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健康弁当1
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最近はネットや電話注文で気軽に手に入る健康弁当が多くあることを、テレビの通販CMで佳代も知っていた。
その中で、よくCMで見る会社3社に、3個ずつを注文してみることにした。千里と2人でパソコン画面を覗き込んで、あれでもないこれでもないとメニューを選んでいた。
千里が目を丸くして言った。
「以外に豊富なのね、しかも安いじゃん」
「あ、これなんかおいしそうだよ、韓国料理っぽい名前。
ヒラメのムニエル?バジルソース?千里の好きそうな料理も多いね」
2人とも瞳をキラキラ輝かせながら、メニュー表に見入っている。ほとんどのお弁当が400円から600円程度である上、和洋中と何でもそろっていた。
高齢者向けということもあり、あまりお腹いっぱいになりそうなお弁当はなかったし、お弁当箱内に隙間が多く、若い2人には物足りなさを感じさせる写真ばかりではあったものの、料理自体は多少豪華に見える。
佳代がたまに行くおにぎり屋さんの小さなお弁当は、コンビニのよりも一回り小さいおにぎりに、きんぴらごぼうなどの惣菜とおしんこがついた簡単なもの、千里は大概ハンバーガーか親子丼しか食べない。
休みの日に2人で食事に出かけるときは、イタリアンとか、おしゃれなレストランが多かったが、普段の生活は案外質素だ。
不意に佳代がため息をつく。
「こんなに可愛い私たちが、この程度の料理に悲鳴を上げるなんてね、社会の過酷さを知りましたよ」
佳代は千里をチラッと見た。
千里は、眉が隠れる程度の前髪と綺麗にそろった長い後ろ髪という髪型をしている。黒をベースとした、少しピンクか紫がかったしっとりした色合い。枝毛もなくサラサラしている。
背は佳代より1㎝低い程度で、佳代よりも細身だ。胸と腰のくびれに佳代は多少の羨望を抱いていた。佳代も多少の自信はあるものの、顔もスタイルも僅差で千里に軍配が上がる。
「佳代、それは言っちゃいけないの」
大学まで出て、大は付かないまでも極小でもない企業に新卒で勤め始めた2人。佳代は転職したが、千里は同じ会社に今でも所属している。なのに、それほど裕福な生活をしているわけではない。
目黒に住んでいるのだから、それなりに家賃は高いし、度々洋服を買ったり会社の仲間と飲み会を開いたりと、結構散財している面もある。
佳代も、転職先は薄給の介護施設。もともと散財する性格ではないが、根本的に実入りが少ない。2人の生活状況は一概に社会のせいではないのだが、給料日前の懐事情から、ビールをあおって社会の愚痴をこぼしたい気分だ。
2人とも暢気なもので、コンビニで買った簡単なおつまみの袋菓子数個に手を付けなくても、パソコンに映るメニュー表を品定めしているだけで十分ビールを飲むことができた。
どの会社もバラエティーに富んでいるし、見た目もだいぶ違う。だがよく見ると、料理自体は会社間でそれほど差異が大きいようには思えない。
「ねえ佳代、この会社のはお子様ランチのようね」
「器が違うからかな、楕円形だからそう見えるのかも」
「佳代も私も気に入っていた会社のは正方形で隙間が多かったけど、これは隙間がないから、さびしい感じがしないわね」
「冷凍だから、コンパクトな方が助かる。
注文個数も最低数があるみたいだし、正直うちの(冷凍庫)じゃ無理だわ」
最初の予定では3個頼もうと考えていた佳代は、1人暮らし用の小さな冷蔵庫を見やって注文を躊躇した。
「いいじゃん、冷蔵で。
死にはしないし」
あえておかずだけのを選んだ。ご飯は家で簡単に炊ける。今はとがなくても炊けるから、あえて外に頼まなくてもいい。栄養バランスを考えると、白米の割合が多すぎるとも思う。
