140 / 192
45.チーム里☆加奈
1.木陰の下で
しおりを挟む
村上加奈子のことばかり考えていた。
雲一つない蒼々たる青空。天文学的な距離の向こうから、よく冷めもせずにやって来れるものだと、見えもしない太陽の熱を恨めしそうに私(里美)は見やる。
(何が残暑? 9月ってまだ夏まっただ中じゃないの!)
今年は空梅雨だった。台風もまだ関東には来ていない。そういえば、ここ最近雨を見ていない。日照りで干物になりそう。日焼け止めを塗ってるけど、じりじりと肌が焼ける音がする。
地球温暖化のせいで、東京も砂漠化してしまうのではないかという暑さだ。プール班とマラソン班に分かれての体育の時間。私はプールにすればよかったと後悔しながら、トラックを走っていた。
学年別のマラソン大会(と言ってもただの体育)が近いから、結構多くの生徒がマラソンの自主練をしている。
私達陸上部にとってマラソンは本領だから、誰にも負けるわけにはいかない。男子はサッカー部と野球部がライバル。女子はテニス部とバレー部がライバル。
走るところ敵なし――と言いたいところだけれど、1年の時の男子の1位はサッカー部の岡崎君だった。女子の1位は、私と同じ陸上部の千鶴だったけど、ベスト10内の6人がテニス部とバレー部だったから、罰として先輩達にこっぴどくしごかれた。2年の時も同じようなもの。そして3度目、高校最後のマラソン大会。3年の面子があるから、昨年7位の私は順位を上げるべく、灼熱地獄の中一生懸命走った。
ふと見ると、村上さんが木陰で涼んでいる。渡辺さんは一緒ではないようだ。2人共私と同じクラスだから、陸君のことすぐに話せるって思っていたけど、2人が1人1人の時ってなかなかない。
この間、渡辺さんを捕まえた日以降、別々にいるところに遭遇していなかったから、今がチャンスだ。私はトラックから外れて、のんびり校庭で頑張るみんなを見ている村上さんのところへ行った。
向かってくる私に気が付いた村上さんが、素っ頓狂な声で言った。
「ん? お? 何? 陸上部、もうお疲れなの? そんなんじゃ、今年は私に勝てないぞ?」
「何言ってんの、去年の村上さんって10位以内にも入っていないでしょ?」
「うん、23位か32位だったかな」
「だめじゃん」
「篠原さんは何だったの?」
「私? 私は7位」
「すご‼‼」
前のめりになった村上さんは、目を見開いて私を「凄い凄い」と褒め称えた。
「女子にしておくのはもったいないな。もし男の子になってくれたら、私が付き合ってあげるよ」
「シシシシ」と笑う村上さんがそう言った後、私たちの間に会話が続かない気配が忍び寄った。でも私には話したいことがあったから、無言の陰を追い払う。
雲一つない蒼々たる青空。天文学的な距離の向こうから、よく冷めもせずにやって来れるものだと、見えもしない太陽の熱を恨めしそうに私(里美)は見やる。
(何が残暑? 9月ってまだ夏まっただ中じゃないの!)
今年は空梅雨だった。台風もまだ関東には来ていない。そういえば、ここ最近雨を見ていない。日照りで干物になりそう。日焼け止めを塗ってるけど、じりじりと肌が焼ける音がする。
地球温暖化のせいで、東京も砂漠化してしまうのではないかという暑さだ。プール班とマラソン班に分かれての体育の時間。私はプールにすればよかったと後悔しながら、トラックを走っていた。
学年別のマラソン大会(と言ってもただの体育)が近いから、結構多くの生徒がマラソンの自主練をしている。
私達陸上部にとってマラソンは本領だから、誰にも負けるわけにはいかない。男子はサッカー部と野球部がライバル。女子はテニス部とバレー部がライバル。
走るところ敵なし――と言いたいところだけれど、1年の時の男子の1位はサッカー部の岡崎君だった。女子の1位は、私と同じ陸上部の千鶴だったけど、ベスト10内の6人がテニス部とバレー部だったから、罰として先輩達にこっぴどくしごかれた。2年の時も同じようなもの。そして3度目、高校最後のマラソン大会。3年の面子があるから、昨年7位の私は順位を上げるべく、灼熱地獄の中一生懸命走った。
ふと見ると、村上さんが木陰で涼んでいる。渡辺さんは一緒ではないようだ。2人共私と同じクラスだから、陸君のことすぐに話せるって思っていたけど、2人が1人1人の時ってなかなかない。
この間、渡辺さんを捕まえた日以降、別々にいるところに遭遇していなかったから、今がチャンスだ。私はトラックから外れて、のんびり校庭で頑張るみんなを見ている村上さんのところへ行った。
向かってくる私に気が付いた村上さんが、素っ頓狂な声で言った。
「ん? お? 何? 陸上部、もうお疲れなの? そんなんじゃ、今年は私に勝てないぞ?」
「何言ってんの、去年の村上さんって10位以内にも入っていないでしょ?」
「うん、23位か32位だったかな」
「だめじゃん」
「篠原さんは何だったの?」
「私? 私は7位」
「すご‼‼」
前のめりになった村上さんは、目を見開いて私を「凄い凄い」と褒め称えた。
「女子にしておくのはもったいないな。もし男の子になってくれたら、私が付き合ってあげるよ」
「シシシシ」と笑う村上さんがそう言った後、私たちの間に会話が続かない気配が忍び寄った。でも私には話したいことがあったから、無言の陰を追い払う。
0
あなたにおすすめの小説
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
すべてはあなたの為だった~狂愛~
矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。
愛しているのは君だけ…。
大切なのも君だけ…。
『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』
※設定はゆるいです。
※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜
矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。
王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。
『…本当にすまない、ジュンリヤ』
『謝らないで、覚悟はできています』
敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。
――たった三年間の別れ…。
三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。
『王妃様、シャンナアンナと申します』
もう私の居場所はなくなっていた…。
※設定はゆるいです。
18年愛
俊凛美流人《とし・りびると》
恋愛
声を失った青年と、かつてその声に恋をしたはずなのに、心をなくしてしまった女性。
18年前、東京駅で出会ったふたりは、いつしかすれ違い、それぞれ別の道を選んだ。
そして時を経て再び交わるその瞬間、止まっていた運命が静かに動き出す。
失われた言葉。思い出せない記憶。
それでも、胸の奥ではずっと──あの声を待ち続けていた。
音楽、記憶、そして“声”をめぐる物語が始まる。
ここに、記憶に埋もれた愛が、もう一度“声”としてよみがえる。
54話で完結しました!
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる