子爵令嬢は高貴な大型犬に護られる

颯巳遊

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17.置いてけぼり

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「分かった…二人の時だけはカインって呼ぶ」
そんなありきたりな回答しか出てこなくて自分の脳みそが嫌になる。
カインを笑顔にしてあげたいけど、私を匿っただけでなくこんな馴れ馴れしい態度を他の誰かに見られたらカインの評判にも関わる。
私は所詮子爵家の令嬢だ。
どんなに頑張っても王子、しかも王太子であって未来の王に懸想していいはずもない。
「そうですか。これ以上強要すると怒られますからこの辺にしておきます」
「カインは本当に王子様で、王太子様なの?」
「そうですね。そのような立ち位置に居るのは間違いないですね」
カインの顔が嫌そうに歪められる。
女の子が夢見るお姫様になりたい、みたいな夢を男の子はみないのだろうか?
自分が王子様ならいいのにという夢を持たないのか。
そんな疑問が頭に浮かぶけど、どうしてもその質問は口から出てこなかった。
「この地位に不満や疑問しか持ってませんでした。しかし今回初めて自分が王子で王太子という位置に居たことを喜びました」
私に向ける笑顔は変わらない筈なのに、今までよりもキラキラ感が増した気がする。
私の目の錯覚か。
「王子だとしても王太子でなければルーファスを止めることが出来なかったし、牢にぶちこむ事も容易ではなかったはず。シルヴィアを助け守るように婚約の用意を進める事も出来なかった」
ふぅと一息吐いたカイルはベッドに座り直すと、私の頭を優しく撫で始めた。
「あんなに嫌だったのにたった一つの事が変わっただけでこんなに前向きになれるのなら最初からこうすれば良かった。そのせいでシルヴィアにはとても大変で窮屈な事を強いてしまうのは心苦しいのですが…」
「いえ、助けてもらった上にこんな厚待遇で…感謝しかないよ」
「少し話過ぎましたね。休んで下さい。また明日会いに来ます」
穏やかな空気を纏いながら顔が降りてきて、私の額に優しい口付けが落とされる。
チュッという音が恥ずかしく感じて赤くなる顔を隠すように上掛けを鼻まで引き上げた。
「おやすみなさい。早くいつもの元気な貴女を見たいです」
「おやすみなさい。少しでも早く貴方の心労を減らすように努力します」
顔を隠したまま二人で微笑み合って、部屋を出ていくカインを最後まで目で追った。
心配してくれるカインや家族の為に早く良くなるよう、そのまま静かに目を瞑った。
またカインに会えるのを楽しみにしながら。
それなのに朝になっても、起きあがれるようになっても、出歩けるようになってもカインが私に会いに来ることは無かった。
家族に聞いても忙しいのだと言われ、出歩けても外出制限があるから探せない。
それならと帰宅のお願いをしても家族から濁される始末。
モヤモヤした胸をもて余しながら、毎日ただボーッと生活する日が続いた。
その日もカインの姿は見られず、時間を潰しに図書館に足を運んでいた。
軟禁状態で唯一図書館だけが許された場所。
確かに王城を好き勝手歩いて良いはずもないけれど、毎日のように父の仕事を手伝っていた私にはこの無駄な時間が許せなかった。
カインには会えなかったけれど扉の前に立っていた女性の護衛の人に話をしてカインに図書室への出入りを許可してもらったのだ。
ここなら膨大な本があってこれから父の仕事を手伝う時にでも役に立つ勉強が出来ると思う。
「えー、私が実家に呼ばれてる間に色々有り過ぎだよ!」
少し奥まった場所にある本を眺めて読みたいものを探していた時にそんな声が響いた。
「しっ!そんな大きい声出さないでよ!」
「だって、第一王子のルーファス様が投獄されて、行方が分からなかった第三王子の王太子様が帰還されて…それだけでも驚くのにルーファス様の側室になる筈だったアンダーソン家のご令嬢が王太子殿下の婚約者になって登城するなんて、そんな面白い事を見れなかったのが悔しかったんだもの」
本棚の影に使用人のお仕着せに身を包んだ侍女が二人。
城で働いているということは何処かのご令嬢なのだろう。
そんな二人が楽しそうに目を輝かせて私に気付かずこそこそ話を続ける。
「ルーファス様の事は皆知っているもんだとは思うけど、ついに証拠がでてしまったのね」
「しかも行方知れずの王太子様がその証拠を持って現れたんですって」
「凄く素敵な方だったわ」
「キラキラしていて…一度だけのお手付きでも良いから側に行きたいわ」
「あ、婚約者を連れてきたんでしょう?なんで投獄されたルーファス様の側室候補なんて選んだのかしら」
「噂ではルーファス様の悪行に手を貸していたご令嬢らしいわよ。でもルーファス様の証拠は出てきたけど、そのご令嬢が手を貸していた証拠が見つからなかったとか」
「だから王太子殿下が側で監視しているの?」
「王太子殿下の部屋の隣、王太子妃殿下が入る筈の部屋に入れているそうだから監視なんじゃない。だって忙しいのに監視だなんて側に置かないと大変だもの」
「そうよね。今って隣国の王女様が王太子殿下との婚約を進める為に来ているのよね。そのお相手で忙しいのに監視までしなくちゃいけないなんて辛いものね」
「とても可愛らしい王女様で王太子殿下と並ぶと素晴らしい絵画のようだったわ」
「監視の為とはいえ一介の子爵ごときが王太子妃殿下の部屋を使ってるなんて王女様に知られたら大変じゃない?」
「だから軟禁状態らしいわよ。王女様との会談が全て終了するまでは本人に気付かれずに拘束するって話」
「それはそれで嫌ね。私ならさっさと自供しちゃうわ」
「あの部屋を使わせてもらっているから勘違いでもしているのではない?」
「わぁーそれは恥ずかしい」
クスクス笑う声が遠ざかって行く。
そうか。
そうなんだ。
私はルーファス様との共犯を疑われていてカインは仕方なく王城へ連れてきたのだ。
家族がここから私を出してくれないのも疑いが晴れていない私を連れ帰る事が出来ないから。
部屋から出てはいけないのに図書館の出入りを許可したのは昔馴染みだったから。
全部が繋がってしまった。
そして隣国の王女様が結婚相手という話。
ショックを受けた胸に失恋という傷まで付いてしまった。
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