118 / 192
38.友情
3.将来
しおりを挟む
魚がたくさん釣れた時はバーベキューもする。枯れ枝を拾うのさえ楽しい。今日は全然釣れなかったが、2人はつまらないなんて微塵も思わない。枯れたすすきの林を歩いていく。
名前は知らないけれど、白と黒の小さな鳥がいる。たまに大きな白い鳥もいる。似たような鳥は2人の地元にもいるが、釣りに来た時と見え方が違う。自分達も彼らと同じ自然の一部なんだと思って感動できた。
河原には幾つも階段があって、どこからでも上り下りできる。川に面した家々を見上げて、2人はいつも羨ましい、と思った。いつでも川遊びができるからだ。小栗も寺西も、小学生の時は原始人のような生活を夢見ていた。
長靴でじゃぶじゃぶと進む。場所によっては禁漁区だから、確認しながら針を投げる。初めの頃はたまに怒られた。支流によっては全面禁漁だったし、1本の川で所々禁漁区域が設けられていたからだ。
突然、小栗が声を上げる。
「マジかよ、寺っち、あれ見ろよ」
「マジ? 激ヤバじゃん」
「マムシ注意ってなんだよ、マムシいるのかよ、毒あんじゃねーの?」
2人はげらげら笑った。前からあったのだろうか。釣りに来るようになってから足掛け7年、マムシ注意の看板には今年初めて気が付いた。2人は過去を振り返った。知らずに無警戒で釣りをしていたのかと思うと、怖いやら面白いやらで笑いが止まらない。
特に小栗は、大声で笑っていた。
「寺っち、お前、本当にヤバかっただろ。小学生の時半ズボンにビーチサンダルで釣りしてたんだぞ」
「栗ちーだってそうだろ⁉」
「俺は長ズボンだよ、膝までまくり上げてただけだよ」
「似たようなもんじゃんかよう」
「そうか?」
2人は、今まで生きてカジカを釣ってこられたことを讃えあって、より一層笑った。
寺西が顔をあげると、山のすそ野にお墓が見えた。そばの家のご先祖様だろうか。寺西は、点在するその光景が好きだ。先祖が近くで見守ってくれているように感じるからだ。
左右からせり出した山の枝尾根が何列にも連なっている。杉林が多い。色々なところから伐採するチェーンソーの音が聞こえる。
不意に寺西が言った。
「俺、前々から思ってたんだけど、この匂い杉なんじゃねーの?」
「俺もそう思っていた」
小栗が笑いをこらえて告白し、「いつ言うか迷っていた」と続けた。
実際、杉の香りか檜の香りか、2人共よく分からない。でも時折その香りがふんわりと漂ってくると、2人共何も言わずに大きく鼻で息を吸い込んだ。
絹で撫でるかのような優しいさでありながら、すっきりと爽快な杉とも檜とも知らない香りに導かれてマッタリとした心地良さに浸りながら、小栗が思わず夢を漏らす。
「なあ寺っちぃ、18になったら免許取ろうぜ。前人未到の山奥まで行って釣りしようぜ」
小栗は嬉しそうにそう言った。
それを聞いて心が高揚した寺西は、すぐさま意気投合して、一緒に取ろう、と約束した。
もうすぐ大人になる。大人になったら、今の幸せは失うのだろうか。2人は少し切なくなった。いつまでも2人で遊んでいたかった。
名前は知らないけれど、白と黒の小さな鳥がいる。たまに大きな白い鳥もいる。似たような鳥は2人の地元にもいるが、釣りに来た時と見え方が違う。自分達も彼らと同じ自然の一部なんだと思って感動できた。
河原には幾つも階段があって、どこからでも上り下りできる。川に面した家々を見上げて、2人はいつも羨ましい、と思った。いつでも川遊びができるからだ。小栗も寺西も、小学生の時は原始人のような生活を夢見ていた。
長靴でじゃぶじゃぶと進む。場所によっては禁漁区だから、確認しながら針を投げる。初めの頃はたまに怒られた。支流によっては全面禁漁だったし、1本の川で所々禁漁区域が設けられていたからだ。
突然、小栗が声を上げる。
「マジかよ、寺っち、あれ見ろよ」
「マジ? 激ヤバじゃん」
「マムシ注意ってなんだよ、マムシいるのかよ、毒あんじゃねーの?」
2人はげらげら笑った。前からあったのだろうか。釣りに来るようになってから足掛け7年、マムシ注意の看板には今年初めて気が付いた。2人は過去を振り返った。知らずに無警戒で釣りをしていたのかと思うと、怖いやら面白いやらで笑いが止まらない。
特に小栗は、大声で笑っていた。
「寺っち、お前、本当にヤバかっただろ。小学生の時半ズボンにビーチサンダルで釣りしてたんだぞ」
「栗ちーだってそうだろ⁉」
「俺は長ズボンだよ、膝までまくり上げてただけだよ」
「似たようなもんじゃんかよう」
「そうか?」
2人は、今まで生きてカジカを釣ってこられたことを讃えあって、より一層笑った。
寺西が顔をあげると、山のすそ野にお墓が見えた。そばの家のご先祖様だろうか。寺西は、点在するその光景が好きだ。先祖が近くで見守ってくれているように感じるからだ。
左右からせり出した山の枝尾根が何列にも連なっている。杉林が多い。色々なところから伐採するチェーンソーの音が聞こえる。
不意に寺西が言った。
「俺、前々から思ってたんだけど、この匂い杉なんじゃねーの?」
「俺もそう思っていた」
小栗が笑いをこらえて告白し、「いつ言うか迷っていた」と続けた。
実際、杉の香りか檜の香りか、2人共よく分からない。でも時折その香りがふんわりと漂ってくると、2人共何も言わずに大きく鼻で息を吸い込んだ。
絹で撫でるかのような優しいさでありながら、すっきりと爽快な杉とも檜とも知らない香りに導かれてマッタリとした心地良さに浸りながら、小栗が思わず夢を漏らす。
「なあ寺っちぃ、18になったら免許取ろうぜ。前人未到の山奥まで行って釣りしようぜ」
小栗は嬉しそうにそう言った。
それを聞いて心が高揚した寺西は、すぐさま意気投合して、一緒に取ろう、と約束した。
もうすぐ大人になる。大人になったら、今の幸せは失うのだろうか。2人は少し切なくなった。いつまでも2人で遊んでいたかった。
0
あなたにおすすめの小説
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
すべてはあなたの為だった~狂愛~
矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。
愛しているのは君だけ…。
大切なのも君だけ…。
『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』
※設定はゆるいです。
※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜
矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。
王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。
『…本当にすまない、ジュンリヤ』
『謝らないで、覚悟はできています』
敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。
――たった三年間の別れ…。
三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。
『王妃様、シャンナアンナと申します』
もう私の居場所はなくなっていた…。
※設定はゆるいです。
18年愛
俊凛美流人《とし・りびると》
恋愛
声を失った青年と、かつてその声に恋をしたはずなのに、心をなくしてしまった女性。
18年前、東京駅で出会ったふたりは、いつしかすれ違い、それぞれ別の道を選んだ。
そして時を経て再び交わるその瞬間、止まっていた運命が静かに動き出す。
失われた言葉。思い出せない記憶。
それでも、胸の奥ではずっと──あの声を待ち続けていた。
音楽、記憶、そして“声”をめぐる物語が始まる。
ここに、記憶に埋もれた愛が、もう一度“声”としてよみがえる。
54話で完結しました!
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる