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第15章 ベンチのドラゴン

第90話 国民候補

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 このベンチに居ると色々な人が話し掛けて来る。
 大概は一度きりの見知らぬ顔なんだが、中には顔見知りもいて少しばつの悪い話も聞けたりする。
 今日は謎の女キャラナだな。

「はぁー、やってられんのだ」

 ため息なんかついて、どうしたんだ。

「私にスパイなんてどだい無理。本家もどうかしている」

 今日はスパイ物か。
 おじさんに聞かしてみろ。

「万能薬が漏れたという噂の出所を探れだなんて」

 俺もその噂は聞いたが出所は知らないな。

「だいたい、魔石をポーションにするなんてすぐに思いつく事なのよ」

 やっぱり、魔石ポーションは万能薬だったか。
 こんな時に余計な男が来やがった。
 なんでダッセンはこう余計な事に首を突っ込みそうになるのかな。

「こんにちは、美しいお嬢さん」
「お嬢さんなんて言われるほどではないのだ。ちょうどいい。学園の職員だったね。万能薬についてなにか噂を知らないか」
「いえ、暗部なんて知りませんよ」

 おいおい、惚け方が下手すぎだろう。

「私の聞いた噂では確かに暗部が盗みだしたとなっていた。その噂の事だよね」
「そうそう、何でも恐い人達だとか。私は会った事はありませんが」
「噂の出所は誰なんだか知っているか」
「ああ、それなら知っています。同僚の職員が食堂で、亡国の姫の噂をしていたのですよ。隣席ではカンニングの方法は万能薬だと自信満々に言い放っていたのです。俺がそれを合成して話をでっちあげたのですよ」

 お前か。お前なのか。

「それじゃ、全くのでたらめじゃないか」
「いやそれがですね、お嬢さん。ここだけの話。瓢箪から駒っていうか本当らしいですよ」

 おいおい。口止めしたはずだ。
 キャラナを見つめる顔が恋した男の顔だ。
 やばい、暴露される。

「ちょっと、待ったぁー」

 俺は文字を出すようにティに命令した。

「何っ、この文字」
「ドラゴンテイマーの子がいるでしょ。その子の師匠が感覚共有しているらしいですよ」
「そんな技が」

「仮にだよ。君がメモを落とした時に、魔石の液体化を盗んでしまったらどうなる?」
「なぜあのメモが魔石の液体化だと知っているのだ」

 墓穴を掘ってしまった。
 いやまだ逆転の目はあるはずだ。

「どうなるのか?」
「私が処分されるのだ」

 そうだ。前にそんな事を言ってたな。

「お嬢さん、事情は分かりませんが、一緒に逃げましょう」
「お前は黙っていろ。話がややこしくなる。全員が幸せになる方法があります」

「どんな方法かな」
「それは、噂はデマだった。秘密の漏洩はなかったという事だ」
「無理だ。絶対ばれる」
「ある一族ってのはどうせ貴族だろう。こっちは一国の暗部が丸ごと味方だ。守ってやれる」
「話が本当なら、それは確かに対抗できる」
「いざとなれば、ミニアが建国する国へ逃してやっても良い」
「俺も一緒に行ってあげるから」

 ダッセンよ何時から国民にするって事になったんだ。

「保証がほしい」

 保証ねえ。どうしたら良いのか。
 そうだ。
 魔法を一つもらったのだからお返ししないとな。

「この魔法で液体化した魔石が元に戻せる。
ソクチス・モチキニソろテチカイスガヌワワムレ・
ヒラニシ・モチニミゆヒラニシよ・が・
ニミカ・ニレ・
モチキニソ・けモセレ・
ハラスゆニほワレニねヌワワレニれれよが・
モチキニソろテチカイスガニムほモチキニソろテチカイスガニムホリニタナニシレ・む・
モセほモチキニソろモチノイゆモチキニソろテチカイスネトニツイラハゆモチキニソろテチカイスよネニモチキイコチリリよレ・
モチキニソろカスチミトゆモセよレ・む」

「待って、今メモを取るから。魔法ってつい忘れるのだ」

 キャラナはメモを取り始めた。

「試しても良いか」
「良いぞ」

 キャラナはポーション瓶を取り出すとメモを見ながら魔法を唱え始めた。
 ポーション瓶の蓋が弾け球状の魔石が現れる。

「本当に出来た」
「これの有用性は分かるだろう。Fランク魔石二個がCランク魔石になる」
「これさえあれば、本家に感づかれた時に、この功績で工作が出来る」
「納得してくれたか」

「もしもの時は頼むよ」
「任された」
「俺は、俺はどうなるの。一緒に連れてってくれるよね」
「しょうがない。もしもの時はダッセンも連れてってやるよ」

 ミニアが建国するときの国民候補が二人できた。

「ところで、師匠さんはどんな方なのだ」
「姿は異形だな。魔力は53万だ。空を飛ぶ事もできる」
「そうなのか、苦労したのだな」

「あっさり受け入れているけど俺は騙されないぞ。異形ってのは良いとして。53万だぁ、それは盛りすぎだろう。女の子前だからって良い格好するなよ。空なんて飛べないだろう」
「空ならミニアだって飛んだ事がある」

「本当、本当なのか。くそう、なぜか負けた気分だ。なんか悔しい」
「二人は国民候補の第一号と第二号だから、後で空の旅に連れてってやるよ」
「楽しみなのだ」
「いいなぁ、女の子と二人で空の旅」

 ダッセンが空想に浸り始めた。
 この二人をミニアの国に連れて行く時は正体をばらそう、何となくそう思った。



「こんにちは」

 迎えに来たミニアが言った。

「こんにちは」
「お前かよ」

「ミニア、よろこべ。この二人が国民候補の第一号と第二号だ」
「よろしくなのだ。国王様」
「俺は陛下なんて絶対に呼ばないぞ」
「下僕の癖に生意気だけど、特別に許す。道化師枠よ」
「えっ、俺の役職、道化師なの」

 笑い声が校舎にこだました。
 平和な日々だ。
 キャラナとダッセンの憂いは完全に晴れたな。
 俺って悩み事相談係じゃないんだけどな
 また、誰か悩みを持ってきそうな気がする。
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