闘牛とサラブレッド

阿愛

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第3話 Ramen Westan

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群雄割拠の大陸情勢
昨日の敵が今日の友
生きるか死ぬかの戦場に
狂い咲くのは薔薇の花

大陸戦線異状あり!龍一は、昭雄は、奇策に次ぐ奇策で切り抜けられるのか?


 二人の連隊は非公式の懲罰のような形で大陸の前線へ送られた。辺鄙なところで、娯楽と言えば酒場と女郎屋と本国から届く手紙だけであった、

 龍一の小隊は到着早々に更に奥地の村へと派遣された。近隣の軍閥がスパイと軍資金を隠しているという話であった。

「あの連公(連隊長)め。何が褒めてやりたいだ」

 トラックの荷台で龍一の煙草に火をつけた昭雄は、自分も煙草をくわえて龍一から火を貰って火をつけた。水滸伝にでも出てきそうな中国の田舎道は道が悪く、トラックはひどく揺れて砂ぼこりが舞った。

「個人的にはと言ってたろ。だから連隊長殿はトラックと重機関銃分隊を付けてくれたんだ」

 小隊は四台のトラックに分乗し、先頭を行く龍一達のトラックには十人の重機関銃分隊と巨大な重機関銃(注1)が同乗していた。

「こんなのが乗ってたら敵に狙い撃ちを食らいやしませんかね」

「こら、渡世人なら助っ人にそんなことを言うな」

「そんなら渡世人として言いますが、助っ人に手柄を立てさせるのは後の面倒の元ですよ(注2)」

 機関銃分隊の分隊長は昭雄の失礼な物言いに怒ろうとしたが、龍一の言葉でヤクザだとわかって引っ込めた。それに、先頭になれば機関銃が狙い撃ちにされるのは事実であった。

「総員警戒!」

 もう村が見えたというところで、龍一の言葉を合図に兵隊達は銃に弾を込めた。しかし、成績優秀は兵隊が弾を銃に込めるより先に、車列の三番目と四番目のトラックの間で爆発が起きた。爆弾が仕掛けられていたのだ。

 四番目のトラックは危うく横転しそうになりながら道を左に逸れて止まり、爆発を合図に道の両脇の窪みに隠れていた敵兵が飛び出した。

「四番車を援護しろ。体勢を立て直して村まで突っ込むぞ!」

 龍一のその合図を待ってましたとばかり重機関銃は左を向いて派手な音とともに弾をばらまいた。成程頼もしい助っ人であったが、飛んでくる弾の数も明らかに他のトラックより多かった。

 日本側の数倍の敵兵がトラックに殺到した。装備も士気も日本軍の方が上ではあったが、どこへ行っても人数は常に負けていた。

 何人かの犠牲者を出しながらどうにかトラックは隊列を立て直し、全速力で村へと走り出した。

「畜生!西部劇じゃねえぞ」

 機関銃分隊に弾を運ぶのを手伝いながら悪態をつく昭雄だったが、何年ぶりかの大喧嘩に興奮を覚えているのに気付いた。

「騎兵隊は来てくれねえぞ」

 龍一はどうにかトラックにとりついた敵兵を小銃の銃床で突き飛ばし、大慌てで運転手に指示をしてトラックを走らせた。村に入るとそこはもぬけの殻で、人っ子一人いない。

「向こうに見透かされたな」

 龍一は暗澹とした気持ちになりながら追ってくる敵を迎え撃つ支度を整えた。五分と待たずに敵は村に追いつき、籠城戦の様相になった。本隊に連絡する術はない。

「こりゃあ大陸の情勢が好転しねえわけだ」

 昭雄は指揮所代わりの二階建ての居酒屋で衛生兵と一緒に負傷者の手当てにあたった。面倒を見てやった初年兵が右足に弾を食らって運ばれてきたので、昭雄は自分の煙草を一本くわえさせて火をつけてやった。

「趙小隊長殿!機銃の弾が残り僅かとのことです」

 伝令がひきつった顔で悪い知らせを持って来た。もう村に立てこもって三時間になろうとしていたが、敵は増えるばかりで一向に状況は良くならない。機銃の弾が尽きれば敵に肉薄され、村に火でも放たれたら一巻の終わりだ。

 大陸の大地が赤く染まり、間もなく日没という時、敵の射撃が不意に止まった。

「白旗を持った将校が来ます!」

 知らせに龍一が慌てて窓から覗くと、ありあわせの棒きれに白い布を結んだ白旗を持った若い将校が単身向かってくるのが見える。

「総員撃つな!あれは軍使だ」

 指揮所の居酒屋に将校は通され、龍一が昭雄を伴って応対した。

「日本陸軍中尉、趙龍一だ」

 龍一は父親から教わった台湾語で口火を切った。

「台湾人か?」

 一応同じ中国語とは言え、満州の田舎で台湾語が通じるか心配であったが、龍一よりいくらか若い将校にはどうにか通じたらしい。

「呉海月だ」

「用件を聞こうか?」

「貴君に降伏を勧めに来た」

「降伏?」

「このまま戦っても貴君らが全滅するのは時間の問題だ。悪いようにはしないから、ここらで諦めたまえ」

 呉と名乗った教養深そうなこの将校は、この大胆な申し出を眉一つ動かさずに告げると、懐から降伏の書簡を取り出して龍一に見せた。

「断る。我々にはまだ弾がある。降伏はしない」

 昭雄には二人が何を言っているのかわからなかったが、何かただならぬ交渉をしているのはわかった。そして、この将校が油断ならない事もヤクザの経験から何となく察することができた。

「我々は国際法に従って貴君らを処遇するつもりだ。悪いことは言わないから応じたまえ」

「いいや。日本軍に降伏はない」

「そうか、それは残念だ。では、こういうことならどうかな?」

 呉は再び懐をまさぐり、手を出そうとしたその瞬間、昭雄はテーブルの向こう側から呉に飛び掛かった。呉の懐に入れた手には手榴弾が握られていた。

「ふてえ野郎だ、何が軍使だ」

 昭雄は手榴弾を窓から外へ投げ捨てると、空いた左手で呉の腹を殴りつけた。感触がおかしい。騒ぎを聞いて駆けつけた兵隊が呉の軍服を脱がすと、呉の胴体にはぎっしりダイナマイトが巻きつけられていた。

「ぶっ殺してやる!」

「よさんか!」

 取り押さえられた呉に銃剣を突き付けた昭雄を龍一は制した。

「こうなればこいつは軍使じゃない。それなりの使い道がある」

 龍一は呉の身体からダイナマイトを引き剥がし、ひとしきり身体を検査して他に武器がないのを確認すると、再び軍服を着せて縄で縛った。

 呉が日本軍を降伏させて戻ってくるか、あるいは日本軍を道連れに自爆するかとかたずをのんで見守っていた地元の軍閥の幹部たちは、翌朝の日の出と同時に村を出たトラックに度肝を抜かれた。