通常のお弁当の他に飲み込む力が弱い人向けの柔らかいお弁当もあったが、自分たちのご飯として食べるのだから、それらは選ばなかった。
土日休日の注文は平日に処理されるため、配達日は早くても火曜日から設定できるようだ。
佳代は17時までの勤務だし、月曜日なら千里は残業にはならないので、どちらが受け取っても良かったが、念のため佳代が受け取ることにし、配達時間は残業となった場合でも受け取れるであろう19時以降でお願いした。
最初に見た正方形のお弁当箱を使用した会社のホームページに戻り、注文フォームを開き、数は10個頼んだ。しかし、冷凍庫には3つか4つしか入らない。2つは、その日の夕食になるため、残り8個の半分を千里に持って帰ってもらうことにした。
佳代の家で3回、千里の家で2回の試食会を開くことにし、それが全部食べ終わったら、今日見た他の会社のも頼む算段というわけだ。
「当分は、豪華な食事にありつけるわ。
月曜日は、ここに泊まっていいでしょう?」
月曜の夕食、火曜日の朝食と夕食にお弁当を食べようというのだ。火曜日の夕食後2人で千里の家に行き、今度は佳代が泊まって水曜日の朝食と夕食に食べようという千里の提案に、佳代は少しためらいを覚えた。
「とけちゃうよ、再冷凍とかしたら味が悪くなるかもしれないし、持って帰る時、液だれしないかな?」
千里は少し考えて、自らが出した提案を引っ込めた。
最終的に、月曜日の夕食を食べたら千里はお弁当の一部を持って帰宅し、火曜日の夕方にもう一度来て夕食を食べて1泊、水曜日に3個目を食べる。そして、佳代は水曜日の夕方に千里の家に行ってお弁当を食べ、1泊した後、朝食に最後のを食べる。
高校からの付き合いだし、社会に出てからも友達関係はずっと続いていたが、2人にとってこのような経験は初めてだった。少しはしゃぎたい気分だ。
好みの問題なのか、2人ともコンビニのお弁当はあまり好きではない。チキンを使ったサラダやパウチのお惣菜はおいしいと思うが、お弁当箱に盛られていないと、食べたいという気持ちがあまり湧かず、手を出すことはない。
もともと簡単な自炊をする佳代にとって、コンビニのお惣菜の量は量と金額が見合わないのだ。
千里にしても普段はジャンクな食生活だから、お惣菜に手を出すこともない。
イタリア料理が好きであったから、以前コンビニのパスタを使ったサラダを試しに食べて、とてもおいしいと佳代にも勧めたことがあった。しかし、普段の食事にお金をかけるなら、飲み会や佳代との食事にとっておいた方が良い、と考えていた。
注文を終えた後は、おつまみを食べながら他愛もないおしゃべりをし、ビールが切れるのを合図に千里は帰って行った。
すでに9時を過ぎていた。ターミナル駅から1駅とはいえ、古くからの住宅街が広がるこの辺りは夜になると大分暗く感じる。街灯があるから、物理的な意味で暗いというわけではないのだが、人通りがとても少なくなるので、心なしか暗く感じるのだ。
佳代の自宅は駅から数分の距離にあるため、酔った千里の独り歩きでも心配する必要はなかったが、それでも佳代は共用廊下に出て、千鳥足で駅へ向かう千里を見送った。
千里の自宅は、目黒駅から大分離れていた。目黒通りと山手通りが交わる交差点を目黒警察署方面に行ったところにあり、徒歩なら1時間近くもかかる。道のりの大半は通り沿いなので安心なのだが、自宅付近の100m程度は通りからそれる。それだけが佳代の気がかりだった。
何かあったらすぐに連絡して、と千里には重ね重ね伝えていたので、彼女が自宅につく時間までは度々スマホを見やる。
帰宅した頃合を見計らい佳代が電話をかけると、ちょうど大通りからそれたところだったので、自宅につくまで会話を続けた。そして、千里が玄関に入ったところで「おやすみ」を言って、電話を切った。
