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第7章 襲撃から始まる暗躍生活
第39話 小さい間者
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店に行くと、ガリガリの聖騎士が居た。
戦闘の役には立たなそうだ。
非戦闘員で襲撃を逃れた口だろうか。
「昨日、食品を納入したそうだな」
「はい、何か」
いつでも腰のポーション瓶に入った扇子を解き放てるように位置を確認した。
「変わった事がなかったか」
「いいえ、特段」
「ご主人は農家の出か」
「ええ、よくお分かりで」
「手の皺に染みこんだ土の痕がある。それに武術の心得はなさそうだ」
「なるほど」
「農家の出にはみな聞いているのだが、身体を溶かす虫の事を聞いた事がないか」
「ありません」
「襲撃には身体を溶かす虫が使われたと思われる」
「なるほど、そんな事が」
「ルーペでも見えない大きさではないかと推測した」
するどい所を突くなこの人。
「なに分、農家上がりなもので。物を知りません」
「私はイントス。あなたの名前は」
「サクタです」
「時に主人。貧者の楽音この言葉に聞き覚えは」
「あります。なんでもエリクサー並の治癒効果があるとか」
「あれは、見た者の話ではマンドラゴラの根から作られている。この店でもマンドラゴラは扱っているよな」
「はい、辺境ならどこにでもあるマンドラゴラ漬けです。それが何か」
「生きたまま抜く方法に心当たりはないか」
「家畜に引っ張らせるというのは聞いた事があります」
「どこでだ」
「薬が用意出来なかった農夫が苦肉の策でやったとどこかで聞きました」
「ほほう、中々物知りだな」
「農民の知恵という奴です。エリクサーなど農民には手に入りません」
「そうか。邪魔したな」
なんか、やたら鋭そうな人だったな。
また来そうな予感がする。
当分、配達は人を頼むか。
しょうがない。
困った時のボルチックさん頼りだ。
人を手配してもらおう。
間者が欲しい。
ゴーストが最適なのだが、ゴーストは特有の気配がある。
なので、勘の鋭い人だと気づいてしまう。
「なあ、兄ちゃん。炊き出しはしないのか」
スラムの子が店に入ってきた。
スラムって噂が入るのが早いよな。
何か秘密があるのか。
「情報を喋ったら銀貨一枚やるぞ」
「なに、何でも喋る」
「他人の秘密を知りたい時はどうすれば良い」
「なんだそんな事か。銀貨一枚先払いだ」
「おう」
俺が銀貨を渡すとスラムの子は散々眺めた後に喋り出した。
「あのね、下働きの人間はどこにも居るんだ。それでね、口が軽くなる瞬間があるんだよ」
なるほど。
「具体的には」
「洗濯婦がお勧めだね。水場の仕事は辛いから、井戸の周りでは情報を仕入れ放題だ」
「金貨一枚やるから噂を集めてくれないか」
「兄ちゃん無用心だな。金貨なんか貰ったら、俺は姿をくらますよ」
「その時は炊き出しは二度とないと思え」
「ずるいぞ兄ちゃん」
「ふん、胃袋を掴んだ者は強いんだ。覚えとけ」
「分かったよ」
「俺はサクタだ。お前は?」
「バートだよ」
「よろしくな」
納品はボルチックさんの店の人に任せ、一週間ほど漬物生産に汗を流した。
今日は久しぶりに街に行きスラムの子と会う予定だ。
店で待っているとバートが入って来た。
「約束通りだな。感心した」
「ボルチック商店が兄ちゃんの金で炊き出しをやっているって聞いたよ」
「俺は約束を守る男だ」
「何を喋れば良い」
「聖騎士はどれぐらい集まった」
「うん、五百人ぐらい」
「輝職同盟の動きはないか」
「物騒な人が呼ばれたみたい。賞金稼ぎっていうの、そういうたぐいの人らしいぜ。スラム全体がピリピリしてるよ。脛に傷を持つ奴は多いからさ」
「気になった噂はないか」
「ジェノサイドの正体が虫使いって噂でスラムは持ちきりさ」
「他には」
「スラムから消えた奴らはどこに行ったのか。聖騎士が嗅ぎまわっている」
「ふーん」
「鑑定士が全員死んだらしいよ」
「なんだって。なぜ」
「襲撃があった夜、聖騎士の宿舎に一緒にいたみたい。なんでも狙われる恐れがあるから聖騎士が護衛してたとか」
これは朗報だ。
これで堂々と街で活動できる。
「補充はくるのか」
「鑑定士がビビって誰も来ないみたい。差別職の人間が喝采してる」
おお、ものすごい好都合だ。
この隙に領主をなんとかしたい。
城に攻め入らずになんとかしたいな。
宝石瓜の漬物を献上するのはどうだろう。
殺すのはそれでなんとかなるが、人知れずヴァンパイアにするのは難しい。
二人っきりで会うには趣味だな。
人間、隠れた趣味や性癖は持っているものだ。
宝石瓜を献上するさい、それで取り入るか。
「領主の隠した趣味や性癖が知りたい。特別な贈り物がしたいからな」
「城にも洗濯婦はいるから、時間を貰えれば簡単だと思うぜ」
「頼んだよ。領主の役に立つ情報を集めたら金貨十枚を追加で払ってやるよ」
「えっ、本当」
「俺、配下の子供達を総動員するよ」
「絶対に気取られるなよ」
「大丈夫だよ。子供達は洗濯の手伝いをして、駄賃を貰うのが日常だから」
いつ裏切られるか分からないが、良い手駒が手に入った。
問題は輝職同盟だな。
手強いのじゃなければ良いが。
戦闘の役には立たなそうだ。
非戦闘員で襲撃を逃れた口だろうか。
「昨日、食品を納入したそうだな」
「はい、何か」
いつでも腰のポーション瓶に入った扇子を解き放てるように位置を確認した。
「変わった事がなかったか」
「いいえ、特段」
「ご主人は農家の出か」
「ええ、よくお分かりで」
「手の皺に染みこんだ土の痕がある。それに武術の心得はなさそうだ」
「なるほど」
「農家の出にはみな聞いているのだが、身体を溶かす虫の事を聞いた事がないか」
「ありません」
「襲撃には身体を溶かす虫が使われたと思われる」
「なるほど、そんな事が」
「ルーペでも見えない大きさではないかと推測した」
するどい所を突くなこの人。
「なに分、農家上がりなもので。物を知りません」
「私はイントス。あなたの名前は」
「サクタです」
「時に主人。貧者の楽音この言葉に聞き覚えは」
「あります。なんでもエリクサー並の治癒効果があるとか」
「あれは、見た者の話ではマンドラゴラの根から作られている。この店でもマンドラゴラは扱っているよな」
「はい、辺境ならどこにでもあるマンドラゴラ漬けです。それが何か」
「生きたまま抜く方法に心当たりはないか」
「家畜に引っ張らせるというのは聞いた事があります」
「どこでだ」
「薬が用意出来なかった農夫が苦肉の策でやったとどこかで聞きました」
「ほほう、中々物知りだな」
「農民の知恵という奴です。エリクサーなど農民には手に入りません」
「そうか。邪魔したな」
なんか、やたら鋭そうな人だったな。
また来そうな予感がする。
当分、配達は人を頼むか。
しょうがない。
困った時のボルチックさん頼りだ。
人を手配してもらおう。
間者が欲しい。
ゴーストが最適なのだが、ゴーストは特有の気配がある。
なので、勘の鋭い人だと気づいてしまう。
「なあ、兄ちゃん。炊き出しはしないのか」
スラムの子が店に入ってきた。
スラムって噂が入るのが早いよな。
何か秘密があるのか。
「情報を喋ったら銀貨一枚やるぞ」
「なに、何でも喋る」
「他人の秘密を知りたい時はどうすれば良い」
「なんだそんな事か。銀貨一枚先払いだ」
「おう」
俺が銀貨を渡すとスラムの子は散々眺めた後に喋り出した。
「あのね、下働きの人間はどこにも居るんだ。それでね、口が軽くなる瞬間があるんだよ」
なるほど。
「具体的には」
「洗濯婦がお勧めだね。水場の仕事は辛いから、井戸の周りでは情報を仕入れ放題だ」
「金貨一枚やるから噂を集めてくれないか」
「兄ちゃん無用心だな。金貨なんか貰ったら、俺は姿をくらますよ」
「その時は炊き出しは二度とないと思え」
「ずるいぞ兄ちゃん」
「ふん、胃袋を掴んだ者は強いんだ。覚えとけ」
「分かったよ」
「俺はサクタだ。お前は?」
「バートだよ」
「よろしくな」
納品はボルチックさんの店の人に任せ、一週間ほど漬物生産に汗を流した。
今日は久しぶりに街に行きスラムの子と会う予定だ。
店で待っているとバートが入って来た。
「約束通りだな。感心した」
「ボルチック商店が兄ちゃんの金で炊き出しをやっているって聞いたよ」
「俺は約束を守る男だ」
「何を喋れば良い」
「聖騎士はどれぐらい集まった」
「うん、五百人ぐらい」
「輝職同盟の動きはないか」
「物騒な人が呼ばれたみたい。賞金稼ぎっていうの、そういうたぐいの人らしいぜ。スラム全体がピリピリしてるよ。脛に傷を持つ奴は多いからさ」
「気になった噂はないか」
「ジェノサイドの正体が虫使いって噂でスラムは持ちきりさ」
「他には」
「スラムから消えた奴らはどこに行ったのか。聖騎士が嗅ぎまわっている」
「ふーん」
「鑑定士が全員死んだらしいよ」
「なんだって。なぜ」
「襲撃があった夜、聖騎士の宿舎に一緒にいたみたい。なんでも狙われる恐れがあるから聖騎士が護衛してたとか」
これは朗報だ。
これで堂々と街で活動できる。
「補充はくるのか」
「鑑定士がビビって誰も来ないみたい。差別職の人間が喝采してる」
おお、ものすごい好都合だ。
この隙に領主をなんとかしたい。
城に攻め入らずになんとかしたいな。
宝石瓜の漬物を献上するのはどうだろう。
殺すのはそれでなんとかなるが、人知れずヴァンパイアにするのは難しい。
二人っきりで会うには趣味だな。
人間、隠れた趣味や性癖は持っているものだ。
宝石瓜を献上するさい、それで取り入るか。
「領主の隠した趣味や性癖が知りたい。特別な贈り物がしたいからな」
「城にも洗濯婦はいるから、時間を貰えれば簡単だと思うぜ」
「頼んだよ。領主の役に立つ情報を集めたら金貨十枚を追加で払ってやるよ」
「えっ、本当」
「俺、配下の子供達を総動員するよ」
「絶対に気取られるなよ」
「大丈夫だよ。子供達は洗濯の手伝いをして、駄賃を貰うのが日常だから」
いつ裏切られるか分からないが、良い手駒が手に入った。
問題は輝職同盟だな。
手強いのじゃなければ良いが。
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