 呉は先頭のトラックに3メートルほどの竹竿に縛られて高々と掲げられて出てきたのだ。同情した兵隊の銃口は呉の方を向いている。

「いよいよ西部劇だな」

 昭雄は龍一の大胆な作戦に少し満足気であった。

「全速力で行け!あいつらが呆気に取られてる間にずらかるぞ」

 龍一の目論見通り、敵がどうするか悩んでいるうちに小隊は逃げ帰ることに成功した。

 数日後、呉は龍一から取り調べを受けた。既にあちこちを酷く殴られているが、呉の目には殺気が宿っていた。

「殺せ。生かしておくと何が起こるかわからんぞ」

 椅子に縛られた呉は、龍一と昭雄を睨みつけた。

「上から話は聞いた。君はかの呉角月の末息子というじゃないか」

 呉角月はこの一帯を支配する軍閥(注3)の首領だ。

「俺には父親はいない。用なしだ。殺せ!」

 呉はあからさまに取り乱し始めた。

「こっちは用があるようだがな」

 龍一は意地悪く笑うと、呉の無防備な股間を掴んだ。こっちはすっかり臨戦態勢だった。

「縛られてこんなにするとは、父上から覚えが悪いわけだ」

 事前に言い含められた昭雄は、呉を椅子からほどくと軍服を無理矢理脱がせ、裸にして後ろ手に呉を縛り直した。

「小隊長殿、こんな弱虫は放っておいて俺たちだけで楽しみましょうよ」

 昭雄は下手糞な中国語でそう言うと、おもむろに龍一にキスをして、ズボンを脱いだ。昭雄の太い肉棒が呉の前で震えた。

「楽しませてくれよ」

 龍一は服を脱ぐと、呉の方に目配せした。怒りと羨望が混じった複雑な表情をしているのがありありとわかった。

「早く!」

 昭雄がせかすと、龍一はさも嬉しそうに昭雄の肉棒を口に含んだ。

「これも士官学校仕込み?女より凄え」

 昭雄は龍一の巧みな口技にたまらず声を上げた。龍一は昭雄の弱点をここぞと責め立て、昭雄を悦ばせた。

「もう我慢できねえ」

 昭雄はその場で龍一を押し倒すと、丁寧に龍一の軍服を脱がせてそのまま正常位で龍一に挿入した。

「いいぞ、いつもより元気だ!」

 龍一はあられもない声であえぎながらも呉の様子を観察するのを忘れない。呉の小ぶりな肉棒は限界まで膨らみ、その先端からは興奮の証が漏れていた。

「そら、まずは一発!」

 昭雄は見せつけるように仰々しい動きで腰を使い、そのまま激しく射精した。いつになく量が多かった。

「羨ましいか?」

 龍一は床に転がった呉をまたいで仁王立ちになった。秘穴から昭雄の精液が漏れ出て、呉の肉棒に垂れた。

「お前は男が好きだから父親に嫌われ、父親を見返そうとしてあんな危ない仕事を引き受けた。そうだろう?」

「…お前なんかに何がわかる」

「素直になれ。そんなわからずやの父親に義理立てして死ぬこともないだろう」

「父を悪く言うな!」

 呉の目には涙が浮かんでいた。この男もそれなりの苦労をしてきたのだろうと思うと、龍一は少し哀れに感じられた。

「どうだ、君は我が軍の必要としてる情報を色々持っているだろう。この際吐いてしまって日本で暮らさんか?」

 龍一は腰を下ろし、秘穴を呉の肉棒に宛がった。

「男色は日本ではサムライの嗜みだ。黙ってよろしくやっている分には誰も文句を言わん。名前を変えて新しい人生をやり直せるぞ」

 龍一は一気に呉の肉棒を秘密穴に押し込んだ。その瞬間呉は射精した。

「なんだ、まさか童貞か?」

 呉は顔を真っ赤にして目を背けた。図星だったのだろう。

「取引に応じれば金も男も好きなだけ日本国がくれるぞ。お前の好みの男が思うままだ」

 一度は龍一の中で柔らかくなった呉の肉棒が固さを取り戻すのを感じた。

「どんなに体を張ったところで、お前の父親がこんなことをしれくれるか?」

 龍一はゆっくりと、しかし確実に責め立てるように腰を使った。締め付けては緩め、弱い部分を擦り上げると、呉はたまらず自分から腰を使い始めた。その反応を見て龍一は呉を縛っていた縄をほどいた。

「素直になれ」

 その言葉を合図に呉は龍一を押し倒し、思うさま龍一を貪り始めた。

「取引に応じる。日本に行くぞ!」

「そうか。日本は楽しいぞ」

 呉はたちまちのうちに射精し、そのまま三度目に入った。呉は我を忘れて思い焦がれた男とのセックスに耽り、精液と父の軍閥を壊滅させるに十分な情報を洗いざらいぶちまけた。

「乾杯!」

 手柄の褒美として二人は外泊が許され、連隊の本部のある街の酒場で何度目かもわからない乾杯をした。将校でもおいそれとは入れない高級な店だが、今日の払いは連隊の経費である。一仕事を終えて飲むタダ酒は美味かった。

「これで来月にはこの界隈は完全に我が軍のものだ」

「感状モノだって連公言ってましたね」

 昭雄は龍一の煙草に火をつけた。今日はいつもの安い軍用煙草でなく、連隊長からもらった西洋煙草だ。料理屋の二階座敷に芳醇な香りの煙が充満した。

「俺は一足早く大尉に昇進だ」

「けど尻で言い包めたなんて連公もまさか思わねえねでしょうね」

「そうとも。尻で出世となれば森蘭丸以来の快挙だ」

 二人は酒が回っているものだから、こんな下らないことで大声で笑った。

「しかし兄貴、なんであいつが"お仲間"だって分かったんです?」

「俺くらいになると勘で分かるんだよ。お前だって筋者の器量は一目見たら見当がつくだろ?」

「まあそうですね。けど兄貴、俺分からねえ」

 昭雄は豪華な椅子から立ち上がり、龍一の後ろに回って龍一の両肩を掴んだ。

「ん?何だ?」

「信長公を差し置いて敵と寝る蘭丸は居ねえでしょう」

 そう言い終わるより先に昭雄は龍一の椅子を引っ張り倒し、龍一を床に押し倒した。

「妬いてるのかよ?」

 乱暴に龍一の軍服を脱がせる昭雄には龍一の声は届かないようだった。

 昭雄は何処に隠し持っていたのか荒縄を取り出し、龍一を足となく手となく複雑に縛り上げた。これにはさすがに龍一も慌てた。

「よせよ。何する気だ」

「女には何度かやったけど、男にやっても結構良いもんだな」

 昭雄は舌なめずりをして自分も服を脱いだ。肉棒は昼間よりも一層元気に見えた。

「痛いじゃねえか」

 龍一は一応縛られてはみたものの、こんな技術を昭雄は持っているとは思わなかったので興奮よりも先に驚いた。簡単だが実によく縛られていて、もがけばもがくほど締まるようだった。

「たまにはこんなのもいいでしょう」

 昭雄は龍一の口から落ちた煙草を拾い上げると、一息に半分ほども吸って灰皿に捨て、床に転がった龍一を縄を掴んで引っ張り上げると、龍一の口に肉棒を乱暴に押し込んだ。

「ほら、もっと舌を使ってくださいよ。昼間より元気がないじゃないですか」

 昭雄はまるで龍一を道具のように扱い、自らの快楽だけを求めて龍一に肉棒を突き立てた。龍一は腹の中では怒ったが、これではどうにもならない。

「そら、飲め!」

 昭雄はわざと目一杯龍一の喉の奥まで目一杯肉棒を押し込んで射精した。肉棒を抜き取ると、龍一は口から精液をこぼしながら激しくせき込んだ。

「やってくれるじゃねえか」

 龍一は凄んではみたが、昭雄は反省した様子はない。

「あんな甘ったれのボンボンより、俺の方がいいでしょ?」

 昭雄は龍一にのしかかると、うつぶせになった龍一の尻に未だ元気な肉棒を押し入れた。自分の物とも呉のものともつかぬ精液の感触が残っていた。

「まだあいつの臭いがしやがる」

 昭雄は乱暴に、わざと龍一が痛がるように責めた。すると不思議なもので、龍一は一層昭雄を締め付けた。

「この、男のやきもちはみっともないぞ…」

「下の口はそうは言っちゃいないようですがね」

「だってお前、あいつのとはえらい違いで…」

「そうでしょう。男は安売りしちゃいけませんや」

「ほどいたら覚えてろよ、ああ、そこもっと…」

 今日は消灯時間に悩まされることもない。呉の匂いが消えるまで、二人はいつまでも快感に狂い続けるのだった。



注1:重機関銃 機関銃には重機関銃と軽機関銃があり、兵士が一人で携行して扱う事を想定したものが軽機関銃で、一定の場所に据え置いて運用するより大型のものを重機関銃と呼ぶ

注2:助っ人 ヤクザの喧嘩で助っ人に手柄を立てられると、勝った後の恩賞を巡る問題が生じて面倒になる

注3:軍閥 当時の中国は山賊ともヤクザともつかない武装組織が群雄割拠しており、ある種の戦国時代であった
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