今日も無事に1日が終わってホッとする佳代であった。
その中で、よくCMで見る会社3社に、3個ずつを注文してみることにした。千里と2人でパソコン画面を覗き込んで、あれでもないこれでもないとメニューを選んでいた。
千里が目を丸くして言った。
「以外に豊富なのね、しかも安いじゃん」
「あ、これなんかおいしそうだよ、韓国料理っぽい名前。
ヒラメのムニエル?バジルソース?千里の好きそうな料理も多いね」
2人とも瞳をキラキラ輝かせながら、メニュー表に見入っている。ほとんどのお弁当が400円から600円程度である上、和洋中と何でもそろっていた。
高齢者向けということもあり、あまりお腹いっぱいになりそうなお弁当はなかったし、お弁当箱内に隙間が多く、若い2人には物足りなさを感じさせる写真ばかりではあったものの、料理自体は多少豪華に見える。
佳代がたまに行くおにぎり屋さんの小さなお弁当は、コンビニのよりも一回り小さいおにぎりに、きんぴらごぼうなどの惣菜とおしんこがついた簡単なもの、千里は大概ハンバーガーか親子丼しか食べない。
休みの日に2人で食事に出かけるときは、イタリアンとか、おしゃれなレストランが多かったが、普段の生活は案外質素だ。
不意に佳代がため息をつく。
「こんなに可愛い私たちが、この程度の料理に悲鳴を上げるなんてね、社会の過酷さを知りましたよ」
佳代は千里をチラッと見た。
千里は、眉が隠れる程度の前髪と綺麗にそろった長い後ろ髪という髪型をしている。黒をベースとした、少しピンクか紫がかったしっとりした色合い。枝毛もなくサラサラしている。
背は佳代より1㎝低い程度で、佳代よりも細身だ。胸と腰のくびれに佳代は多少の羨望を抱いていた。佳代も多少の自信はあるものの、顔もスタイルも僅差で千里に軍配が上がる。
「佳代、それは言っちゃいけないの」
大学まで出て、大は付かないまでも極小でもない企業に新卒で勤め始めた2人。佳代は転職したが、千里は同じ会社に今でも所属している。なのに、それほど裕福な生活をしているわけではない。
目黒に住んでいるのだから、それなりに家賃は高いし、度々洋服を買ったり会社の仲間と飲み会を開いたりと、結構散財している面もある。
佳代も、転職先は薄給の介護施設。もともと散財する性格ではないが、根本的に実入りが少ない。2人の生活状況は一概に社会のせいではないのだが、給料日前の懐事情から、ビールをあおって社会の愚痴をこぼしたい気分だ。
2人とも暢気なもので、コンビニで買った簡単なおつまみの袋菓子数個に手を付けなくても、パソコンに映るメニュー表を品定めしているだけで十分ビールを飲むことができた。
どの会社もバラエティーに富んでいるし、見た目もだいぶ違う。だがよく見ると、料理自体は会社間でそれほど差異が大きいようには思えない。
「ねえ佳代、この会社のはお子様ランチのようね」
「器が違うからかな、楕円形だからそう見えるのかも」
「佳代も私も気に入っていた会社のは正方形で隙間が多かったけど、これは隙間がないから、さびしい感じがしないわね」
「冷凍だから、コンパクトな方が助かる。
注文個数も最低数があるみたいだし、正直うちの(冷凍庫)じゃ無理だわ」
最初の予定では3個頼もうと考えていた佳代は、1人暮らし用の小さな冷蔵庫を見やって注文を躊躇した。
「いいじゃん、冷蔵で。
死にはしないし」
あえておかずだけのを選んだ。ご飯は家で簡単に炊ける。今はとがなくても炊けるから、あえて外に頼まなくてもいい。栄養バランスを考えると、白米の割合が多すぎるとも思う。
通常のお弁当の他に飲み込む力が弱い人向けの柔らかいお弁当もあったが、自分たちのご飯として食べるのだから、それらは選ばなかった。
