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第17章 呪文屋のドラゴン

第103話 呪文屋、終了

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「助けてくれお願いだ」

 店に男が駆け込んで来た。
 また強盗かと思ったが、後に続く人影はない。

「どうしたんだ」
「神様、スライム様。助けて下さい」
「それだけじゃ何も分からん」
「店を追い出されそうなんです」
「店? 何の店だ?」
「定食屋です」
「料理は専門外だな。見ての通りスライムだから、人間と同じ味覚は備えていない」

「味を、味を盗まないといけないんです」
「料理で課題でも出されたか」
「その通りです。大将の他に三人の料理人が居るのですが、大将の味を再現した者以外は首にすると」
「精進するしかないな」
「そんな、最後の希望だったのに。修行を怠っていた私にも非はあります。しかし、私が大将の元に弟子入りして一番日が浅い」
「条件が一番厳しいと泣き言を言いたいのか」
「違います。打てる手は全て打ってから諦めたい」
「そうか俺が最後の手という訳か。よし考えてみよう」

 味を盗む魔法ね。
 塩の抽出はやったから、味の抽出ができるかもな。
 そのためには錬金術関連の魔法から味の魔法語を突き止めないと。

「ライラスさーん、錬金術関連の魔法。大盛りで」
「はい、はい。錬金術関連ですね」

 関連の魔法を全て見て、味の魔法語『taste』に対応する『カチトカイ』をつきとめた。
 ここまで分かれば簡単だ。
 イメージを組む。

char taste; /*味1立方センチ*/
char main(void)
{
 return(taste); /*味を返す*/
}

 名付けて舌魔法だ。

「今から表示する魔法をメモしておけよ」

 『ソクチス・カチトカイレ・ソクチス・モチニミゆヒラニシよ・が・スイカナスミゆカチトカイよレ・む』と文字を出した。
 この短さなら料理人でも覚えられるだろう。
 魔力コストも11だ。
 魔力100だとしても九回は唱えられる。

「ありがとうございます。ところでこの魔法はどんな良い事があるのですか」
「この魔法の利点は体調や前に食べた物に左右されない。そして食わなくて味が盗める」
「食わなくてもいいのは助かります。客に料理を持って行く時に味をこっそり盗めます」
「頑張れよ。魔法で味の感覚はつかめるが、料理をその味に近づけるのはこれからの努力だからな」
「はい」

 俺も良い魔法が手に入った。
 魔道具にすれば主婦層に受けそうだ。
 Fランク魔石で作成可能なところも良い。
 それにゴーレムでも擬似的に料理を味わえる。

「ホムンさん。見せた錬金魔法関連の代金は給料から引いておきます」

 ライラスに呆れたような目でそう言われた。

「分かったよ。世知辛いな、もう」
「生活がかかっておりますので」
「損した分は魔道具を作れば黒字になるだろう」

 さて次の客はどんなかな。

「あらぁ、かわいい店員さんねぇ」

 次の客はみるからに水商売風のお姉さんだった。

「いらっしゃい。ご注文をどうぞ」
「仕事が夜なのよねぇ。昼間、明るいとどうしても寝れなくてぇ」

 うーん、闇魔法か。
 光の魔法語は分かっている。
 けど、光を消したところで外から光はどんどん入ってくる。
 この方法じゃ駄目だな。
 壁を作るのでは窒息してしまう。
 それに魔力が沢山ないと、大きな壁は出せない。
 さて困ったぞ。

「ライラスさーん。闇魔法いっちょう」
「困りますね。ない魔法を言われても」

 奥から困惑した表情で現れてライラスは言った。

「じゃあ睡眠魔法なんてのはあるか」
「それも、ありませんね」
「ここは俺がなんとかしよう」
「そうですか。あまり禁忌に踏み込まないように」

 そう言ってライラスは奥に引っ込んだ。
 うーん、幻影の壁なら光を遮断できるかな。

void main(void)
{
 MAGIC *mp[5]; /*魔法の定義*/
 int i;
 for(i=0;i<5;i++){
  mp[i]=obj_make(500,IMAGEWALL,HOLOGRAPHY); /*壁のホログラフィを作る*/
  magic_spread(mp[i],10.0); /*二十倍に薄く伸ばす*/
 }
 while(1){
  time_wait(1);
 }
}

 こんなのでどうだ。
 床を抜いた四方を幻の壁で覆う。
 上手くいくはずだ。

 魔法語に翻訳して空中に表示した。

「ではやって見ますぅ。
ヒラニシ・モチニミゆヒラニシよ・が・
モチキニソ・けモセガエムレ・
ニミカ・ニレ・
ハラスゆニほワレニねエレニれれよが・
モセガニムほラコマろモチノイゆエワワネニモチキイテチリリネクラリラキスチセクンよレ・
モチキニソろトセスイチシゆモセガニムネヌワルワよレ・む・
テクニリイゆヌよが・
カニモイろテチニカゆヌよレ・む・む」

 幻の壁が現れ彼女を覆った。
 しばらくして魔法が解ける。

「いいですねぇ。私の店に来たらサービスすると店長に伝えといてねぇ。かわいいスライムさんっ」

 そう言うと彼女はお金と名刺を置いて去って行った。
 暗闇魔法に使い道はあるのかな。
 せっかく作ったんだ。
 何か役立てたい。
 追尾性能を持たせば嫌がらせにはなる。
 でもそれだけだ。
 相手は多分こちらに向かって駆けて来るはずだ。
 巻き込めば条件は一緒だ。
 特に魔獣は鼻が良いのが多い。
 暗闇にしたところで高が知れている。

 遮光カーテン代わりがいい所だな。

「お疲れ様」

 ライラスが来て言った。

「お疲れ。今日はだいぶ早いけどもう終わり」
「さっき伝言が来て、店員の確保が出来たそうです」
「お役御免って訳ね」
「言っておきたい事が。魔法を作り出すのは程々にしておいた方がよろしいかと」
「異端だと言われそうか」
「それは大丈夫でしょうけど。知識を狙う輩が襲ってくるかも知れません」
「気をつけておくよ。短い間だったが楽しかったぜ」

 ティをゴーレムに収納すると、俺は豆腐ハウスに帰る事にした。
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