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第4章 冒険者のドラゴン

第26話 SIDE:商人、冒険者 驚きのドラゴン

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SIDE:商人

 私はタルコット。
 しがない紡績商人。
 布をあちこちで仕入れあちこちで売り捌く事で生計を立ててます。
 実入りが良いとは言えないがそれなりに儲かる商売です。
 ギルドから推薦があり一人の冒険者を護衛に雇いました。
 会って驚きました。
 なんとドラゴンを連れています。
 大丈夫なんでしょうか。

 馬が怯えるので後ろの方から護衛して下さる事になりました。
 驚きました。
 魔獣が一匹も出てこない。
 驚きを通り越して気味が悪いです。
 でも、素晴らしい。
 ドラゴンの臭いを布に染みこませたら魔獣よけにならないでしょうか。
 試してみる価値はあります。
 テイマーのミニア様とは是非お近づきになりたいものです。

 ミニア様は手綱も付けずによく操れるものです。
 伝言魔法があるとはいえ、普通の人間なら十回伝言魔法を使えば気絶してしまいます。
 それとも調教の賜物でしょうか。

 ミニア様の口笛が聞こえてきす。
 街道を塞ぐように倒木があると御者が伝えてきました。
 私はこっそりと様子を覗きます。
 ドラゴンが倒木を放り投げます。
 圧倒的ではないですか。
 これだけでも当たれば死人が出ます。
 戦闘になったらどれだけの事ができるのやら。

 複数の走る足音が聞こえます。
 案の定、盗賊が出てきましたか。
 馬鹿な盗賊です。
 ドラゴンに喧嘩を売るつもりのようです。
 ブレス吐きましたな。
 断末魔の悲鳴を上げる間もなく一瞬で消し炭ですか。
 素晴らしい殲滅力です。
 専属護衛として雇いたいですが、そうもいかないでしょうね。
 彼女の実力ならSランクもあっという間でしょうから。
 私は拍手しながら馬車を降りました。

 ミニア様と話す事ができました。
 ドラゴンの名前はウィザと言うのですね。
 私の『よろしければ今後もお付き合いしたいものですな』という申し出に満ざらでもない様子のミニア様。
 後で連絡を取ってみましょうか。

 目的地の街に着き私は別れ際に追加の報酬を渡す事にしました。

「胡散臭い呪文屋から魔法を借金のカタに押さえたのですが。その中に詠唱しても失敗する物がありまして。その二つを差し上げたいと思います」

 そう私が述べるとミニア様は屈託のない笑顔を見せました。
 魔法に大変な興味があるご様子。
 これは良い情報を得ました。
 珍しい呪文を各地で幾つか仕入れると致しましょう。
 なに、発動しない呪文など二束三文です。
 子供の小遣い程度もしません。


 ミニア様は不思議な方。
 礼儀作法はなってないのに魔法には精通しているようです。
 もしや、一時期噂になった亡国の姫ではないでしょうか。

 それなら、教育が偏っているのも頷けます。
 幼い頃に宮殿を脱出して、御つきの者が戦闘技能だけ鍛えた。
 ありえそうな話です。
 いや違いますね。
 亡国の姫は噂の立った時期から計算すれば二十代後半。
 だとすれば妹か娘というところでしょうか。
 なんにせよこの縁は繋いでいくとしましょう。



SIDE:冒険者

 俺の名前はバーハム。
 開拓地の指揮を執っているAランク冒険者だ。
 ギルドの知らせが伝言魔法で届いた。
 ドラゴンが開拓にやってくるらしい。

 到着したテイマーは普通の悪がきに見える。
 だがこの後、俺の常識は覆された。
 もの凄げえ硬え大岩にドラゴンが何か吹き付けたと思ったら尻尾の打撃で粉々だ。
 あの大岩は爆破の魔法でもびくともしなかった奴なんだぜ。
 百人でも動かなかった大岩をドラゴンが転がしてやがる。
 十人係で半日掛けて移動させる岩が尻尾の一振りで開拓地の外だぜ。
 たしかにドラゴンの大きさなら小石だけどよ。

 木を切らせる事にしたら嬢ちゃんが魔法を連発。
 ドラゴンも大概だが、嬢ちゃんも大概だな。
 木の根にロープを掛けるとドラゴンが器用に咥え引っ張りやがる。
 あっと言う間に一ヶ月の工程が終わっちまった。
 これじゃ俺達の立場がないんで今日は終わりにしてもらった。

 次の日、嬢ちゃんには道作りに回ってもらった。
 俺は見てないがやらかしているんだろうな。
 だが、早く仕事が進む分に文句はない。

 魔獣来襲の鐘が鳴らされた。
 どんな魔獣だ。
 まさかAランク魔獣じゃないだろうな。
 現場に行くとゴブリンの群がいやがった。
 千か。
 厳しいな。
 冒険者が百人。
 一人十匹のノルマだがFランク冒険者も多数いる。
 とにかく遠距離攻撃で出来るだけ削らないとな。

 Fランクでも一番簡単なファイヤーボールは放てる。
 但し動きながらミスなく詠唱なんてのはCランク以上の魔法戦士じゃないとできないがな。
 この状況なら棒立ちで撃てるだけ撃つべきだろう。

 俺の号令の下、魔法が放たれる。
 ドラゴンもブレスを吐いて援護している。
 勝ったな。
 だが、見込みが甘かった。
 後続が次々に現れる。
 一体何匹いるんだ。

 その時、嬢ちゃんが見渡せない程の石の壁を出した。
 なんてこったい一体どれだけ魔力があるんだ。
 石の壁の前進に次々に潰されるコブリン。
 圧倒的だな。
 開いた口が塞がらないとはこの事だな。
 俺は一段落ついたので祝宴を催す事にした。

 嬢ちゃんを見つけたので俺はジュースを勧めた。
 酔わせてドラゴンが暴れ出すなんて事になったら目も当てられない。
 みっともない事に嬢ちゃんに愚痴を少し言っちまった。
 でも、嬢ちゃんはたいして気にしていないようだ。

 祝宴が終わると嬢ちゃんは魔道具を作り始めた。
 おいおい、一体何個作るんだよ。
 分かったぞ。
 嬢ちゃんはなんらかの手段でドラゴンから魔力を譲り受けているな。
 でなければこの魔力量はありえない。
 凄いのは全てドラゴンだ。
 ギルドの報告書にはそう書いてとこう。
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