土日休日の注文は平日に処理されるため、配達日は早くても火曜日から設定できるようだ。
佳代は17時までの勤務だし、月曜日なら千里は残業にはならないので、どちらが受け取っても良かったが、念のため佳代が受け取ることにし、配達時間は残業となった場合でも受け取れるであろう19時以降でお願いした。
最初に見た正方形のお弁当箱を使用した会社のホームページに戻り、注文フォームを開き、数は10個頼んだ。しかし、冷凍庫には3つか4つしか入らない。2つは、その日の夕食になるため、残り8個の半分を千里に持って帰ってもらうことにした。
佳代の家で3回、千里の家で2回の試食会を開くことにし、それが全部食べ終わったら、今日見た他の会社のも頼む算段というわけだ。
「当分は、豪華な食事にありつけるわ。
月曜日は、ここに泊まっていいでしょう?」
月曜の夕食、火曜日の朝食と夕食にお弁当を食べようというのだ。火曜日の夕食後2人で千里の家に行き、今度は佳代が泊まって水曜日の朝食と夕食に食べようという千里の提案に、佳代は少しためらいを覚えた。
「とけちゃうよ、再冷凍とかしたら味が悪くなるかもしれないし、持って帰る時、液だれしないかな?」
千里は少し考えて、自らが出した提案を引っ込めた。
最終的に、月曜日の夕食を食べたら千里はお弁当の一部を持って帰宅し、火曜日の夕方にもう一度来て夕食を食べて1泊、水曜日に3個目を食べる。そして、佳代は水曜日の夕方に千里の家に行ってお弁当を食べ、1泊した後、朝食に最後のを食べる。
高校からの付き合いだし、社会に出てからも友達関係はずっと続いていたが、2人にとってこのような経験は初めてだった。少しはしゃぎたい気分だ。
好みの問題なのか、2人ともコンビニのお弁当はあまり好きではない。チキンを使ったサラダやパウチのお惣菜はおいしいと思うが、お弁当箱に盛られていないと、食べたいという気持ちがあまり湧かず、手を出すことはない。
もともと簡単な自炊をする佳代にとって、コンビニのお惣菜の量は量と金額が見合わないのだ。
千里にしても普段はジャンクな食生活だから、お惣菜に手を出すこともない。
イタリア料理が好きであったから、以前コンビニのパスタを使ったサラダを試しに食べて、とてもおいしいと佳代にも勧めたことがあった。しかし、普段の食事にお金をかけるなら、飲み会や佳代との食事にとっておいた方が良い、と考えていた。
注文を終えた後は、おつまみを食べながら他愛もないおしゃべりをし、ビールが切れるのを合図に千里は帰って行った。
すでに9時を過ぎていた。ターミナル駅から1駅とはいえ、古くからの住宅街が広がるこの辺りは夜になると大分暗く感じる。街灯があるから、物理的な意味で暗いというわけではないのだが、人通りがとても少なくなるので、心なしか暗く感じるのだ。
佳代の自宅は駅から数分の距離にあるため、酔った千里の独り歩きでも心配する必要はなかったが、それでも佳代は共用廊下に出て、千鳥足で駅へ向かう千里を見送った。
千里の自宅は、目黒駅から大分離れていた。目黒通りと山手通りが交わる交差点を目黒警察署方面に行ったところにあり、徒歩なら1時間近くもかかる。道のりの大半は通り沿いなので安心なのだが、自宅付近の100m程度は通りからそれる。それだけが佳代の気がかりだった。
何かあったらすぐに連絡して、と千里には重ね重ね伝えていたので、彼女が自宅につく時間までは度々スマホを見やる。
帰宅した頃合を見計らい佳代が電話をかけると、ちょうど大通りからそれたところだったので、自宅につくまで会話を続けた。そして、千里が玄関に入ったところで「おやすみ」を言って、電話を切った。
今日も無事に1日が終わってホッとする佳代であった。
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