8 / 33
7 妨碍の悪魔 ~繰り返せば傷は膿み、取り返しがつかない腐肉と化す~
しおりを挟む
強い癖のある濃い灰色の髪は、クネクネと揺らいでいます。鋭い眼光を放つ切れ長でとても垂れた目に目玉は1つずつしかないのに、小さな黒目は沢山あって、それぞれが別々に躍動して色々な方向を見ていました。
虫の足をつなげて編んだ帷子は黒光り、我は王者なりと叫んでいるかのようです。この鎧は、虫の里のカブトムシの神々の亡骸で作られていたからです。死んで消滅する前に呪縛したのでした。
腰の前と横には、カブトムシの羽で作った腰当があって、左右には、大きく波打ったサーベルをぶら下げています。これは、大クワガタの神のあごから作られていました。
カブトムシもクワガタも天界側の神様ですが、先の天魔戦争で皇子に敗れ、武器コレクションにされてしまったのです。
当時の虫の主神であるヘラクレスオオカブトのアーノルドの善戦よって、なんとか悪魔軍を押し返すことが出来ましたが、多くの上位神が死んでしまいました。それほど、悪魔の皇子は恐ろしい相手でした。
バラは悲壮に顔を歪めて、城を取り囲む数多の悪魔を見渡しました。
空も地平線も見えないほどに埋め尽くされています。1人1人の魔気は小さく、バラの神気と比べれば取るに足りません。神気を発して、腕を振るえば、一薙ぎに出来るでしょう。
ですがバラに戦意は湧きません。心が折れてしまっていたからです。
最初に攻めてきたのは、沢山のコウモリの一団でした。バラの蜜や茎を流れる水を吸い上げて、枯らそうとしたのです。
コウモリの殆どは妖魔で、バラから見ればたいした事がありません。お堀に施されている睡蓮の結界も破る事ができないでしょうから、気にも留めませんでした。
もともと姫の一部でしたが、今は独立した精霊の宿った睡蓮です。ですから、コウモリが結界に接触したところで、姫を煩わせるとこはありません。
バラは、魔界の軍勢が花の里を侵略してきたことを姫には言わず、いつもの様に楽しく過ごしながら、同時に城の外でコウモリを薙ぎ払いました。
次に押し寄せてきたのは、ムクドリの一団でした。大群で押し寄せ、イバラに巣をつくり、フン害で腐らせてしまおうとしたのです。
黒い塊になって、ウネウネと空を飛び回るムクドリの妖魔達は、散開したり集合したりを繰り返しながら、上手くバラの攻撃をよけました。
バラが眷属の子供達を押し出して攻めかかろうとすると退き、城に戻そうとすると攻めてきます。
バラもバカではありません。ムクドリを率いる悪魔は自分をおびき出そうとしているのだと考え、バラの騎士団を出陣させずに城のそばに留め置きます
しかしムクドリは諦めません。夕方になると、城の周りに生えている木や裏の林や森を寝床にして、永遠と叫び続けています。
日中はバラの周りを飛び回り、夜はうるさく騒ぎ立てているので、バラの騎士団は日夜心が休まりません。戦わずにして、段々と疲弊していったのです。
城下町はバラの保護下にあって、悪魔達は侵入してこられません。とても香りが強くて、しかも濃厚なバラの神気が充満していたからです。ですが、ムクドリたちの鳴き声がうるさくて夜も眠れません。ひねもす響く絶叫に、みんなはへきへききていました。
城下に住む有力な神々が、連盟の嘆願書を持って来て言いました。
「バラ様、どうかお願いでございます。閣下のお力で、あの忌々しいムクドリを退治していただけないでしょうか。
あのように日夜奇声を発せられると、気が変になってしまいそうです」
城のそばにある役所として使われていた小さなお城で、それを聞いたバラは何とか町の平穏な夜を守らなければならないと思いましたが、兵法上は攻めるのは得策ではありません。
そもそも、城攻めは攻める方の分が悪く、少なくても3倍の兵士が必要と言われているほどですから。バラは、接近してくる敵を城から攻撃してうち滅ぼし、兵士達に野戦をさせない方が良いと考えていたのでした。
ですがムクドリの鳴き声は、日に日に増していきました。最初に攻めてきたコウモリたちも加わって、ギーギー鳴いています。林や森の精霊達も鳴き声や糞害に困り果て、バラに助けを求めました。
それに加えて、アブラムシの悪魔が率いる歩兵団が進軍してきている、と戻ってきた斥候隊が報告してきたのです。
バラは考えました。ムクドリは自分をおびき出して、伏兵のアブラムシの歩兵団に包囲させる気だったのだと。自分が出陣しない事にしびれを切らせて、正面から攻撃を始めるのだと思いました。
アブラムシの悪魔たちを含めても、まだ、バラの騎士団の数の1/4にも満たない勢力です。囲まれれば、多くのバラの花が落とされたかもしれませんが、正面から攻め来るのであれば、騎士団の突撃で蹴散らす事が出来るでしょう。
バラは、自信満々で言いました。
「親愛なる我が子らよ、聞け。
今日は素晴らしき良き日である。
皆の初陣の日であり、勝利の日となるからである。
美しき花の里に攻めてきた事、そして、姫の騎士たる我々に刃を向けた事を後悔させてやろうではないか」
眼下に広がる隊列は雄叫びをあげて、バラの主神に応えます。
「皆の者、出撃だ!」
3個大隊のアブラムシが丘を登って進行してきます。その上には、ムクドリの2個大隊が飛んでいました。かく乱の為でしょうか、コウモリの1個大隊は、バラバラになって無秩序に飛んでいます。
斥候兵から敵の陣形を聞いたバラは、松の神から借りた兵法書に従って軍勢を地上と上空の2師団に分けました。戦になってしまう事に、もはや何の躊躇もありません。
この時、バラは気が付いていませんでした。城下町や森に対して行われていた嫌がらせは、ひとえにバラを城の外へおびき出すためだけを目的に行われていたという事を。
虫の足をつなげて編んだ帷子は黒光り、我は王者なりと叫んでいるかのようです。この鎧は、虫の里のカブトムシの神々の亡骸で作られていたからです。死んで消滅する前に呪縛したのでした。
腰の前と横には、カブトムシの羽で作った腰当があって、左右には、大きく波打ったサーベルをぶら下げています。これは、大クワガタの神のあごから作られていました。
カブトムシもクワガタも天界側の神様ですが、先の天魔戦争で皇子に敗れ、武器コレクションにされてしまったのです。
当時の虫の主神であるヘラクレスオオカブトのアーノルドの善戦よって、なんとか悪魔軍を押し返すことが出来ましたが、多くの上位神が死んでしまいました。それほど、悪魔の皇子は恐ろしい相手でした。
バラは悲壮に顔を歪めて、城を取り囲む数多の悪魔を見渡しました。
空も地平線も見えないほどに埋め尽くされています。1人1人の魔気は小さく、バラの神気と比べれば取るに足りません。神気を発して、腕を振るえば、一薙ぎに出来るでしょう。
ですがバラに戦意は湧きません。心が折れてしまっていたからです。
最初に攻めてきたのは、沢山のコウモリの一団でした。バラの蜜や茎を流れる水を吸い上げて、枯らそうとしたのです。
コウモリの殆どは妖魔で、バラから見ればたいした事がありません。お堀に施されている睡蓮の結界も破る事ができないでしょうから、気にも留めませんでした。
もともと姫の一部でしたが、今は独立した精霊の宿った睡蓮です。ですから、コウモリが結界に接触したところで、姫を煩わせるとこはありません。
バラは、魔界の軍勢が花の里を侵略してきたことを姫には言わず、いつもの様に楽しく過ごしながら、同時に城の外でコウモリを薙ぎ払いました。
次に押し寄せてきたのは、ムクドリの一団でした。大群で押し寄せ、イバラに巣をつくり、フン害で腐らせてしまおうとしたのです。
黒い塊になって、ウネウネと空を飛び回るムクドリの妖魔達は、散開したり集合したりを繰り返しながら、上手くバラの攻撃をよけました。
バラが眷属の子供達を押し出して攻めかかろうとすると退き、城に戻そうとすると攻めてきます。
バラもバカではありません。ムクドリを率いる悪魔は自分をおびき出そうとしているのだと考え、バラの騎士団を出陣させずに城のそばに留め置きます
しかしムクドリは諦めません。夕方になると、城の周りに生えている木や裏の林や森を寝床にして、永遠と叫び続けています。
日中はバラの周りを飛び回り、夜はうるさく騒ぎ立てているので、バラの騎士団は日夜心が休まりません。戦わずにして、段々と疲弊していったのです。
城下町はバラの保護下にあって、悪魔達は侵入してこられません。とても香りが強くて、しかも濃厚なバラの神気が充満していたからです。ですが、ムクドリたちの鳴き声がうるさくて夜も眠れません。ひねもす響く絶叫に、みんなはへきへききていました。
城下に住む有力な神々が、連盟の嘆願書を持って来て言いました。
「バラ様、どうかお願いでございます。閣下のお力で、あの忌々しいムクドリを退治していただけないでしょうか。
あのように日夜奇声を発せられると、気が変になってしまいそうです」
城のそばにある役所として使われていた小さなお城で、それを聞いたバラは何とか町の平穏な夜を守らなければならないと思いましたが、兵法上は攻めるのは得策ではありません。
そもそも、城攻めは攻める方の分が悪く、少なくても3倍の兵士が必要と言われているほどですから。バラは、接近してくる敵を城から攻撃してうち滅ぼし、兵士達に野戦をさせない方が良いと考えていたのでした。
ですがムクドリの鳴き声は、日に日に増していきました。最初に攻めてきたコウモリたちも加わって、ギーギー鳴いています。林や森の精霊達も鳴き声や糞害に困り果て、バラに助けを求めました。
それに加えて、アブラムシの悪魔が率いる歩兵団が進軍してきている、と戻ってきた斥候隊が報告してきたのです。
バラは考えました。ムクドリは自分をおびき出して、伏兵のアブラムシの歩兵団に包囲させる気だったのだと。自分が出陣しない事にしびれを切らせて、正面から攻撃を始めるのだと思いました。
アブラムシの悪魔たちを含めても、まだ、バラの騎士団の数の1/4にも満たない勢力です。囲まれれば、多くのバラの花が落とされたかもしれませんが、正面から攻め来るのであれば、騎士団の突撃で蹴散らす事が出来るでしょう。
バラは、自信満々で言いました。
「親愛なる我が子らよ、聞け。
今日は素晴らしき良き日である。
皆の初陣の日であり、勝利の日となるからである。
美しき花の里に攻めてきた事、そして、姫の騎士たる我々に刃を向けた事を後悔させてやろうではないか」
眼下に広がる隊列は雄叫びをあげて、バラの主神に応えます。
「皆の者、出撃だ!」
3個大隊のアブラムシが丘を登って進行してきます。その上には、ムクドリの2個大隊が飛んでいました。かく乱の為でしょうか、コウモリの1個大隊は、バラバラになって無秩序に飛んでいます。
斥候兵から敵の陣形を聞いたバラは、松の神から借りた兵法書に従って軍勢を地上と上空の2師団に分けました。戦になってしまう事に、もはや何の躊躇もありません。
この時、バラは気が付いていませんでした。城下町や森に対して行われていた嫌がらせは、ひとえにバラを城の外へおびき出すためだけを目的に行われていたという事を。
0
あなたにおすすめの小説
少年騎士
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
大人にナイショの秘密基地
湖ノ上茶屋
児童書・童話
ある日届いた不思議な封筒。それは、子ども専用ホテルの招待状だった。このことを大人にナイショにして、十時までに眠れば、そのホテルへ行けるという。ぼくは言われたとおりに寝てみた。すると、どういうわけか、本当にホテルについた!ぼくはチェックインしたときに渡された鍵――ピィピィや友だちと夜な夜な遊んでいるうちに、とんでもないことに巻き込まれたことに気づいて――!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる