吐きそうになる。
……だめだ、無理。
レキは無言で部屋を出た。
それからレキは外に出て本当に吐いてしまった。気持ちが悪い。体が拒絶反応を起こしている。
歩み寄れると思っていた。リオーネのことをもっとよく知って、これから少しづつ好意に変わっていけると思っていた。信頼関係を築いてずっと仲良くやれると思っていた。
少なくともレキはそうなれるように努力したつもりだった。
婚約者になると決めてからのこの10日間、リオーネの意思を最大限尊重し、自分なりに出来ることは一生懸命に頑張った。
いきなり子どもが出来たかもと言われて以来、覚悟を決めて誠実であろうとしたつもりだった。
だけど……もう無理かもしれない。
この先一緒にいることにかなりの拒絶反応を覚える。結婚どころか……一緒に旅することさえ恐ろしく感じる。
レキが苦手だから待って欲しいということも、意思を無視して平気でされてしまう。
「……レキ?」
気分の悪さにしゃがみ込んでいると、不意に名前を呼ばれた。
レキはそっと声のしたほうへ顔を上げる。
そこにはクローレンが立っていた。
「……おい、どした? なんかめちゃくちゃ顔色わりーぞ」
「………」
クローレンの顔を見るとなんだか泣きそうになった。しかしこんなことで泣くのは情けなさ過ぎる。
クローレンに全てを話したい気持ちになるが、なんとか理性でそれをやめた。
「何でもない……大丈夫……」
それだけ言うのが精一杯だった。
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