蜜吸のスズと白蛇のハル

緒方宗谷

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愛することだけを望む幼い愛  

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 2人は、神話の昔に攻め込んできた悪魔達から、幾度も精霊達を守り抜いた蒼古の巨城を見上げていました。
 スズはツルの上に座って右手を縦に伸びたツルに添え、ハルは根元のトゲの無いところに寄りかかっています。
 今日は、誰1人として見学者は来ません。どうしてなのかとノシバの精に尋ねると、偉い神様が来るから、と教えてくれました。
 「このイバラはどこまで続いていゆのかな?」ふと、スズが呟きました。
 「分からないわ、でも、お城の半分以上に絡まっているのだから、とても遠いでしょうね」
 スズの質問に答えたハルは続けました。
 「沢山生えているようだけど、もとは隅っこに生えている1本みたい。
  1人でこんなに茂るなんて、どんな精霊でしょうね。
  とても格好良くて、強いでしょうね」
 「うふふ、わたしもそう思っていたのやよ。
  しかもわたしを住まわせてくれていゆなんて、きっとわたしの事が好きなのやよ」
 「あら、どうして? わたしの事も住まわせてくれているのよ」
 「違うわ、だって、蜜もくれゆし、実もくれゆのよ」
 「わたしは、フカフカのお花のベッドを貰っているわ。
  毎日新しい花弁だもの」
 2人は譲りません。人生の大半をバラの懐で過ごしているのですから、バラの事が大好きでも不思議ではありません。2人は、姫とバラがとても仲の良いお友達だとも知りませんでした。
 「初めて住まわせてくれたのはわたしよ」スズがムキになります。
 「違うわ、わたしよ」ハルもムキになりました。
 思い返すと、2人同時にイバラに潜って、そのまま住み着いたのですから、どちらが先というわけでもありません。どちらが好かれているかという言い争いは、段々とエスカレートしていき、どちらも引き下がられなくなっていました。
 「もう良いもん、そんなに言うなら、お友達じゃないわ!!」
 スズは、両腕を羽毛交じりの翼に変えて、ピョコピョコ飛んで行ってしまいました。
 「フンだ! 良いもんね!!」
 ハルはスズの背に向かってそう言い放って、プンプンしながらお家に帰っていきます。
 それから2人は、何カ月も会うことはありませんでした。なんと2人は、バラの妖精を探す旅に出ていたのです。
 スズは、両手を翼に変えてイバラの上をふわふわと浮いては、すぐにツルにとまり、またふわふわと浮いて進んでいきます。ハルは下半身だけを蛇に変えて、ニョロニョロと土の上を這って、バラを探しました。
 しかし、とても大きなお城の周りを囲む外庭でしたから、1カ月経っても一周周れません。そればかりか、バラの本性が植わっている端っこから、反対側の端っこにも到達していませんでした。
 ある時スズは考えました。自分の羽や羽毛を使ってプレゼントを作り、ツルに引っ掛けておくのです。そうすれば、バラに気が付いてもらえる、と思ったのです。
 ちょうどその頃、ハルも同じようなことを考えていました。自分のウロコを使ってプレゼントを作ってツルに引っ掛けておけば、お礼にチューしてくれる、と思いました。
 スズはガッツポーズ。
 「ナデナデしてもらうのは、わたしやよ」
 そう意気込んでさっそく羽を抜いて、神気を使ってツルに貼り付けました。精霊位に成れば、羽でペンや筆の持つ部分を作ったり、ドレスを作ったりも出来ますが、スズにはそのままあげるのが精いっぱいです。羽毛もそのままペタペタと貼り付けて回りました。
 土の上では、ハルがウロコを張って回っています。
 ちょうどその頃、中庭にせり出したバルコニーでお茶をしていた姫は、モソモソ背をクネるバラをとても不思議に思いました。
 「どうかしたんですか、バラちゃん?」
 「いえ、何かムズムズして???」
 バラは、姫とお友達だからといって、毎日遊んでいるわけではありません。見回りもしていました。イバラには結界の効果もありますから、ある意味セキュリティーシステムです。
 まだ精霊になれそうでなれないバラですから、戦いで役に立つような防御結界ではありません。実はこの時、スズとハルの存在にも気が付いていませんでした。そして、2人はイバラの傍から離れたことがなかったので、姫も2人の存在に気が付いていません。ですから、スズとハルの2人がバラに好かれているというのは、ただの妄想、早とちりでした。
 スズ達のプレゼント合戦は、1カ月以上も続きました。2人共あげ慣れて来たのか、羽毛を丸めてそれに羽を刺したり、トゲにウロコを突き刺したり、造形深く? なっていって、少し芸術家ぶってきています。ただ、何がしたいのか分かりません。
 花の姫は、どうしてもバラが気になる様子で訊ねます。
 「バラちゃん、大丈夫? 変な虫でもついているんじゃないの?」
 「うーん、まさかそのような事は・・・」
 「・・・お風呂、・・・入っているわよね?」
 「はっ、入っていますよ、失礼な!!」
 一緒にいた爺やが、ちょっかいを出してきました。
 「何か臭いますな、これはもう何カ月も湯浴みをしていないかのような」
 ジトーと疑いの眼差しを向ける姫は、悪戯半分でしたが、バラの慌てふためく様子は、少し怪しいです。
 爺やが一言付け加えました。
 「お前さん、パンツ換えてらんじゃろ」
 「換えてますよ! もう良いです、見回りに行ってきます!!」
 バラは顔を真っ赤にして出ていきました。お家に湯船はありませんが、毎日シャワーを浴びていました。精の頃は朝露を桶に溜めて、毎日入っていましたが、最近お家にシャワーを作ったのです。自らのツルを通して集めた水を浴びられるような工夫が出来るまでに、神気が増しているのでした。
 バラの背を見送ってから、姫が言いました。
 「爺や、あんまりからかうものじゃありませんよ」
 姫はお腹を抱えてケラケラ笑い転げています。言葉に全然説得力がありませんでした。
 「これから、バラちゃんへのあいさつは、お風呂入った? で決まりね」
 姫は一日中笑って過ごしました。
 変な虫が付いたのでは? という姫の言葉に、バラは少し心配になっていました。城は堀と二重の城壁に囲まれていて、不法侵入は出来ません。見学者も入城時に1人1人検査されるので、悪者は入れません。
 ですが、城といっても本当に戦うための兵達に守られた城ではなく、オモチャと化した城です。外面は重々しい砦でしたが、空き室の壁は一面キャンバスと化して、楽しい絵が描いてあるし、長槍は釣竿、戈や戟は竹馬、大きなアックスはバーベキューの時に鉄板の代わりにされてしまっていました。
 今思うと、なんて事をしてきたんだと、バラは心配になりました。当時は2000歳前後ですから、人間でいえば幼稚園児から小学校低学年位なので、楽しい思い出ですが、今となっては、偉い神様に目をつけられるのも仕方がない気がしてきました。いつも2人で遊んでいましたから。今もですが・・・。
 城を一周してふと見下ろすと、何かベージュ色の小さな生き物がいる事に、バラは気が付きました。
 「えーん、えーん、どうしましょうわたし、お空を飛べなくなっちゃったやよぅ」スズが泣いています。
 「わたしも地面をうまく這えないわ」ハルも泣いていました。
 バラが降りていってみると、何と驚いたことに、裸の小さな女の子が2人も地面に落ちているではありませんか。バラは急いで2人のもとに舞い降りました。
 調子に乗って、スズは羽を、ハルはウロコをみんなバラにやってしまったので、つんつるてんになってしまいました。羽もウロコも1枚も残っておらず、2人共丸裸になってしまったのです。
 羽が無いからスズは飛ぶことが出来ずツルから落ち、ウロコが無いからハルはうまく進めなくなってしまいました。巣のある方を見ると、ずっと遠くで全く見えません。ここまで来るのだってとても長い時間がかかりましたから、ヨチヨチ歩きの人の姿では、とても帰れそうもありません。
 2人は途方に暮れてしゃがみこみ、大声で泣いていたのです。
 「どうしたんだい、2人共?」
 その声に空を仰いだ2人の目に舞い込んできたのは、青色のローブを着た男の子の姿でした。まつ毛にかかる程度の髪は赤みを帯び、二重で大きな目をした端整な顔立ち、4000歳位でしょうか、人間でいえば10歳か11歳の、まつ毛が長くて中性的な少年がゆっくりと舞い降りてきます。
 「バラしゃまですか?」スズが訊きました。
 「しゃま? しゃまは知らないけど、僕はこのイバラの主のバラの妖精だよ」
 小さな女の子を慰めようと膝をついて目線の高さを合わせたバラに、2人は「うわーん」と大泣きしながら抱き付きました。
 2人をなだめながら訳を聞いたバラは、呆れるやら面白いやらで、頬を緩めながら背中を撫でてやります。変な虫が付いたのではないかと心配しましたが、付いていたのはひよこと子蛇でした。
 温かいバラの頬に頬ずりしながら、スズが言いました。
 「わたし達、バラしゃまが大好きなのやよ」
 「わたし達、ずっとバラしゃまと一緒にいるわ」
 「良いよ」
 バラは言いました。2人はまだ眷属という言葉を知りません。バラもあえて説明しませんでしたが、2人の淡い初恋を基盤として、主従関係が成立しました。
 普通、契約が成立するのは、お互いに利益がる場合が多いのですが、バラにとって2人は何の役にも立ちません。それでもバラが承諾したのには、訳がありました。
 バラは、姫以外に好きだと言われるのは初めてでした。2人は丸裸で抱き付いて、スリスリしてきます。暖かいもち肌がバラに吸いつきます。つんつるてんなのに、2人はいたがりません。バラのトゲは2人に刺さらなかったのです。
 この時、バラは精霊へと昇華しました。姫にしか向かなかった愛情が、初めて姫以外に向いたのです。バラはこの小さな眷属達を守り育てようと思ったのでした。
 くれた物がなんだか分かりませんが、「プレゼントをくれるのはとても嬉しいけれど、2人が風邪をひいたり迷子になると悲しいな」と伝えました。遠回しにつんつるてんはやり過ぎだよと言ったのです。
 そして、お礼に自らの花弁で作った衣をプレゼントしてあげました。2人は大喜びです。もう、どちらが愛されているかなんて関係ありません。お揃いのピンクのワンピースを着せてもらって、大はしゃぎです。
 2人を巣まで送り届けたバラは、後日イバラに貼り付いた羽毛とウロコを見つけて言いました。
 「・・・? なんだこれ???」
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